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【QLD】取得する?しない?徹底解剖オーストラリア市民権

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取得する?取得しない?

徹底解剖
オーストラリア市民権

Photo: Yoko Lance
Photo: Yoko Lance

豊かな自然と広大な大地で世界中の人びとを魅了するオーストラリア。外務省の「海外在留邦人数調査統計(平成30年)」によると、現在約9万7,000人の日本人がオーストラリアに在留し、そのうち5万6,000人もが永住権を取得している。短期、長期滞在を経て永住権を取得すると、次に気になるのは市民権のこと。取得するにはどのような資格が必要なのか? 今取得しておくべきなのか、それとも取得しない方が良いのか? そんな疑問に答えるため、オーストラリア市民権について徹底解剖する。 (文=ランス陽子)
取材協力:フェニックス法律事務所、ゴー・オーストラリア・ビザ・コンサルタント
※記事内の全ての情報は2019年4月時点のもの。

徹底解剖その① 永住権と市民権って何が違うの?

オーストラリアで永住権を取得すると、在留期間を制限されることなくオーストラリアに在住できるようになる。

働くことや、学校へ行くことに制限がなくなるだけでなく、国民保険であるメディケアにも加入できる。オーストラリアの土地を自由に売買することや、銀行でローンを組むこともできる。

オーストラリアからの出国については、まず最初の5年間は自由に出入国できる「トラベル・ファシリティー」が与えられ、その後も「レジデント・リターン・ビザ」を申請すれば再入国が何度でも可能となる。

また、必要になれば生活保護を受けることもできる。オーストラリアで暮らしていくに当たって、永住権があれば法律上もオーストラリア人とほぼ同じような恩恵を受けることができる。

一方で、市民権を取得するということは、オーストラリア国籍を持ち、オーストラリア人になるということである。

オーストラリアのパスポートを持つことができるようになり、国外へ出る場合にもビザの申請などの手続きなしに再入国が可能になる。

選挙権も与えられ、更に「ヘックス」(HECS-HELP)と呼ばれる大学や専門学校の学費ローンを利用できるようになる。ヘックスは政府による学費ローンで、無利子かつ卒業後の年収によってその年の返済額が変動する。年収が5万1,957ドルを超えるまではローンを返済する必要がない(最低年収金額は毎年変更される)。

その他には、オーストラリア軍や、市民権保持者に限定されている一部の政府の仕事に就くことができるようになるため、就業に関する制限が減る。

永住権があれば警察署や市役所にも就職できることが多いし、ニュージーランドでも就労・就学できるよ。

徹底解剖その②市民権を取るにはどんな資格が必要?

市民権を取得するには、まず永住権が必要。だが、永住権があれば無条件に市民権を取得できるというわけではない。

【主な取得条件】

  1. 市民権申請時並びに取得時に永住権を保持していること。
  2. 居住条件(※1)を満たしていること。
  3. 人物評価に問題がないこと。
  4. 基本的な英語力を有していること。
  5. オーストラリアに居住し続け、オーストラリアとの密接な関係を保ち続ける意思があること。
  6. 市民権テストの合格(オーストラリア市民としての責任や特権に関する十分な知識を有していること)。 ※60歳以上の場合は免除

※1:居住条件

以下の条件を全て満たさなければならない。

  • 市民権申請日からさかのぼって4年間、滞在可能なビザでオーストラリアに住んでいること。
  • 市民権申請日からさかのぼって12カ月間は永住権を保持していること。
  • 市民権申請日からさかのぼって4年間のうち、合計1年以上、オーストラリアを不在にしていないこと。
  • 市民権申請日からさかのぼって12カ月のうち、90日以上、オーストラリアを不在にしていないこと。

【18歳未満の子どもの場合】

  • 16~17歳の子どもが市民権の申請を行う場合、18歳以上の申請者同様に居住条件を満たしている(経済的に多大な影響を及ぼすといったやむを得ない事情を除く)こと、そして、市民権の申請が何を意味するのか理解している必要がある。
  • 16歳未満の子どもは親の市民権申請に含めることが可能。ただし、子どもは永住権を保持している必要がある(居住条件を満たしている必要はない)。
  • 16歳未満の子どもが単独で市民権申請を行うことは可能。ただし、その子どもはオーストラリアの市民権を保持する親と同居している、または、オーストラリアの市民権を保持しない親と同居しており経済的援助を受けていることが必要。

どちらか一方でもオーストラリア永住権を持つ親を持ち、オーストラリアで生まれた場合は市民権が与えられ、オーストラリアで生まれて育ち10歳の誕生日を迎えた場合は永住権保持者でなくても市民権が与えられるよ。

徹底解剖その③市民権取得までのプロセスは?

