第8+回
キイロオクロオウム
地球には約1万種の鳥が確認されており、その1割弱が豪州に生息しています。ゴールドコーストの住宅街に住んでいる私でも、昼夜を問わずさまざまな野鳥の声を聞きます。仕事を終えて帰宅する夕暮れ時には、野生のオウムたちが一斉に空高く羽ばたいて、木に帰っていく様子を見かけます。
もう5年も前になりますが、ペットのオウムを引き取って欲しいと大きなケージを抱えて病院にやって来た人がいました。中にいたのはまだ幼いキイロオクロオウム(Yellow tailed black cockatoo)。その名の通り、頭と体は黒い羽毛に覆われ、耳周りと尾羽は黄色い、豪州固有のオウムです。カランビン野生動物病院では、野生動物と飼育動物の検疫管理のため、ペットの診療を行うことはできません。しかし、この鳥は少し事情が違っていました。木の下にいたところを見つけ、近付いても飛ぼうとしなかったため、けがをしているに違いないと家に連れ帰って、2カ月以上も世話をしていたとのことでした。もともと、野生の鳥だったのです。
長い間、人からの餌だけに頼って生きてきたので、人間を全く怖がらず、むしろ自ら近付いてきて手や肩に乗ろうとするほど慣れていました。
また、キイロオクロオウムは他の種の鳥とは違い、1年以上も親鳥のそばを離れない習性があります。そのため、何カ月も人工保育をした後に野生に返す、というのは非常に難しいのです。
ハーブの黒いお菓子にちなんで「リコリス」と名付けられたこのオウムは、クイーンズランド州の野生動物種の保護管理プログラムを通して、カランビン・ワイルドライフ・サンクチュアリーで飼育されることになりました。
日本を含め、諸外国では飼育用に繁殖された豪州の野生動物を合法的にペットとして飼うことができます。私個人も、日本のペット・ショップでフクロモモンガ(Sugar glider)やアゴヒゲトカゲ(Bearded dragon)が売られているのを見て驚いたことがあります。オーストラリアでは、ペット用に繁殖された動物以外の野生動物を州政府の許可なく飼育することは違法です。けがや病気など保護する必要がある場合を除いては、安易に近付かないようにすることが、野生動物たちのためになります。
床次史江(とこなみ ふみえ)
クイーンズランド大学獣医学部卒業。カランビン・ワイルドライフ病院で年間7,000以上の野生動物の診察、治療に携わっている他、アニマル・ウェルフェア・リーグで小動物獣医として勤務。