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ロック・ギタリスト「マーティ・フリードマン」インタビュー

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ロック・ギタリスト「マーティ・フリードマン」インタビュー

インタビュー

ロック・ギタリスト
マーティ・フリードマン

アメリカのへヴィ・メタル・バンド「メガデス」のメンバーとして活躍後、2004年から活動の拠点を日本に移したロック・ギタリスト、マーティ・フリードマンさんが昨年12月、オーストラリア4都市でのツアーのため来豪した。相川七瀬やももクロなど人気アーティストのサイドマンを務め、また、石川さゆりと共に紅白歌合戦に参加したこともあるなど日本の音楽シーンで活躍。日本をこよなく愛し、日本のテレビ番組にも多数出演するマーティさんに日本の魅力など話を伺った。(インタビュー・写真:馬場一哉)

――オーストラリアでの公演は今回が初めてだそうですね。

「海外からオファーを頂く機会は多いのですが、オーストラリアからのオファーは初めてでした。日本でのレギュラーの仕事も多いので国外に出ることにマネジャーは肯定的ではないのですが、僕は海外に行くのも大好きだし、海外に住んでいる日本人とやり取りできるのもうれしいです。結果的に海外と日本の架け橋のような活動にもつながっているので、マネジャーも認めてくれています」

――架け橋と言えば、マーティさんは2015年から文化庁が認定している日本遺産の大使を務めていらっしゃいますね。

「はい。そのため、日本代表みたいな形になっていて、海外ではいつも現地の方に日本のことをいろいろと聞かれます。これまで、国外ではジャパン・セミナーを開いたり、アルゼンチンのブエノスアイレスで日本とアルゼンチンの交流120周年を祝うライブを開催したりなどの活動をしてきました。今回、シドニーに来て、このような形でインタビューを受けるのも大変うれしいです」

――そう言っていただけると、こちらとしてもありがたいです。

「日本人なのに他の国に住んでるというのは、僕と逆パターンですよね。僕は日本人が大好きですが、海外に住んでいる日本人はどんな感じなのか、純粋に興味があって話をしたいと思っていました。だから、海外に住んでいる日本人のコミュニティーにも大変興味があります」

――日本人コミュニティーの情報は弊紙に数多く掲載されているのでよろしければ読んでみてください。マーティさんは日本語を流ちょうに話せるのみならず、読み書きも堪能と聞いています。

「はい。やはり日本に住んでいる以上は日本語の読み書きができないと暮らしていけないですから。おかげで日豪プレスを読むこともできます。海外の日本語メディアで、どんなことが記事になっているのか興味があります。落ち着いたら全部読んでみたいと思っています」

アメリカ人から見た日本とオーストラリアの関係性

――日本在住のアメリカ人の目から見て、今回初来豪のオーストラリアはどのように映りましたか(編注:インタビュー時はシドニー滞在。公演はその後、メルボルン、ブリスベン、キャンベラと全4都市で行われた)。

「シドニーはとても良い街」と話すマーティさん。写真はシドニーの街中で
「シドニーはとても良い街」と話すマーティさん。写真はシドニーの街中で

「シドニーに到着して思ったのは、サンフランシスコみたいな町だなということです。きれいな港町でいろんな文化が混ざっていて、非常に好印象です。僕はアジア料理が大好きで、例えばヨーロッパ公演などに行ってもアジア料理しか食べないんです。シドニーに到着してまだ2日しか経っていませんが、ベトナム、タイ、中国、日本などさまざまなアジアの国のレストランを見掛けたのでうれしかったです。ただ、僕が見掛けた日本食レストランはお寿司を焼いたりしていて、日本人は絶対行かないような店ばかりでしたが。また、オーストラリア人は皆すごく優しいですね。そして日本に興味を持っている人が多くて既にいくつも質問を受けています。あとオーストラリアの英語は難しいですね」

――英語ネイティブの人でもそうなのですね。興味深いです。

「何を言っているか分からないこともあります(笑)。日本では最近、オーストラリア人を見掛ける機会がすごく増えたのですが、オーストラリアと日本の交流は深まっているのでしょうか」