条件を満たし、市民権を取得することを決めたら、まず必要なのは申請書類をそろえること。ポリス・サーティフィケート、ID、写真、住所の証明、オーストラリア入国の証明、人物評価の証明、市民権を持ち特定の職業に就く人物からの証明など、数々の書類が必要となる。

申請手続きは、移民局のウェブサイトから自分で申請するか、法律事務所や信頼の置ける申請代行サービスを行う業者に申請してもらう。申請費用は、285ドル。

申請後は、面接と「シチズンシップ・テスト」という試験を英語で受け、合格すると市民権取得認可が発行される。その後は各自治体が主催する市民権取得セレモニーに出席して、市民権を授与されたら選挙の有権者登録を行い、晴れて市民権保持者となる。

■オーストラリア移民局・市民権取得についてのウェブサイト「Becomean Australian citizen」
Web: immi.homeaffairs.gov.au/citizenship/become-a-citizen

16歳以上は12カ月以内にセレモニーに出席しないと市民権の申請が却下されるよ。

徹底解剖その④市民権のテストってどんな感じ?

市民権取得に試験が導入されてから、その内容や難易度が物議を醸して話題となっている。何度か改定され、現在はいわゆる一般常識をテストする45分間の英語の試験となり、オーストラリアの各州の州旗、国花、国家憲章、オーストラリアの歴史上の有名人などについて出題される。携帯電話や本、辞書などは一切持ち込めない。ただし、60歳以上と18歳以下はこの試験が免除される。

まずは事前にウェブサイトからダウンロードできる『アワー・コモン・ボンド(Our Common Bond)』という小冊子を読んで勉強しておこう。この冊子は、印刷されたA4版の物かDVD版をオーダーして取り寄せることもできる。また、日本語で書かれたPDF版もウェブサイトからダウンロードすることが可能だ。試験に出るのはパート1からパート3まで。パート4、5は試験には出ないが、オーストラリアの歴史と文化を理解するために読んでおくことが推奨されている。練習問題にも挑戦しておこう。

■『Our Common Bond』(英語版PDF)
Web: immi.homeaffairs.gov.au/citizenship-subsite/files/our-common-bond.pdf

■『オーストラリア市民権 私たちの共通の絆』(日本語版PDF)
Web: immi.homeaffairs.gov.au/citizenship-subsite/files/japanese-test.pdf

■市民権テスト・練習問題(要フラッシュ再生)
Web: immi.homeaffairs.gov.au/citizenship-subsite/files/practice-test.swf

徹底解剖その⑤市民権取得のメリット、デメリットは?

では、市民権を取得すると、一体どんなメリット、デメリットがあるのだろうか。

一番のメリットは、オーストラリア人としての恩恵を得られることだろう。オーストラリアのパスポートを保持できることはもちろん、オーストラリア国外で災害や紛争に巻き込まれた場合にも、オーストラリア人としてオーストラリア政府に保護してもらえる。家族にオーストラリア国籍を持つ者がいて、戦争など何らかの非常事態に突然巻き込まれたとしても、自分を含めて家族全員がオーストラリア市民権を持っているなら離れ離れになる可能性は低いだろう。また選挙権も与えられ、オーストラリアの政治に1票を投じることができるようになる。大学や専門学校への進学を考える場合には、学費ローンのヘックスを利用できるようになるのも大きなメリットになるだろう。また今後、移民法改正により、永住権を更新する条件が厳しくなるといった可能性も十分にあり得る。永住権を持つ移民への締め付けが厳しくなっていっても、市民権があればオーストラリアでの滞在が制限されることはない(ただし、二重国籍者ではあったが、テロ組織に関与しオーストラリア国籍をはく奪されたケースもあり)。

だが、オーストラリア市民権を取得するということは、オーストラリア国籍の保持者になるということである。ということは、オーストラリアで市民権を取得すれば、二重国籍を認めない日本の国籍を喪失する。日本人が市民権取得を検討する際に、誰もが思い悩む一番のデメリットと言えば、この日本国籍を失ってしまう、日本人ではなくなってしまうという点だろう。22歳未満の子どもの場合でも、出生と共に日本国籍と外国国籍を取得しておらず、生まれた時には日本国籍しか持っていなかった子は、その後外国籍を取得すると「自己の志望による外国国籍の取得」と見なされ、日本国籍を失ってしまう。日本国籍を失えば、母国である日本へ渡航するにもビザが必要となることもある。現在、オーストラリア人は90日以内の滞在で日本で報酬を受ける活動に従事しない場合にはビザが不要だが、90日以上の滞在や日本で給料をもらえる仕事をするにはビザが必要だ。

また、オーストラリア人になると、国、州、市などの各選挙で必ず投票する義務が生じ、投票しなければ罰金を科せられる。通知が来れば、陪審員としての務めも果たさなければならない。必要となればオーストラリアの国を守る義務も発生する。現在オーストラリアに徴兵制はないが、将来に何らかの大きな紛争が起きれば、ベトナム戦争の時のようにまた徴兵制が施行される可能性も否定はできない。

日本のパスポートは世界1 位で189カ国、オーストラリアは9位で181カ国にビザなしで渡航できるよ。(※ヘンリー&パートナーズ2019年調べ)

徹底解剖その⑥今後、市民権取得はどう変わる?

