第19回カンガルーの尻尾とウサギの耳
ペット・ショップでオーストラリアらしいなぁと思うのは、カンガルーの生肉が冷蔵、冷凍のエリアに必ず置いてあること。牧場で育つ家畜とは違い、自然界で育つカンガルーには脂肪分がたった3、4パーセントしかなく、高たんぱくでビタミンやミネラルも豊富な優秀なドッグ・フードなのだそうだ。カンガルーの肉は人間の食用肉としても流通しており、知人のボディビルダーなどは、体を絞り筋肉を増強するためにカンガルー肉を常食しているほどだ。犬用には生肉の他にも、カンガルーを使ったドライ・フードやソーセージ、缶詰、ジャーキー、骨や腱などが売られている。中でも尻尾の部分を乾燥させたものは、我が家のスパーキーの大好きなおやつの1つだ。尻尾といっても、見た目はただの背骨のような骨なので、あまり動物の尾を連想させるような生々しさはない。
ところが先日、近所のスーパー・マーケット、ウールワースのペット・フード売り場に並んでいる物を見て、うちの娘が悲鳴のような声を上げた。見ると、そこには「Rabbit Ears(ウサギの耳)」と書かれた袋が置かれている。パッケージの中央には中身が見える透明の部分があるが、平たい5センチ幅ほどのスルメのようなものが見えるだけで生々しさはあまりない。それでも、ウサギのぬいぐるみと毎晩一緒に寝ている娘にはショックだったようだ。「フランス料理ではウサギもよくメニューに載っているのよ」と説明してもなかなか納得しない。
オーストラリア内陸部では、増え過ぎたカンガルーは農作物や自然を荒らす深刻な害獣として、州政府に申請すれば自分の土地内で決められた頭数を駆逐することが許可されている。ヨーロッパから持ち込まれ、この国の生態系を破壊する繁殖力の強いウサギの被害はもっと深刻だ。かわいい動物なのにかわいそう、といった単純な問題では片付けられない。
私たちにできるのは、生命の尊さについて考えながら、耳や尻尾まで無駄にしないでありがたく頂くこと。娘には、豚や鶏のぬいぐるみも買ってやらねば。
ランス陽子
フォトグラファー/ライター、博士(美術)。数年前にシェットランド・シープ・ドッグの2頭が亡くなり、現在はオーストラリアで古くから牧羊犬として愛されているボーダー・コリーのスパーキーとゴールドコーストで暮らす。
Web: www.yokolance.com.au