違いを越え、多文化が響き合う!─「それでも私は立ち上がる(And Still I Rise)」が開催中/NSW州立美術館ボランティア・日本語ガイド便り

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執筆者=チョーカー和子

 展覧会のタイトルは、作家であり、公民権運動家でもあるマヤ・アンジェロウ(Maya Angelou)の有名な詩集から引用されたもので、平等が達成され、差別などなくなったはずの世の中で、現実に今も戦っている女性たちの確かな決意が感じられる言葉です。

 多文化社会オーストラリアで「差異」の本質に向き合い、多様なアイデンティティーを表現する女性アーティスト20人による本展覧会。今回は展示の中心となる3人のアーティストを紹介します。

Installation view of the ‘And Still I Rise’ exhibition, featuring Suzann Victor ‘Sea lantern II’ 2025, courtesy the artist © Suzann Victor, photo © Art Gallery of New South Wales, Mim Stirling

スザン・ヴィクター(Suzann Victor)

「海の灯籠 II 2025 Sea lantern II 2025」

 シンガポール生まれで1996年からブルー・マウンテンズを拠点に活躍するヴィクターの大型キネティック・インスタレーション『海の灯籠 II 2025』は、東南アジアにおける植民地時代の図像(イメージ)を問い直す意欲作。フレネルレンズを用いたこの作品は、見る者の視覚に揺さぶりを掛けます。レンズが植民地時代の絵葉書の一部を拡大し、そこに隠された歴史─あるいは私たちが無意識に見過ごしてきたもの─を白日の下にさらけ出します。

 ヴィクターは、この歴史的イメージを現代のソーシャル・メディアにも通じる「好奇心の対象」として再解釈。絵葉書が持っていた視線の力、そして「見る/見られる」関係を、光とレンズを用いたインスタレーションとして現代に問い掛けます。

Installation view of the ‘And Still I Rise’ exhibition, featuring Jenna Mayilema Lee ‘maan-ma danala: birdim-ba (language dillybag: steady persistent rain)’ 2025, courtesy the artist © Jenna Mayilema Lee, photo © Art Gallery of New South Wales, Mim Stirling

ジェナ・マイレマ・リー(Jenna Mayilema Lee)

「マーン・マ・ダナラ:バーディム・バ(言葉・ディリーバッグ:降りしきる雨)2025 maan-ma danala: birdim-ba(language dillybag: steady persistent rain)2025」

 リーはアイルランド、日本、中国など多様なルーツを持つ先住民アーティストで、古い辞書や歴史的な文書を素材として再構築するスタイルで知られ、先住民の言葉と日本の和紙技術を融合させた独自の表現を追求しています。

 今回のインスタレーションは、紙の彫刻と、彼女の兄弟が録音したダーウィンの雨の音、そして父親がささやくララキア語のサウンドスケープを通じて、季節の移り変わりを表現しています。

 雲のように浮かぶ網袋(ディリーバッグ)と下から生え出ているように見えるデイジーは、1970年代に編纂された辞書のページから作られています。その辞書は先住民言語が持つ、本来の広がりや深み、ニュアンスを誤って伝えているとされています。

 彼女のアート・スタイルは非常に繊細で、単なる視覚的な美しさだけでなく、「言葉の重み」や「歴史の書き換え」という強いメッセージが込められています。

Installation view of the ‘And Still I Rise’ exhibition, featuring Haji Oh ‘Memories with the colour of emptiness (Sydney/Wollongong)’ 2024-2025 and ‘Ama’s home/boat floating on memory with the colour of emptiness’ 2018, courtesy the artist © Haji Oh, photo © Art Gallery of New South Wales, Mim Stirling

ハヂ・オ(Haji Oh)

「空白色の色を帯びて記憶の上に浮かぶアマの家/舟 Ama’s home/boat floating on memory with the colour of emptiness)」

「空白色の色をした記憶 Memories with the colour of emptiness)」

 1930年代に済州島から大阪へ移住した家族を持つ在日韓国人3世のアーティスト、ハヂ・オはウーロンゴンを拠点に活躍しています。染色、織物、糸を解きほぐすテキスタイルの技法に加え、写真や音声を組み合わせたインスタレーションを通して、家族の歴史や自身のルーツを静かに掘り下げています。

 太陽光に当たると青く感光するサイアノタイプ染を施した布地を通して立ち上がる世界。歴史の中で見過ごされてきた女性たちの日々の営みや労働を丁寧にすくい上げ、アイデンティティー、また女性のしなやかな強さについて深い問いを投げ掛けます。

 シドニーとウーロンゴンではワークショップを開催し、参加者が持参したドイリーを「記憶のしるし」とし
そのさまざまなモチーフをもとに制作。これらを通して「記憶」や「失われたもの」をめぐる異文化間の個人と集団の歴史が静かな合唱を奏でています。

 本展は、オーストラリアという国が抱える多層的なアイデンティティーを、女性アーティストたちの視点から再発見する場となっています。言葉を超えて響く彼女たちのメッセージを、ぜひ会場で受け取ってみてください。

それでも私は立ち上がる(And Still I Rise)
開催日時:開催中〜2027年1月10日まで
入場料:無料
会場:Naala Nura(南本館) アジア・ランターン・ギャラリー地上階

常設展:無料日本語ハイライト・ツアー
【Naala Nura(南本館)】
毎週金曜日午前11時から。集合場所はインフォメーション・デスク前
【Naala Badu(北新館)】
毎週日曜日午後1時から。集合場所はエントランス・パビリオン

Art Gallery of NSW

ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州立美術館。南本館に加え、日本人建築家ユニットSANAAのデザインによる北新館が2022年12月に新築オープンした。常設展は入場無料。

開館時間:10AM~5PM(水曜日のみ10PMまで)。
Web: www.artgallery.nsw.gov.au
日本語サイト:www.artgallery.nsw.gov.au/visit/plan-your-visit/information-in-other-languages/japanese

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