日豪プレス・インターンシップ・プログラム取材記事①

日本の観光を海外に発信する日本政府観光局(JNTO)シドニー事務所は、オーストラリア市場に向けて日本の魅力を発信している。2025年、シドニーからの訪日外国人数は100万人を達成。オーストラリアは国別訪日者数ランキングで7位に位置する重要市場だ。観光庁から10カ月前に着任した北野実咲次長に、これまでの取り組みと今後の課題、そして注目されるオーバーツーリズムへの対応について話を伺った。
(文・写真=篠崎快、成瀬颯大、櫻井愛実、中條聖花)

日本におけるJNTOの役割と会員制度
日本を豊かにするJNTOの活動
JNTOは、日本の観光をプロモーションし、観光を通じて日本経済を豊かにすることを目的とする公的な専門組織だ。主な財源は観光庁からの運営費交付金(税金)だが、自治体や民間企業の賛助団体・会員制度も運営し、活動財源の一部としている。訪日外客数のデータは、法務省(出入国在留管理庁)の統計を基に算出し、毎月公開。市場分析に活用されている。北野さんが所属するシドニー事務所は、オーストラリア市場における日本観光プロモーションを担当。JNTOのオフィスがないニュージーランドを含む大洋州地域を管轄している。
メリットの多い会員制度
JNTOの会員制度は、訪日インバウンドを拡大するための展開を支援する制度。会員となった自治体や企業のの情報を現地市場で発信し、認知拡大につなげている。また、海外旅行会社とのセールスのための支援や、賛助団体・会員専用サイト、メールマガジンなどを通じた市場動向のマーケットデータや商談会などの情報の提供を行っている。
JNTOがイベントを実施する理由と意義
企業向けイベントの展開
シドニー事務所では、自主開催だけでなく、他団体主催の商談会にも参加している。旅行会社やメディア関係者を日本へ招くファムトリップも実施。企業研修旅行や国際会議などMICE分野を中心とするオセアニア最大級のBtoB商談会「AIME」や高付加価値系のBtoBイベントに参加し、日本の観光情報やDMCの紹介を行っている。
JNTOシドニー事務所主催「Japan Roadshow」
シドニー事務所では年2回、複数都市でBtoB商談会「Japan Roadshow」を開催してきた。自治体、宿泊事業者、DMO、体験型コンテンツ事業者などが参加し、地域バランスも考慮して構成される。最大のメリットは、現地の旅行会社に日本のまだ知らない地方の魅力を知ってもらい、日本側の出展者とのネットワークを作ってもらうことで更なる地方商品の造成につながる点だ。参加者からの評価も高く、今後は他都市展開も視野に入れている。

JNTOが考えるオーバーツーリズム対策とは─カギはSNSと地方分散
近年、東京・大阪・京都などの有名観光地では外国人観光客が集中し、宿泊予約の困難化などオーバーツーリズムが課題となっている。JNTOも、この問題を強く意識しているという。
地方誘客のカギはSNS
外国人観光客の間では、いわゆる「穴場スポット」への関心が高まっている。実際、TikTokやInstagramを見せながら、「ここに行ってみたい」と相談する旅行者も多いそうだ。
未知の地域を一方的に紹介するのは難しいが、SNSで視覚的に魅力を届け、関心を持ってもらう“入り口”を作ることが有効だと北野さんは語る。
分散の方向性は「季節」と「滞在の長期化」
地方分散には2つの方向性がある。
1つ目は「季節分散」。オーストラリア市場では、12月から2月のスキー・シーズン、次いで4月の桜シーズンに訪日が集中する。そこで、夏や秋など別の季節の魅力を発信し、年間を通じて平準化することが重要だ。
2つ目は「滞在の長期化」だ。初訪日はゴールデンルートに集中するのは自然だが、リピーター層が滞在を延ばせば、地方訪問の余地が生まれる。統計上、オーストラリア人観光客は平均約2週間滞在しており、地方誘客との相性は良い。
インバウンド拡大において「人数」と「質(消費額・宿泊数など)」のどちらを重視するのかという問いに対しては、「どちらも重要」であるが、特にオーストラリア市場は消費額が高い傾向があり、長期滞在による経済波及効果も期待できることから、質の向上が重要になってくるという回答だった。
オーバーツーリズムが課題となる現在、JNTOのプロモーションは「地方誘客」を軸に、分散と持続可能な観光につながる形を目指していることが取材から見えてきた。
今後の課題と取り組み
イベントの継続展開
これまでも参加してきたスキー関連イベント「Snow Travel Expo」などへの出展を通じて、一般消費者との直接接点は継続していきたいという。また、「Japan Roadshow」などの旅行会社向けの商談会も継続的に実施し、日本とオーストラリアの観光業界のネットワーキングを強化していく。
地方誘客の推進とプロモーション強化
JNTOの最大の目標は地方誘客。主要都市集中をどう分散していくかが今後の重要課題だ。そして、SNSフォロワーの増加を目指し、魅力的なコンテンツ制作を強化。更に、旅行会社との共同広告展開により、認知拡大を図る。
訪日100万人時代を迎えたオーストラリア市場。滞在期間が長く、消費額も高いという特性は、日本観光にとって大きな強みだ。オーバーツーリズムが課題となる現在、JNTOシドニー事務所の取り組みは「地方誘客」と「持続可能な観光」を軸に、分散型モデルを目指している。

