州最高峰NPLでのプレーを夢見た2年を経て、若きフットボーラーが見つけた目指すべき人生の「目標」/日豪フットボール新時代 第164回

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マウントグラヴァット・ホークス時代の渡。視線の先にいつも憧れのNPLを捉える(Photo: 本人提供)

「NPLでプレーしたい」。

 ワーキング・ホリデーで豪州に来たばかりの20歳の若者が真剣な顔で言う。しかし、現実はそんなに甘くない。その発言の主が、州のトップ・リーグNPLから数えて3つ下のリーグのクラブに入団直後となればなおさらだ。そんな無謀とも言える目標を披露したのが、キリっとした表情が印象的な渡颯太(22)。今から2年前の話だ。法政大学の同好会でプレーしていたという彼は、練習参加でも鋭い動きを見せ、クラブも早々に獲得を決めた。それでも、1年ないしは2年のワーホリ期間中に3回の個人昇格が必要なNPLでのプレーを実現させるのは、かなり野心的な目標設定なのは言うまでもない。

 2年前、息子がプレーしていたクラブの練習に突然現れた日本人に興味を持って話を聞いた際に飛び出したのが冒頭のセリフ。既にシーズンが始まっていたブリスベンでブレー機会を得るため、あらゆるクラブにメールやSNS経由のDMを送ったが数件しかレスポンスがなかった。その中で具体的な練習参加を許してくれたのが入団したマウントグラヴァット・ホークス(FQPL3)だけだった。コネなしツテなしの成り上がりストーリーのスタートは決して悪いものではなかったが……。

 ここから時計の針を一気に2年ほど進めよう。より良いプレー機会を得るためのFQPL3での移籍を経て、開幕直後の今季も同じクラブでプレーしていた渡。結果的に個人昇格は果たせないままに、ワーキング・ビザの期限が切れた今、既に日本に帰国している。

 そんな彼に帰国直前に話を聞いた時、「NPLの夢はもうあきらめたのか」と少し意地悪な質問をぶつけた。大きく首を振り「あきらめていません」と否定してから、自分が置かれた現在の状況を包み隠さず話してくれた。2年の滞在でこの国が本当に好きになったこと、ずっと一緒にいたいと思う人に出会えたこと、生活の糧を稼ぐために始めた建設関連の仕事で永住権を取ろうと努力していること……。もちろん、フットボールもあきらめるつもりはないと。帰国後は、あと2年での大学卒業を目指すと同時に、ビザ取得につながる鳶職の経験を得るために学業と仕事を両立させ、その合間に可能な限りボールも蹴るという。そんな3足のわらじを履きながら、1日でも早くブリスベンの地に戻って来るとキッパリ。

 再び、この地に戻ったら、あらためてNPLを目指すのか重ねて問うと、「まだ若いですからチャンスはあるはず」と屈託ない。こういう良い意味での思い込みが案外良い結果を引き寄せることもままある。

 一本気な若者の大いなる挑戦、静かに見守りたい。

植松久隆(タカ植松)

豪州ブリスベン在住のライター/コラムニスト。日豪フットボール関係を軸に現地視点でフットボールの背景と熱量を描く、スタジアムとコミュニティーを往復する観測者。当コラム「日豪フットボール新時代」は日豪プレスの全国版、QLD版紙面に異なる内容を更新していた時代から数え、14年間で優に300回は超えた





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