ラグビー大国オーストラリアにおいて、近年、着々と人気を高めているサッカー。2013年にはアレッサンドロ・デル・ピエロなど世界のトップ・プレーヤー参入と共に、日本からレジェンド、小野伸二が参入。その後、本田圭佑参入などビッグニュースが続くと共に、日本人プレーヤーの評価も高まり、現在、下部リーグでは多くの選手が活躍している。本特集では、NSW州内のリーグで活躍する3人の選手に集まって頂き、それぞれのキャリアや現在の豪州サッカー事情について話を伺った。
(監修:馬場一哉、撮影:伊地知直緒人)
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──元サッカー日本代表・田代有三さんの立ち上げたサッカー・スクールMateFCでコーチを務めると共に、当地のサッカー・リーグで活躍する3人のサッカー選手に本日は集まって頂きました。中でも寺本さんは「九州男児Takao」として、サッカー選手の枠を超え、インフルエンサーとしても活躍されていますが、どのような経緯で現在に至ったのでしょう。
寺本:サッカー選手としてのキャリアは、大学卒業時に大分県でサッカー・チームを立ち上げたところから始まりました。サッカー協会の役員を務めながら、選手権監督としてチームの認知度を高めることに尽力しましたが、苦労の末、最終的には自分自身の幅を広げることが先決だと考え、29歳の時に思い切ってオーストラリアに来ました。
──大学卒業後、純粋に選手ではなく、マネジメント側からサッカーにアプローチをされた経緯は何だったのでしょう。
寺本:大学時にプロ・テストを受けませんでしたし、当時はまだJ3ができるかできないかというタイミングだったので、自分でチームを作れたら面白いのではないかと考えたんです。
田中:そうだったんですね。初めて知りました。チームを作った上に、代表、監督、選手、協会の仕事を兼任って普通の人にはできないですよね。
寺本:20代前半で、若かったからこそ始められたのかも。ちなみに当時作ったチーム、まだ日本にあるんです。ブルー・ウイングというチームで、ジュニアは全国大会にも出場する強豪になっています。
田中:すごいですね。チームはもう誰かに譲渡されたのですか?
寺本:オーストラリアに来る前に、後輩に代表権を渡し、僕はアドバイザーという形で名前だけ残っています。チームには将来的に何かしら恩返しをできたらいいなと考えています。
──海外に出ることを考えた時にオーストラリアを選ばれた理由は?
寺本:エージェントがスムーズに見つかったこと、あと、僕は夏が好きなので英語圏で暖かい国というのも決め手でした。
──サッカー選手を続けながら、一方で「九州男児Takao」としてさまざまな情報を発信されています。
寺本:自分のチームを運営していた時に、どうすればチームの認知度を高められるか悩んでいました。テレビ番組の夢応援プロジェクトのようなものに応募することなども考えていたのですが、ある時からなぜ、誰かのブランドに頼ろうとしているのかと疑問に思うようになりました。そこで自分をブランド化することを思い付いたのです。
──田中選手も動画の配信などがんばられていますが、コロナ禍で帰国しなかった唯一の女子サッカー選手と聞いております。
田中:もともとシドニーには7人の日本人女子サッカー選手がいたのですがみんな帰国してしまいました。ただ、私は2020年の1月末に覚悟を決めてオーストラリアに来たので、こちらで生き残りたいという思いを強く持っていました。
──逆に言えば、ぎりぎりのタイミングで来ることができたわけですね。日本から活躍の場をオーストラリアに移そうと考えた理由は何でしょう。
田中:中学時代から海外でサッカーをすることを夢見ていました。大学卒業後、なでしこリーグの東京電力女子サッカー部マリーゼというチームに5年間いたのですが震災をきっかけにチームがなくなり、1年間ベガルタ仙台レディースに在籍。その後横浜FCの女子チーム、ニッパツ横浜FCシーガルズに7年在籍しました。それらのキャリアを経て、日本でのサッカーに「やりきった感」を感じていました。そこで、念願の海外に目を向けたわけです。
──女子サッカーでは、小学校でサッカーを始めても中学生くらいになるとやめてしまう人が少なくないと聞きます。
田中:小さい頃から日本代表になりたいという目標があったので、辞めるという選択肢はありませんでしたし、中学時代にはアンダー世代の代表に選ばれる人が多いチームにいたので刺激を受け、夢中になることができました。環境の良さがあってこそだったとは思いますが私にとってサッカーは当然のように続けるものでした。
──続ける環境ということで言えば、サッカー指導者の父(昌裕)と、選手の兄(篤紀)を持つ和田選手はまさにサラブレッドと言えますね。
和田:幼すぎて記憶はあまりないのですが僕がサッカーを始めたのは3歳の頃でした。兄たちの練習に付いて行き、自然と始めました。中学の時にヴィッセル神戸ジュニアユース、高校ではヴィッセル神戸U-18に入り、そのままトップチームに入りました。
寺本:高卒でトップに上がるってすごい。その時だと、有三(田代)コーチと一緒だよね?