ツアーは大盛況で幕を閉じた(写真はシドニー公演)©Jed Burke - JAB Photography
ツアーは大盛況で幕を閉じた(写真はシドニー公演)©Jed Burke – JAB Photography

――2018年には年間50万人のオーストラリア人が訪日し、19年には60万人を超えました。航空路線も増えていますし、相互交流は間違いなく高まっていますね。

「なぜ、そういう流れになっているのでしょう」

――昨年のラグビーW杯や、今年開催される東京オリンピックなどがインバウンド好調の理由として挙げられますが、最初のきっかけはスキーと言われています。日本は世界でも有数のパウダー・スノー天国として注目されていてオージーは日本の雪を『JAPOW』と呼び、日本各地のスキー場を訪れています。かれこれ10年以上前になりますが、最初は北海道のニセコが起点となり、その後、長野県の白馬や野沢温泉など本州のスキー・エリアにもオーストラリア人が大挙して押し寄せるようになりました。

「時差がなく、シーズンが逆というのがいいのかもしれませんね。ところでこちらで暮らしている日本人は都会と郊外、どちらに住んでいるのですか」

――学生やワーキング・ホリデーなどで来ている日本人はシティー周辺でシェア生活をしている人が多いです。永住者や駐在員はノース・エリアに多く住んでいると言われますが、今は住宅価格も高騰しているのでその他のエリアへと移った人も多いようです。ところで、アメリカもオーストラリアと同様にマルチ・カルチャーの国ですが、違いを感じますか。

「全然違いますね。まずシドニーは建築が可愛くて美しいです。イギリスなどとも違っていてなぜか写真を撮りたくなりますね。英語もアメリカと違いますし、スラングや笑いのツボもアメリカと違っていて僕のツボに近いです。いわゆるエロ親父ジョークですね(笑)。それにオーストラリア人はアメリカ人に比べてとてもリラックスしているような印象がありますね」

Jポップの魅力

――10代後半の時には、父親の仕事の関係でハワイに住んでいたと聞いていますが、その時にラジオで流れていた演歌を聞いて衝撃を受けたそうですね。

「言葉が1つも分からないのになぜか切なさがとても伝わってきたんです。ボーカルの歌い方から感情が伝わってくるというか……。演歌のようなインパクトがあればどんな感情でも人に伝えることができると思い、研究して自分の音楽に取り入れました」

――日本に興味を持ったきっかけはその時だったのですか。

「その時は純粋に音楽としてすごいなと思っただけでまだ日本自体には注目していませんでしたが、その後、ツアーで初来日した時に対応がすごく良かったので印象に残りました。タイムテーブルを守る、チケットの販売をきちんとしてくれる、ご飯も出てくるなど、ミュージシャンに対してのリスペクトがうれしかったです。アメリカだったらインディーズ・バンドなんてゴミみたいに扱われますからね。その後、実際に日本に移り住むことになった直接のきっかけはJポップでした。その当時の邦楽、特にJポップに心底惚れてしまったのです。ハマりすぎてこれは住むしかないと思いました。アメリカのヒット・チャート・トップ10だと1曲好きな曲があればいいくらいですが、日本のチャートは10曲中9曲は良い曲だなと思います」

――初めて共演されたのが当時、飛ぶ鳥を落とす勢いで人気のあった相川七瀬さん、その後来日1年目にして紅白歌合戦にも出場しています。

「はい。達成感のあまり、アメリカに帰ってもいいかなと思いました(笑)」

――鈴木亜美さんや狩野英孝さんの50TAとのコラボレーションなど、メジャー・シーンで幅広く活躍されてきた中で、特に印象に残っていることはありますか。

「日本の音楽シーンの思い出はありすぎて1つは選べないけど、全体としてはアーティストのオープン・マインドに感動しています。ももクロとのコラボレーションでマーティ節をたっぷり入れたのですが、みんな喜んでくれました。八代亜紀さんや石川さゆりさんといった大物演歌歌手とコラボした時も『マーティの好きなように』と言ってくださいました。僕の音楽は多分他の人より濃いのですが、皆さん、好きにやらせてくれます。アーティストの皆さんの器の大きさにとても感動しています」

