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回顧と展望2021 / 為替、会計・税務

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回顧と展望2021

為替

高橋俊之

三菱UFJ銀行
マネージング・ダイレクター
オセアニア・グローバル・マーケット責任者

高橋俊之

プロフィル◎1998年4月三和銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2000年よりデリバティブ、為替取引等のマーケット業務に従事。アジア金融市場部(香港、シンガポール)などを経て、2019年1月より現職。早稲田大学理工学部卒

2021年豪ドルは緩やかな上昇へ

 2020年は、世界各国がコロナ禍に揺れた歴史的な1年となった。長期化する新型コロナウイルスの影響は、我々の生活様式、働き方、価値観に至るまで、さまざまな変化をもたらした。

 年初こそ、新型コロナウイルスの影響は限定的と見ていた金融市場も、アジア・欧米を含め世界的な感染者数の拡大が報じられると市場はリスク回避へ傾斜、世界的に緊張感が高まった。3月に入ると、金融市場ではリスク回避の範囲を超え、金融危機に発展する事態も想定された。世界中でリスク性資産を手放しドル資金を確保する動きが為替市場に拡大。豪ドルは先進国通貨ながら実需ニーズが相対的に劣ることもあり格好の売り対象となった。豪ドルの下落スピードは速く、一時対米ドルで0.55台まで下落(対円では59円台)。1967年に通貨としての豪ドルが誕生して以来の安値を更新するのも時間の問題と思われたが、豪州の対応は早かった。豪州準備銀行は、臨時の理事会を実施し、政策金利引下げ、3年物国債利回りを目標とする資産購入政策(イールドカーブ・ターゲット)などの金融緩和パッケージを導入。各国中央銀行の連携によるドル資金供給強化も相次いで実施され、豪ドルは急速に反発し、8月にはコロナ禍前の水準を上回る0.73米ドルまで続伸。米大統領選ではバイデン候補の勝利が確実となった2020年11月現在、0.72米ドル付近で推移している。

 一方、豪州政府はコロナ禍対策として、事業者支援の雇用維持給付や、金融機関向けの3年物低金利貸出、個人への支援として退職年金の早期引き出し容認などの対策を迅速に行い、国内経済を支えた。

 さて21年の為替相場だが、豪ドルは対米ドルで緩やかに上昇すると見ている。依然としてコロナ禍にある現在の環境下では、世界的な低成長が続く可能性は高い。米大統領選挙で勝利を確実にしたバイデン政権に注目が集まる中、米ドルは輸出の減少などに伴う経常赤字拡大、コロナ禍対応の積極的な金融緩和策などを背景に、引き続き米ドル安が意識されやすいだろう。一方、豪州では、雇用創出と経済の回復が鍵となる。コロナ禍で失われた雇用の回復には時間が掛かるだろうが、政府、準備銀行、金融規制当局の連携により、経済は正常化に向かっている。国内での感染第3波がなければ、夏場の年末商戦は好調を期待でき、豪州の相対的な経済回復度合いが金融市場でも意識されそうだ。また、豪州は貿易、経常黒字構造を維持している。これは、潜在的な豪ドル高の圧力となる。もっとも、急激な豪ドル高進行には、当局の警戒感も強まるだろう。準備銀行は既に、豪ドルの流動性供給、資産買入、外国為替市場への介入といった抑制対策をとる可能性に言及しており、豪ドルの上値は抑えられる展開を予想する。

 豊富な天然資源を有し内需拡大を続けている豪州経済の底堅さに変わりはない。21年は力強い豪州経済の復活に期待したい。

会計・税務

菊井隆正

EYオーストラリア
パートナー/ジャパン・ビジネス・サービス
グローバル/アジア太平洋地域統括責任者

菊井隆正

プロフィル◎グローバル及びアジア・パシフィック地域日系企業担当部門代表。シドニー在住20年を超える。常に監査、会計、税務から投資まで広範囲にわたる最新情報を提供することで、世界で活躍する日系企業に貢献できるよう努めている

未曾有の事態に過去最大級の支援策で応じる連邦政府

 2020年は前年末から猛威を奮っていた森林火災という自然災害で始まり、その直後に発生した新型コロナウイルス感染症の拡大は医療や衛生上の問題に加え、サプライ・チェーンの寸断、経済活動休止による需要の消失など世界にさまざまな課題を突きつけた。ただ、オーストラリア政府の対応は早く、国境封鎖とロック・ダウンを実施し、雇用やビジネスへの対策を矢継ぎ早に打ち出した。

 3月末に発表された給与 補助金スキーム「ジョブ・キーパー」は、数々の景気刺激・支援策の中で雇用を守る中心的な役割を果たした。新型コロナウイルス感染症の影響を受けた企業、非営利団体、慈善団体を対象として、20年3月30日から最長6カ月間にわたり、従業員1人につき2週間ごとに1,500豪ドルを支給するというもの。現在減額されたものの、この措置は10月以降も延長され来年3月まで継続されることになった。

 毎年5月に発表されている連邦政府予算案は10月に延期され、その内容は予想通り経済の立て直しと個人消費の回復を支援する政策が多く含まれた。その目玉は個人所得税の減税で、昨年度の予算案で発表された低中所得者の減税計画の第2弾を前倒し、20年7月1日から遡及的に開始した。この第2弾は予算案が発表されてから3日後に議会を通過したため、恩恵をいち早く享受できた。

 一方、今回の連邦予算案はビジネスの投資やキャッシュ・フローを支援する政策も盛り込まれていた。本社・海外事業会社含むグローバル・グループ・ベースでの総売上高が50億豪ドル未満の企業への適用と限定されるが、減価償却資産の即時償却規定と税務欠損金の繰り戻し規定がこれらの政策の例として挙げられる。即時償却規定は20年10月6日以降に取得され、22年6月30日までに使用開始または使用可能な状態の新しい適格減価償却資産に対して適用可能となる。政府は更に、適用基準となる売上高が50億豪ドルを超えてしまう企業に対しても同措置の適用を拡大する新たな法案を12月2日に発表した。

 税務欠損金の繰戻し規定は法人事業体に対して適用となり、20年度から22年度に発生した税務欠損金を19年度から21年度の課税所得と相殺するために繰り戻すことが可能。この規定の適用により、対象となる過年度に支払われた税金の還付が可能となる。

 パンデミックは移民プログラムにも影響をもたらした。国境の封鎖により、財務省の見通しでは移民者数は今年度と来年度それぞれネットでマイナス約15万人と、約7万人の流出を予定している。移民による高い人口増加率は、常にオーストラリア経済の推進力となっていたため短期的には大きな経済問題となるであろう。

 日系企業にとっての喫緊の課題は入国規制措置の緩和だ。ビジネスの遂行に支障が出ている事や駐在員の心理的ストレスを考慮し、入国許可の緩和やその円滑化を期待したい。

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