幸せワイン・ガイド@オーストラリア
今月の生産者:スモール・アイランド・ワイン
タスマニアは、実は今、オーストラリアで最も注目されている冷涼なワイン産地です。昨年は機会に恵まれ3度の訪問を果たしましたが、何度行ってもその度に新たな発見のある場所だと実感させられます。
タスマニアの州都ホバートの人気観光スポットであるサラマンカ・プレスに、広さにして約3畳程度の小さなワイン・ショップがあるのですが、そこで本当に偶然出合えたワインとその生産者を、今回ご紹介したいと思います。
スモール・アイランド・ワインは、2015年にジェームズ・ブロイノウスキがクラウド・ファンディングで始めた小さなブランドです。初年度は、わずか2.2トンのブドウを買えるだけの資金からのスタートでした。ジェームズのプロジェクトは、主にピノ・ノワールです。タスマニアの異なる畑から4種のピノ・ノワールを作り、他に少量のロゼとリースリングを手掛けています。各ボトルには、ジェームズの叔母のアナによるタスマニアン・タイガーのスケッチが描かれ、ペンキの上からスタンプで施されています。
最初にこのパッケージを見た時は、いわゆる「お土産ワイン」かと思ってしまいました。タスマニアン・タイガーのラベルなんて「ちょっとダサいなあ」とも。でも、よく見ればタスマニアン・タイガーのスケッチが非常に秀逸であること、更にはラベルではなく、実はペンキで1本1本塗られていることにも気付かされます(現在は一部のワインはラベルに変更しています。特に冷やす必要のあるロゼなどははがれてしまうことがあるため)。値段も決して安くなく、これはどうやら、思ったワインと違うかもしれない。そう思って話を聞けば、そのショップのオーナーが造ったワインだというのです。
最初に買ったスモール・アイランド・ワインはリースリングでした。淡くはかなげで、まるで水彩画のような口当たり。クロッカスのような可愛らしい花のような香りが印象的でした。翌日には同じ店に戻り、ロゼを購入していました。ロゼもリースリングに近い柔らかなテクスチャー、極辛口の美しい凛とした花のようなワインでした。
それから1年後、再びホバートを訪れた時、訪れた同店でワイン・メーカーのジェームズ本人にばったりと出会いました。その場で思わずインタビューを申し込むと、あっさりと快諾。ジェームズは「laid back」(気楽に構えている)という言葉がとても似合う、穏やかに笑う青年でした。そこにはちょうど、前日プロポーズをしたばかりという彼のフィアンセも居合わせていて、婚約してたった1日目のカップルは、お互いを「フィアンセ」と呼ぶことがまだ照れくさいようでした。
ジェームズのプロジェクトのメインは、やはりピノ・ノワール。「事実確認ができていないんだけど」と前置きをした上で、「タスマニアには180以上の異なる土壌の種類が存在しているらしい」と語ります。北海道の8割ぐらいの面積を持つタスマニア、北と南では気候も土壌も大きく異なります。そんなタスマニアの中に存在するミクロな気候や土壌の違いから生まれるブドウの生育環境を、ワインによって体現したのが、彼の4つのピノ・ノワールです。北部と南部、それぞれのシングル・サイトのピノ・ノワールは、タスマニアという1つののGI(地理的表示)下に存在する全く異なる個性を反映させたものでした。畑の個性が分かりやすいよう、醸造過程ではあまり手を加えすぎない「あくまでジェントルな」ワイン造りを目指します。タスマニアのピノ・ノワール、という1つのカテゴリーに所属しているのが不思議なほど個性の違う4つのピノ・ノワールを、ジェームズ本人と一緒にテイスティングした午後。忘れられない1時間となりました。次に、4つのピノ・ノワールの特徴などについて解説します。
シングル・サイト・サウス・ピノ・ノワール
タスマニア南部のコール・リヴァー近くのクレメンテル・ヴィンヤードから。肉っぽさが感じられるのが特徴。「まだ閉じている。このワインはあと少なくとも10年の時間が必要なワイン」と語るジェームズ。力強さと洗練された酸が感じられます。
シングル・サイト・ノース・ピノ・ノワール
水はけの良い砂質の温暖な北部の畑グレン・ギャリーから。「赤よりも黒い果実の特徴が見られるね」と話すジェームズ曰く、これは「タスマニアのダーク・チェリーのような」ピノ・ノワールとのこと。ノースには、使用前に表面を削り直した樽を少量使ったとのことで、スパイス感も感じられます。
サウス・リザーブ・ピノ・ノワール
圧倒的な凝縮感とパワーが感じられるのが特徴。黒い果実、花などの他にも肉っぽさ、更にシナモン、ナツメグなどのスパイスが織り交ざる、特に長い余韻が印象的なワインでした。
ブラック・ラベル・ピノ・ノワール
ノースとサウスのバランスの取れた、クリーンかつタスマニアのベンチ・マーク的なピノ・ノワール。土地の個性が全面に出ていたノースやサウスに対し、こちらはどちらのスタイルが好みの人にでも楽しんでもらえるバランスの取れたものになっています。
まだスモール・アイランド・ワインの販売はオーストラリア国内のみですが、生産量は年ごとに倍増し、世界に輸出される日も遠くはないと感じます。
*今月のお薦めワイン*
スモール・アイランド・ワインのお薦めワイン
Web: www.smallislandwines.com
梅
アペリティフに
Small Island Patsies Blush Rose 2018/$30
竹
ジェームズによるタスマニアのベンチ・マーク的ピノ・ノワール
Small Island Black Label Pinot Noir 2017/$45
松
特別な日のBYOに
Small Island Single Site South Pinot Noir 2017/$55
フロスト結子
日本人としての合格者はまだ少ないワインの国際資格WSET® Diplomain Wine & Spirits及び日本酒のAdvanced Certificateを取得。日本でワイン関連商社の貿易業務に携わった後、2009年オーストラリア人の夫との結婚を機にシドニーへ移住。現在はオーストラリア国内大手オークション会社であるGraysOnlineのワイン部門でアシスタント・バイヤーとして勤務する傍ら、フリーランスとしてライティング、ワイン関連の翻訳、市場調査などで精力的に活動中。ワインのコメントは「とにかくおいしそうに書く」がモットー。
Web: auswines.blog.jp