――マーティさんは好きなアーティストの1人にZARDを挙げられています。実は私も好きで、日本で彼女が亡くなった際に行われた「音楽葬」には、他の記者には任せたくないと自ら名乗りを挙げて取材へ向かったほどです。

「そうだったんですね。ZARDの坂井泉水さんは歌唱力がすごく高いわけではなく、ピッチも危ない時があるけど声に魔法のようなものがあって、僕はそれを今でもずっと研究しています。曲はすごいハッピーで可愛らしい日本らしい感じなのに、昔ながらのヘビメタのギターが入っていたりします。ピーナッツ・バターとチョコレートのような、普通は合わないようなものがうまく噛み合っていてすごく不思議だなと思いました。アメリカでは、ZARDのような可愛いメロディーはありません。ZARDに限らず、癖になるような歌の魔法を見つけるのが日本人は非常に優れていると思います」

――今のJポップ・シーンは、アイドル・グループがランキングを独占しているような形になっていますが、それについてはどのようにお考えですか?

「音楽が良いので良いと思います。日本の音楽業界は50~60年代のアメリカと同じで、曲がメインになっていると思います。例えば、嵐もAKB48も、ももクロも曲を聞いた瞬間にヒットすることが分かります。音作りがとてもすばらしいからです。単なるアイドル・ブームに持って行かれてしまっている時もあるけれど、プロデューサーやディレクターには音を優先してずっとこれからも良い曲を作り続けてほしいですね」

J東日本大震災

――マーティさんは、それまでご自身のギターを手放すことはしなかったそうですが、2011年の東日本大震災後に初めてチャリティーでギターを売ったそうですね。

「震災の時、僕はバンド・メンバーと一緒に東京にいたのですが、あの時のことは永遠に忘れられないですね。最後の時は一緒にいたい人と、そして自分がいたい場所がいいと思っているので、あの時バンド・メンバーといられてありがたかったです。地震の後は皆で僕の家に避難したのですが、12階にあった家の中はひどい状態になっていました。日本人は地震に対してある程度心の準備があると思うけど、僕たちは慣れていなかったのでとても怖かったです。その後は福島で何度もライブを行いました。僕も大変な思いはしたけど彼らと比べることはできないし、悲しくて言葉が出ないし、みんな本当にかわいそうでした」

――被災地にも何度も足を運んだのですね。

「被災地をどのように復興させるかという番組にいくつか出て、とても感動的な話をたくさん聞きました。大切な経験をさせてもらって、僕はすごく恵まれていると思いました。ありがたい気持ちでいっぱいです。東京マラソンのライブも3年連続でやらせてもらっていますが、たくさんの人がいる中、大事な仕事に関わらせてもらって感謝しかありません」

日本という国が持っている魔法

――現在日本は観光立国を目指し、海外から多くの観光客を呼び込もうとしています。日本国内では犯罪率の上昇やマナーの問題などさまざまな問題点が指摘されているようですが、実際に日本に住まれている立場として、日本人の外国人への接し方をどのように思われますか?

「とても興味深い質問です。日本はとても安全な国ですよね。そこに外国人が来て犯罪が増えたら、外国人=悪い人となるのは当たり前の考え方です。それは偏見とか差別ではありません。事実です。外国人には日本に来た際に良い印象を残してほしいです。日本という国には人を優しくさせる魔法があります。例えば、怖そうなデスメタルのバンドでさえ、日本に来ると、優しくなってしまうケースが多いんです。日本はそういったエフェクトがある国なんです。だから外国人が日本で良い印象を残して、外国人も良いと日本人が思うようになることを祈っています」