オーストラリアの連邦紋章(Commonwealth Coat of Arms)。6つの州、そして国としての団結を示し、連邦の権限と財産を明らかにしている。カンガルーとエミューが盾を支え、連邦の星がその上に乗っている
オーストラリアの連邦紋章(Commonwealth Coat of Arms)。6つの州、そして国としての団結を示し、連邦の権限と財産を明らかにしている。カンガルーとエミューが盾を支え、連邦の星がその上に乗っている

今後、市民権取得の条件はどのように変わっていくのだろうか。今のうちに取得しておくべきなのだろうか。国際色豊かな移民で成り立つオーストラリアだが、近年は移民に対する各種法律も年々厳しくなってきている。

今後可能性のある変更に関しては、これまで実際に法案として提案されたにもかかわらず、議会で通らなかったものを基に考えてみることができる。まず、現在は永住権取得後1年で市民権を取得できるが、この期間を延長して永住権取得後4年、または10年経たないと市民権を申請できないようにしようという法案が議会に出されたこと。永住者期間を1年から延長するという法案は、二大政党からは特に反対がないことから、近い将来可決される可能性が高い。

次に、現在は議会でも反対の声が多いものの、市民権取得にIELTSなどの英語テストを導入しようという動きだ。ビジネス・ビザやスキル・ビザでは既に英語力がビザ取得の条件になっているものの、パートナー・ビザや親の呼び寄せといった家族のためのビザでは、急に英語力を求められてもフェアではないという声がまだ大きい。現在のところ導入される可能性は低いようだが、将来、移民に英語力を求める声の方が大きくなっていく可能性もあり得る。

そして、市民権取得の際のテストをもっと難しくしようという議論もある。現在は基礎的な知識の範囲で問題が出題されているが、何らかのコースを取得しなければならなくなったり、ある程度の勉強期間がなければ合格できないレベルのテストに変更される可能性もある。

移民法は頻繁に改正されるとはいえ、今のところ市民権取得の条件や永住者との違いが大きくがらりと変わるという可能性は低いように思える。だが今後オーストラリアと日本が何かしらの国際的な対立に巻き込まれる場合には、市民権取得の条件が大きく変化したり、市民権を保持しているかどうかが踏み絵として使われたりすることも、将来的にはあるかもしれない。

市民権取得を申請してから取得セレモニーまでには20~23カ月掛かることが多いよ。

徹底解剖その⑦市民権は取得するべき?しないべき?

オーストラリアの国花、ゴールデン・ワトル(アカシア)。連邦紋章にも描かれ、スポーツ選手が国際試合で着用するユニフォームの色、ゴールド(黄色)とグリーンのモチーフとしてもおなじみ
オーストラリアの国花、ゴールデン・ワトル(アカシア)。連邦紋章にも描かれ、スポーツ選手が国際試合で着用するユニフォームの色、ゴールド(黄色)とグリーンのモチーフとしてもおなじみ

それでは、市民権は取得するべきなのだろうか、それとも取得しない方が良いのだろうか。

現在のところ、オーストラリアでは永住権があれば市民権を持っていなくてもほぼ市民権保持者と同様の恩恵を受けることができる。まずは、市民権の取得に日本国籍を喪失する以上のメリットが自分にはあるか、ということを考えるべきだろう。

しかし、今後何らかの対立がオーストラリアと日本の間で起こり、紛争が起きたり国交が断絶したりという可能性もゼロとは言い切れない。その時、急に市民権を取得しようと思ってもできなくなる可能性もある。また、そんな非常時には家族全員が同じ国籍でいた方が離れ離れにならずに済むのか、それともたとえ日本人同士であっても夫婦がそれぞれ違う国籍を持っていた方が、どちらの国へも避難できるため選択肢が増えて良いのだろうか。そんな非常時にはやはり自分は日本に帰りたいと考えるのだろうか。

メリット、デメリット、今後はどの国を拠点に人生を送っていくのか、そして自分はどの国の人間でありたいと思うのか。個人によってそれぞれ事情は異なり、いろいろなケースが考えられる中、自分や家族はどうなのだろうか。市民権取得の際には、熟考して後悔のない選択をしたい。


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