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第144回 糸崎の仏舞/書家れんのつきいち年中行事

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第144回
糸崎の仏舞

ご機嫌いかがですか、れんです。だんだんと東京オリンピック、パラリンピック大会が近付いてきましたね。先月私はオーストラリア・オリンピック委員会(AOC)からの依頼で、オーストラリアのオリンピック、パラリンピック・チームへのエールの言葉を0.6×2メートルのサイズの紙6枚に大書させていただきました。大会が始まるまではサーキュラ・キーにあるAOC本部に展示され、大会中には選手村にて掲げられるそうです。

これまでいろいろな書作品を書いてきましたが、オーストラリアの国を挙げての行事に関わる作品は初めてです。アーティストとしてスペシャル・スキルで永住権を頂いて以来、やっとこの国のために仕事ができたような気がしているのと同時に、大変光栄なことであると、この依頼に感謝しています。

さて、北陸というところは九州出身の私からすればほとんどなじみがない地です。東京までの陸路、新幹線の通る山陽・東海道なら途中下車という手段もあり、まだ近くに感じもします。しかし北陸はわざわざ行くところ、それ故とても遠くに感じてしまいます。

福井県福井市糸崎町は、鷹巣海岸の山側にある戸数40戸弱の小さな集落です。そこにある育王山龍華院糸崎寺では奇数年の4月、観音堂の正面に設けられた5メートル四方の石舞台で仏の面を付けて舞う「仏舞」が奉納されます。平成16年には、国の重要無形民俗文化財に指定されました。

これは全国的にも貴重な伝統行事で、仏舞が現存しているのはこの糸崎寺と京都府舞鶴市の松尾寺の2カ所のみになっています。

奈良時代、孝謙天皇の御世である天平勝宝のころ、舟で通りかかった唐の高僧・禅海上人が故郷の育王山と風景が似ているということで、岩屋に庵を建てて修行をしました。ある時、現在の鷹巣海岸の浜に緑色の毛に覆われた亀の背に乗った金色の観音像が現れたので、それを糸崎寺の本尊とします。観音像が観音堂に安置されると紫雲に乗った菩薩が現れ、天女たちと共に祝福賛美の舞を踊ったことがこの仏舞の原型になったのだそうです。そのころから1,200年以上、この小さな集落で受け継いでいるのです。
「天平勝宝」というのは日本の元号の1つです。729年から20年続いた「天平」の次の約20年間、「天平感宝」「天平勝宝」「天平宝字」「天平神護」「神護景雲」という4文字の元号が続きます。長い歴史の中で2文字以外の元号があったのは、奈良時代のこの時期だけのことです。

舞人を務めるのは成人男性で、手仏(てぼとけ)4人、打鼓仏(だこぼとけ)2人、撥仏(はしぼとけ)2人の計8人。金色の仏面と黒の僧衣の出で立ちには異様な雰囲気があります。それに金色の仏面に青い法衣の小学校高学年から中学生くらいの少年2人による念菩薩、白い童子の面と白い法衣の小学校低学年以下の男児2人が扮する角守りも舞台に上がります。舞手は糸崎で産湯(うぶゆ)を使った長男に限定されていましたが、少子化の昨今、産湯を使ったことのみを厳守しているそうです。

では作品を。行書の「仏舞」です。人偏の1画目は木簡・竹簡の筆法です。木や竹の板は紙ができる以前から使われていたもので、そこに書かれた文字にこの大胆な線が見られます。一気に息を吐きながら書くこの線は素朴で単純ではあるものの意識して引くのは難しいものです。「舞」は筆を止めることなく、リズミカルに運筆したい文字ですね。


れん(書家/アーティスト)
アーティストとして永住権取得。2010年、作品「ふるさと」が日本の国有財産として在豪日本国大使館に収蔵される。Government Houseでの企画展など日・豪・ドバイで作品展示多数。在豪日本国大使館、在オークランド日本国総領事館の招聘によるイベント参加やNSW州立美術館ほか各地で大書パフォーマンスやワークショップを展開。ハリウッド映画『The Wolverine』製作に書家として参加。2016年シドニー総領事表彰を受ける。書団れん倶楽部主宰。チャッツウッドで書道教室運営。RENCLUB Lineスタンプ販売中。
Web: renclub.amebaownd.com / Email: renclub@gmail.com / 動画: youtube.com/user/renclub / インスタグラム: instagram.com/renyano

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