第78回
雨に流された淡水の亀
山火事や干ばつが続いてから一転して2月、クイーンズランド州南東部とニュー・サウス・ウェールズ州北東部は集中豪雨に見舞われました。雨が降っている日は、外に出かける人が少ないせいか保護される動物が少なく、病院は静かになるのですが、雨が上がってからが大変です。カランビン野生動物病院で治療を受ける動物は普通1日に40匹ほどですが、雨が上がった翌日に保護された動物の数は92匹にも及びました。
特に、強風のためうまく飛べず建物に衝突してしまった鳥たちや、河川が増水して河口まで流されてしまった亀たちが、たくさん保護されました。普段は淡水に棲んでいるはずの亀が海に流され、砂浜で保護されることもあります。
保護された亀たちは疲れ切っていました。雨が降る前に長く続いた干ばつのせいで餌にありつけていなかったためか、痩せ細って体力が落ちているところへ川が増水し、泳ぎ疲れてしまったのでしょう。甲羅のあちこちに擦り傷があったり、爪が剥がれそうになっている亀もいました。卵から孵(かえ)ったばかりと見られる赤ちゃんもいます。
当院では亀が保護された場合、まず保温、そして補液を行い、脱水症状からの回復に努めます。次に、甲羅の骨折など明らかな外傷が見られない場合でもレントゲン撮影を行い、釣り針などの異物を飲み込んでいないか、溺れて肺に水が入ってしまっていないかなどをチェックします。血液検査を行い、貧血や感染症の有無を調べることもあります。
それらを全てクリアしたら、病院のリハビリ施設にある亀専用の水槽で泳力テストをします。四肢を全て動かすことができるか、自力で水面まで上がって呼吸ができるか。また、体が浮いてしまい潜れないなどの異常も見つけられます。
疲弊しているのですから、水槽に残して無理に泳がせるようなことはしません。リハビリ用水槽の隣には小さな小屋があり、室温は26度に保たれていて、けがや病気が理由で水に入れない亀たちが入院できるようになっています。体力が回復したら少しずつ水槽で過ごす時間を延ばしていき、河川の水かさが元に戻ったころには野生に返せるようケアをしていきます。
床次史江(とこなみ ふみえ)
クイーンズランド大学獣医学部卒業。カランビン・ワイルドライフ病院で年間7,000以上の野生動物の診察、治療に携わっている他、アニマル・ウェルフェア・リーグで小動物獣医として勤務。