福島先生の人生日々勉強
教養を持つ
子どもは成長するにつれ、自分だけの時間を持ち、1人で考えごとをしたり、読書をしたりすることが増えてきます。それは確かに大切なことなのですが、同時に、1人の人間として、共有空間に対する責任感も持ってもらいたいと思います。この責任感は、家族や他人と同居している人に限らず、今は1人暮らしだという人も、社会人の教養として大事にしてもらいたいですね。
例えば、リビングで宿題や仕事をしなければならないといった時、ドリンク・ボトルのキャップを開けたまま立ち歩けば、席を外している間に誰かがひっくり返すかもしれません。大切な書類を置いてトイレに立った間に、赤ちゃんやペットが破いてしまうかもしれません。大騒ぎになるでしょうが、こういうことは自分が注意さえすれば、起こらなかった事件だと言えるのではないでしょうか。
互いに労わり合ったり、ルールを決めたり、注意し合ったりするのももちろん大切なことですが、それよりも、まず自分自身の行動に注意をしたり、なるべく人に迷惑の掛かる原因を作らないようにしなければいけないと思います。高齢者や赤ちゃんなど助けを必要とする人に手を差し伸べることも人任せであってはなりません。例えばお母さんがおむつ替えをしていたら食器を片付けるとか、本を棚に戻すとか、できることは何でも喜んでやりましょう。誰かに手伝いを頼まれた時もサッと動いて役に立ちましょう。健康で若い人ほど、できることも少なくないはずです。自分のやりたいことばかりを優先するような人にはなりたくないですよね。
家事は1人でやると大変に骨が折れる仕事です。家族それぞれが、家事を自分の仕事として責任を持ってやるということが大切です。「炊事、洗濯、掃除」が家事だと思うのは間違いです。家事には、名前を付けられないような雑多な仕事が山のようにあるのです。その雑多な仕事の合間に「炊事、洗濯、掃除」をしているというほうが的を射ていると思います。ですから家事は、誰かの手伝いをするということではなく、皆が気持ちよく暮らすための、家族としての自分の責任だと考えましょう。
もう1つ、大事にしたいこと、それは精神面での気遣いです。例えば、外に出られなくて騒いでいる弟の声がお姉さんの試験勉強の邪魔になるというようなことがありますね。誰の悪意もないのに家の中が気まずくなるのは、往々にしてこういう小さな要因からです。共に暮らすということは、互いに譲り合って暮らすということです。相手がどういう気持ちなのか、何を求めているのか。自分はどうなのか。そういうことがよくわかっていて適切に動ける力を「教養」というのではないでしょうか。
教育専門家:福島 摂子
大阪府出身。34年間、教育に携わり、教育カウンセリング・海外帰国子女指導を主に手掛ける。1992年に来豪。シドニーに私塾『福島塾』を開き、社会に奉仕する創造的な人間を育てることを使命として、幼児から大学生までの指導を行う。2005年10月より拠点を日本へ移し、日々活動の幅を広げていく一方で、オーストラリア在住者に対する情報提供やカウンセリング指導も継続中である。