和田:はい、一緒でした。
田中:お父さんは今も監督か何かされている?
和田:今はガンバ大阪の統括本部長をやっています。
──その後韓国で2年半。帰国後1年間、関西リーグでプレイした後、オーストラリアへ来られています。最初に来られた時の印象はどうでしたか?
和田:住みやすい国というのが最初の印象です。
田中:私も安全・安心だなと思いました。
寺本:ビーチに行くとみんなバッグ置いたままだしね。
田中:そうそう。公園で走る時にバッグを置いたままにしても取られなかったですし。ただ、当初は「海外=危ない」と思っていたので財布の代わりにポーチにカードなどを入れていました。
──日本人にとって海外はどこであれ、危険という印象がありますよね。
寺本:今なら、僕から情報発信もできますが、来た当時はエージェントのみが情報源で実際の生活のイメージが湧かなかったというのはあります。ただ、2~3年前から元Jリーガーがオーストラリアに来始めるなど、サッカー事情もかなり変わりました。その頃からオーストラリア人の日本人を見る目も変わって来たと思います。
──アジアのライバル国として日本人選手には一定の評価があると思っていましたが、草の根での評価は最近ということですか。
寺本:そのように感じます。レベルの高い選手が入ってくるとオーストラリア人もその選手のバックグラウンドを知りたがります。その過程で「Jリーグ」という存在が認識され、それまでにはなかった「Jリーグでやってたの?」というような質問も出てくるようになりました。日本人選手が入ることでナショナル・プレミア・リーグ全体のレベルも上がったと思います。ただ、オーストラリアのサッカーと日本のサッカーにはやはり違いがありますね。
和田:僕は逆にあまり違いが分からなかったんです。韓国でやっていた時も今も、何が違うかと聞かれると説明が難しい。どんなところを違いとして感じますか?
寺本:まず、ゴールへの貪欲さが違います。どんな形であっても結果を残そうとしますね。
田中:女子はミドルシュートのレンジが違います。日本の女子選手は最後までつないでシュートを打ちますが、オーストラリアの選手はパワーがあるからか、「そこから打つの!?」っていうような距離から打ちます。
寺本:ディフェンス時の寄せも違いますね。日本では抜かれないようにあまり近付き過ぎないのですが、オーストラリアではギリギリまで寄せ、無理だったらファールで止める。ミスを恐れないのはオーストラリア選手特有だと思います。
田中:私ももっと寄せろと言われました。かわされちゃうよって自分の中では思うんですが……。
──パスが回らないという声も聞いたことがあります。
寺本:オージーはパスミスをしてもあまり気にしませんし、それを受けるのに失敗するとこちらの責任と見られます。そのため、悪いパスが来ることを前提に自分のキャパシティを広げる必要がありました。良い選手なら悪いパスも想定内として自分の中でコントロールできます。
和田:僕は、もともとミスは仕方のないものという考えを持っていたので、あまり差を感じなかったのかもしれないです。ただ大きな違いとして感じるのはメンタルです。オーストラリアもそうですし、以前プレイしていた韓国でもミスを恐れない気持ちが日本人よりも強いですね。
寺本:ゲームが1番楽しめる場所のはずなのに、そこで失敗を恐れて楽しめないのはもったいないですよ。
シティーを舞台にした鬼ごっこ
──サッカー以外の活動で印象に残っている出来事はありますか。
寺本:大掛かりなものとしてはワーキング・ホリデーで来ているような若い子たちを中心に日本人コミュニティーを立ち上げ、運動会を企画をしたことです。「サッカー選手とフットサルをしよう」といった企画から始め、その後ボルダリングを一緒にやったり、最終的にはシドニーの街中を舞台にした鬼ごっこを行いました。タウン・ホールからサーキュラキーを舞台に、総勢50人の参加者で5人編成のチームを作って、鬼を務めるサッカー選手から逃れながらチームごとにミッションを達成するという企画を立ち上げました。
田中・和田:おもしろそう!
──企画の狙いにはサッカー選手の認知度を高めると目的もあったのですか?
寺本:もちろんありましたが、僕自身もたくさんの人と会うことで、皆がさまざまな夢を持ってオーストラリアに来ているんだなと気付かされました。今はワーキング・ホリデーや学生など若い世代が少ない状況なので、別の試みとして世界中で活躍している日本人サッカー選手のコミュニティー作りに尽力しています。
田中:私もYouTubeを観させて頂きましたが、ブラジルのサッカーリーグに挑戦している17歳の女子選手の話が面白かったです。朝、銃声で目を覚ましたという話に驚かされました。ちなみに今、どのくらいの規模まで広がっているのでしたっけ?
