【インタビュー】「水素の基礎研究から実証、人材育成、啓蒙まで一貫して取り組む」 九州大学水素エネルギー国際研究センター 藤田美紀・学術研究員

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⑤「アジア太平洋水素サミット&展示会」出展者に聞く

九州大学の藤田美紀・学術研究員

 水素エネルギー社会に資する取り組みやイノベーションについて、「アジア太平洋水素サミット&展示会」に出展した福岡県の産官学の関係者に話を聞いた。(聞き手:ジャーナリスト・守屋太郎)

守屋:九州大学が長年、取り組んできた水素エネルギー研究の強みは?

藤田氏:私たちはどこよりも早く、2003年から水素エネルギーの研究に打ち込んできました。これまでに蓄積した知見は大きな強みだと考えています。また、伊都キャンパス(福岡市の中心から西へ車で約30分)内で、水素の基礎研究から実証までを一貫して行えるのも特長です。現在、200名近くの研究者や学生、スタッフが水素の研究、実験に関わっています。

守屋:基礎研究から社会実装までのプロセスをワンストップで手がけているわけですね。

藤田氏:実証面の取り組みの1つとして、川上から川下まで、一貫した水素エネルギーのサプライチェーンをキャンパス内に構築しています。太陽光・風力発電といった再生可能エネルギーで水素を製造する施設や、2005年から稼働している水素ステーション、水素で走る燃料電池車の運用まで、トータルで実践しています。トヨタやホンダの燃料電池車4台を導入し、燃料電池バス1台も運行させています。

 さらに、水素エネルギーを専門に学ぶ大学院「水素エネルギーシステム専攻」を2010年に設置しました。研究だけでなく、将来の水素エネルギー社会において、知識や技術を生かして働くことのできる人材の育成にも力を入れています。

守屋:水素には課題も少なくないですが、将来に向けた展望をお聞かせください。

藤田氏:社会実装の加速度的な進展はなかなか難しいところですが、かつて石炭から石油に移行したように、エネルギーのパラダイムシフトは100年、150年といった時間軸で起こるものです。皆さんが広く水素を使ってもらえる社会が訪れるよう、九大は設備や機器の低コスト化につながる材料の研究開発にも注力しています。

 加えて、将来、水素を利用する皆さんに水素エネルギーへの理解を深めてもらうことも大切だと考えています。そのため、施設見学などを通した「アウトリーチ活動」にも力を入れています。伊都キャンパスに来て、実際に水素が「作られ、使われる」現場を体験してもらうことで、将来の水素エネルギー社会を具体的にイメージしてもらうことができます。そうした体験を通じて、「水素のファン」になってもらうことが、社会受容性の向上にもつながると考えています。

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