信頼できるオーストラリアの医療機関を紹介する本特集では、毎年身近な医療テーマをピックアップしている。今年は女性の加齢と共に起こる自然現象の1つである更年期症状について、その症状が毎日の生活に支障をきたす「更年期障害」に焦点を当て、原因と対策の情報を交え解説する。心身に不調を感じたらまず訪れるべきGPや、日本人が安心して診療や検査を受けられる医療・健康機関やサービスも多数紹介しているので、いざという時に備え、事前にチェックしておこう。
(取材・協力=ノースブリッジ・メディカル・プラクティス/鳥居泰宏先生)
更年期障害とは
平均して45~55歳の女性にとってホルモン・バランスの変化が原因となって起こるあらゆる症状のことを、更年期症状と呼び、その症状がひどく、毎日の生活に悪影響が及ぶ場合を更年期障害と言う。
卵巣機能が徐々に低下していくと、女性ホルモンの分泌が減少し閉経が訪れる。その平均年齢は51.3歳。更年期症状が起こる期間は一般的に閉経前後の2~5年と言われているが、閉経後5~10年以上続く人もいるという。女性ホルモンの低下によって自律神経の働きが乱れたり、体内のホルモン・バランスが崩れさまざまな症状が起こる。症状の現れ方にはかなりの個人差があり、ほとんど何も症状が見られず更年期を過ぎる人もいれば、ひどい症状を感じる人もいる。主な症状は以下の通り。
・のぼせ(Hot Flushes) ・・・・・・・・・ 約80%
・発汗 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 約70%
・動悸 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 約30%
・膣の萎縮、衰退からの症状 ・・・・・・・・ 約60%
膣の粘膜が乾き、弾性をなくすことによって性交時に痛みを伴ったり、膣炎や膀胱炎が起こりやすくなったりする。また、子宮が下がったり、緊張性失禁(せきやお腹に力を入れたことに伴う失禁)が起こることもある。
その他の症状として、気分のイライラや集中力の減退、記憶力の喪失、軽いうつ状態などがあるが、これらはホルモン・バランスの変化による影響だけでなく、この年齢に起こりやすい精神的な悩み(経済的な心配、性生活上の不満、年齢の進みによる孤独感など)による影響も大きいと言われている。長期的に及ぶものには骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や動脈硬化の進行なども挙げられる。
具体的な治療法
以下のような方法で女性ホルモンを投与することによって、更年期の短期症状と長期現象を緩和させることができる。
<経口薬>
子宮がある場合とない場合とで異なる。子宮がある場合は女性ホルモンを毎日服用し、黄体ホルモンをひと月のうち最低12日間摂取する(そうすることによって、子宮がんの発生を防ぐ)。子宮がない場合は、毎日女性ホルモンだけを服用する。
<クリーム>
全身症状(のぼせ、発汗、動悸)はほとんどなく、主に局部の症状で困っている場合(膣の乾き、性交時の痛みなど)は膣に挿入するクリームだけを使用することもある。
<皮膚パッチ>
女性ホルモンと黄体ホルモンが混合でパッチに含まれていて、皮膚に貼っておくと少しずつ体内に吸収されていくようになっている。週に2~3回取り替える必要がある。子宮がない人は女性ホルモンだけのパッチもある。
対策と予防
何よりも規則正しい生活を送り、運動や食生活に気を付けることが大切だ。乳製品など、カルシウムが多く含まれている食事を心掛けよう。もしコレステロールや血糖値が高いようなら、カルシウムの錠剤で補給すると良いだろう。豆類にはイソフラボンという女性ホルモンに作用する成分が含まれているため、豆類を十分に摂るようにしよう。また、定期的に運動することも重要だ。散歩、ジョギング、ダンスなど、下半身に体重が掛かるような運動が最適だが、水泳もお勧めだ。週2~3回、毎回30~60分の運動を心掛けるようにしよう。なるべくストレスがたまらないように運動やヨガをする他、自分の時間を作るようにすることも大切だ。男性にも更年期障害は起こるのか
女性の場合、更年期障害は医学的に明らかに認められている現象だが、男性の「更年期」に関しては医学的にはっきりとは認められていない。女性は、50歳前後で卵巣の働きが極端に低下することが分かっているが、男性の場合、男性ホルモンは年齢と共に徐々に低下していく傾向はあるものの、年齢的な境界線はない。また、高齢者でも男性ホルモン・レベルが若い時とほとんど変わらない人もいる。確かに40~60代の男性でも疲労、倦怠感(けんたいかん)、性欲の減退、筋力の減退などの症状が見られることはよくあるが、その年齢期には仕事、家族、経済的なストレスなどが起こりやすいと言われている。男性ホルモン・レベルをチェックして多少の低下が見られることもあるが、そのような症状とはっきりと関連付けることは難しいとされている。