――そういったエフェクトは他のアジア諸国では感じられないものですか。

「僕は他のアジアの国も大好きですが、日本は他の国とは全く違いますね。安全で未来的で、そしてマナーが良い国で、そんな国は他にはないのではないでしょうか」

日本の未来

――今、日本では人口が急激に減っていて、先進国で初めて深刻な少子高齢化に直面する国と言われています。

「未来のことをしっかりと考えなければいけませんよね。人口減少を止めるために外国人を呼び込むとしても、モチベーションの高い人を呼ぶことが重要です。日本ではきちんと日本語を話せないとうまく生きていけないですし、コンビニやスーパーで働いている外国人は本当に偉いと思います。接客の日本語は僕が使っている日本語よりも難しいですし、クレーム対応もしなければなりません。彼らはとてもモチベーションが高いと思います。高いモチベーションを持つ外国人が増えたら日本の人口減少問題にも良い効果があるし、頑張る人が増えれば、どちらの国にとってもプラスになると思います。ただ、敷金、礼金、更新手数料、お歳暮など、日本のルールはとても複雑なのでそれに対応できる人にならなければなりません」

――ただ闇雲に人口を増やすのではなく、しっかりとモチベーションを持った外国人を受け入れなければ根本解決にはならないと。

「はい。ただ、わがままかもしれませんが、僕自身は『外人』だけど外国人が増えていくことに少し寂しさを感じます。日本のチャームポイントを1つ挙げるとしたら『単一民族』という点が挙げられます。以前は看板は全部日本語だったし、タクシーやバスの運転手も日本人だし、お店に行けば全員が日本人だったし、それを当初とても美しいと感じました。しかし、今はどこに行っても外国人がいるようになりました。日本の人口問題の解決はもちろん応援したいですが、元々の単一性が失われていくことに少し寂しさを感じます」

――なるほど。海外に住んでいる日本人の中には、日本人ばかりの社会で、複雑な「暗黙の了解」的なものを煩わしく思って飛び出した人も多いと思いますが、一方で美しく貴重なものでもあるわけですね。

「そういうものがある意味で日本を世界で唯一の国として成り立たせてきた部分があるのだと思います。ただ、僕は日本で『外人』として、スペシャルな扱いをしてもらっている面があると思うので、もしも日本で生まれ育ったら例えば日本の上下関係とかを煩わしく感じていた可能性もあります。日本人として日本のルールの中で生きるのはなかなかハードなことでもありますよね」

外国語の習得

――マーティさんは日本語を流ちょうに話されますが、語学修得に際してアドバイスできることはありますか。

「英語であれば英語を話す国にホームステイなどして住むのが一番ですね。通信教育や学校に行くよりもそちらの方がはるかに良いでしょう。そして、その住んでいる国をしっかりリスペクトする気持ちを持つことが大事です。日本でも、日本人の奥さんがいる外国人で全く日本語を話さず、奥さんに頼っている人をよく見掛けますが美しくないと思います。住んでいる国への気持ちを大事にしてサバイバルすれば語学力は身に着きます。また、全ての人には当てはまらないですが、日本人には間違えることを恥ずかしいと思っている人が多いと思います。僕でも文法を間違える時はありますが、それを恥ずかしいとは思いません。その点を乗り越え、恥知らずになることも時には大事なんです。特に、今海外に住んでいる人にはどんどんチャレンジしてほしいと思います」

――マーティさんご自身が日本語で苦労している点はありますか。

「例えば文化庁など政府機関と仕事をする時などは言葉遣いに苦労します。マネジャーに『タメ口じゃダメだよ』など注意されることも少なくないです。ですから、いつも後で振り返って復習しています。ただ、苦労はしているけど、僕は勉強がしっかりできるタイプじゃないから経験を重ねながら学んでいる感じですね」

――何事も経験というわけですね。さて、最後に本記事を読んでいる読者にメッセージを頂けませんでしょうか。

「メッセージというよりは、こちらに住んでいるたくさんの日本人に会って、どのような苦労や経験をしたのかなどいろいろお話を聞きたいなと思っています。日本は安全で、安心して暮らせる国で、あえて出る必要性に迫られることはありません。だからこそ海外に出て暮らしている日本人は勇気があると思います。私としてはより多くの日本人に海外を知ってもらい、他の国の良さを知ることはもちろん、改めて日本の良さを知ってほしいと思っています。外に出ることで見えてくるものは少なくないはずです」

――貴重なお話ありがとうございます。本日はライブ直前のお忙しい中ありがとうございました。
(2019年12月11日、日豪プレス・オフィスで)

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