寺本:55カ国まで広がっています。基本的にはZoomを使用してサッカー選手と対談するという活動で、描いてもらった似顔絵で世界地図を埋めていっています。
田中:いろんな国のサッカー事情が聞けるのは楽しいですね。
寺本:サッカーの話題以外にも、各国の新型コロナウイルス対応の話や政治の話なども出たりするので勉強にもなります。随時、YouTubeにアップしているので興味のある人は見て欲しいです。
コロナ禍を経て2021年の目標
──来季の目標をお聞かせください。
和田:僕は現在、二部相当のチームにいるので、プロ選手としてはもちろんその上のAリーグを目指しています。
──過去、プレミア・リーグでの活躍がスカウト陣の目に留まり、Aリーグに入った日本人選手は森安洋文さん、1人です。彼はキングカズこと三浦知良さんに続く2人目の日本人選手として注目されました。
和田:外国人枠の数が決まっている以上、助っ人選手として圧倒的な存在感を出さねばなりません。
寺本:ただ、国境が閉鎖している今、チャンスは大きいと思います。和田くんは今最もAリーグに近い日本人選手だと僕も期待しています。
──オーストラリアのリーグにおいて日本人選手に求められるものは何なのでしょう。
寺本:僕が来た頃はスキルを求められましたが、オーストラリア人もスキルは年々上がっているので、今では日本人はスキルがあって当たり前という状況です。
和田:常に試合で良いパフォーマンスを発揮できる、そのチームで1番上手い、良い選手であることが求められると思います。
田中:男子は大変だと思いますが、女子サッカーは今、日本人選手のスキルが注目され始めている状況です。
寺本:NSW州の女子プレミア・リーグと、なでしこリーグではどっちが強い?
田中:なでしこかな。ただ、なでしこ2部だったら良い勝負だと思います。女子のトップ・リーグはWリーグですが、シーズンがずれているから、Wリーグの選手がプレミア・リーグにも結構いるんです。
寺本:なでしこの方がレベルは高いのに、オーストラリアの女子サッカー代表は強い。これはなぜ?
田中:Wリーグとなでしこリーグは実際に試合したことがないから、強さの差は分からないです。ただ、代表はFIFAランキングでは、オーストラリアが上ですね。Wリーグの試合は生では観たことないですが、細やかなスキルや戦術はやはり日本人が上だと感じます。対するオーストラリアはスピードとパワーが格上。特色が違うので、最後までどっちが勝つか分からないと思います。私自身は、来年はナショナル・プレミア・リーグ2のチームに所属しますが、そこで1番のプレーヤーとして活躍することを目標にしています。
──2023年に女子サッカーW杯がオーストラリア、ニュージーランドの共催で行われます。
田中:元々日本 での開 催 が濃 厚だったのですが、新型コロナウイルスによりオリンピックが延期され、その兼ね合いでこちらでの開催になりました。縁を感じますね。
──田中選手のようにコロナ禍が良いターニング・ポイントになったという人も少なくないのではないでしょうか。
寺本:Mate FCの活動で言うと、コロナ禍のおかげでオンライン・レッスンが開講し、シドニーだけでなく、メルボルンやゴールドコーストの子ども達も参加できるようになりました。登録者も増えましたし、サッカーだけでなく、体育館を借りて楽しみながら体を動かすような運動教室も始めました。ボランティア活動なども積極的に取り入れ、みんなに愛される「地域密着」型のチームを作っていきたいですね。もちろん、自分自身も選手として頑張ります。
──本記事には、オンラインを通じて日本から読まれる読者も多くおります。その方々も含めメッセージをお願い致します。
寺本:今回、オーストラリアに夢を持って来られた多くの人が帰国を決断したと思います。でも、伝えたいのはそれを後悔しないで欲しいということです。一度、帰国することでできることもたくさんあると思いますし、大きな決断をした人はその勇気を大切にして欲しいです。応援者がたった1人だったとしてもその人を大切にして欲しいと思います。
田中:来豪から日は浅いですが、私はオーストラリアは多民族国家でとてもおもしろいと感じています。いろいろな見方、意見を学べますし、それが刺激になるので国境のボーダーが開いて行き来ができるようになったらぜひオーストラリアまで来て欲しいです。
和田:僕はサッカー選手として来ましたが、オーストラリアは懐が広いと思うので、観光、語学留学などどのような目的にも最適だと思います!
──皆様、お忙しい中本日はありがとうございました。
寺本:最後になりますが……。チャンネル登録お願いします!(笑)
(11月17日、日豪プレスオフィスで)