取材を終えて
取材するにあたり、最初は質問が上手く浮かばずに、記者という仕事の大変さを身をもって体験することができた。また、事前に準備することの大切さをインタビューを通して学ぶことができた。相手に興味を持ち、なぜインタビューし、何を聞きたいのかを理解しておくことがより良いインタビューにつながるということが分かった。今回は1人ではなく4人での協働だったので、1人ひとりの役割を全うすることができたと思う。インタビューや記事作成という仕事を経験したことで、より将来の選択肢が広がったと感じた。
(篠崎快)
今回の取材を通して、JNTOが単に訪日客を増やすことだけを目指しているのではなく、「どのように広げていくか」を強く意識していることが印象に残った。オーバーツーリズムという課題に対し、整備ではなくプロモーションという立場から「分散」という形で向き合っている点が興味深かった。また、SNSを活用して未知の地域の魅力を伝えようとする姿勢からは、時代に合わせて手法を変えながら地方誘客を進めている様子も感じられた。観光を「増やす」だけでなく、「広げる」という視点の重要性を学ぶ機会となった。この貴重な経験を通して、これからの進路や自分の考え方につながることがたくさんあると思い伺ったお話を、頭に留めて今後の活動に生かしていきたいと思った。
(成瀬颯大)
今回の取材を通して、JNTOシドニー事務所では、1つの課題に対して柔軟に手法を変えて対応していることが分かった。特に、オーストラリア市場の好みや流行、季節ごとの需要を把握し、それに合わせてSNS発信やイベントへの出展など多角的なプロモーションを行っている点が印象的だった。また、主要都市への集中や季節偏重といった課題にも戦略的に対応しており、地方誘客の目標に向けた具体的な取り組みを知ることができた。北野さんの話から、訪日外国人を増やすための分析と実践の奥深さを実感し多くのことを学ぶ貴重な経験となり自分自身も課題解決のアプローチや柔軟な発想の重要性を改めて考える機会になった。
(櫻井愛実)
北野さんの話から、JNTOシドニー事務所が日本観光の魅力をオーストラリアの方々に伝えるためにさまざまな角度から発信していることが分かった。昨年オーストラリアからの訪日数が100万人を突破した理由には、JNTOシドニー事務所の取り組みがとても大きかったのではないかと取材を通して感じた。現在取り組んでいる「地方誘客」に向けてプロモーションをSNSやイベントなどを通してどのように行っているのかを具体的に聞くことができ、日本観光についてはもちろん、外から日本を見る視点に興味を持った。特にこれまで触れてこなかった企業に向けてのイベントについて、目的から成果まで1つひとつの理由も含め聞くことができ関心が広がった。
(中條聖花)
Japan National Tourism Organization (JNTO)
Web: https://www.japan.travel/en/au/
※同記事は、2月16日から2週間にわたり、日豪プレスのインターンシップ・プログラムに参加した東京経済大学の学生7人が取材しインタビューを行ったもので、下記より他の記事も確認できる。