第136回 鬼来迎
ご機嫌いかがですか、れんです。
レンクラブは漢字検定の準会場として登録されており、毎年3回(6月・10月・1月)検定希望者の募集をしています。「検定」などと聞くと学生時代の受験勉強の嫌な思い出が頭をよぎる、という人もいるでしょうが、もっと気軽に頭の体操くらいに考えてみると漢字を覚え直すことが楽しくなるかもしれません。
日本のクイズ番組を見ていると、難しい漢字の読み方や熟語の問題が出題されたりしますが、出演者が答えられない漢字が読めると爽快な気分になりますよね。しかし逆に知らない読み方や四文字熟語がたくさんあることに気付かされ、その奥の深さを思い知らされます。それが日本のクイズ番組ならまだしも、オージーに聞かれた熟語が分からなかったりすると情けなくなってしまうこともあります。
漢字は子どもも大人もいつでも勉強できます。お子さんやお孫さんと一緒に勉強すると共通の話題が増えるでしょう。また日本文化を改めて見直すすばらしいきっかけになると思います。今年度、第2回の募集が始まっていますので、この機会にぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
さて8月16日は月遅れのお盆(お盆は元々太陰暦の7月15日辺り。現在新暦の8月15日辺りを月遅れ盆とする地域は多い)で、地獄の鬼も亡者の呵責(かしゃく)を休むという「地獄の釜の開く日」と言われています。この日、千葉県山武郡の広済寺では、諸精霊に対する供養の法会である施餓鬼会(せがきえ)が催され、その後に仏教劇である「鬼来迎(きらいごう)」が演じられます。これは「鬼舞い」とも呼ばれ、起源は鎌倉時代までさかのぼるようです。
地獄を再現して、仏教の因果応報や勧善懲悪(かんぜんちょうあく)の理法を説く日本唯一の仮面狂言で、重要無形民俗文化財に指定されています。上演されるのは「大序(だいじょ)」「賽(さい)の河原」「釜入れ」「死出の山」の四段。「大序」で登場する鬼婆に抱いてもらうと赤ちゃんが健康に育つという言い伝えがあり、次々と子どもが舞台に運ばれてきますが、大顔の鬼婆の物凄い迫力と恐ろしさで子どもは大泣き。また「賽の河原」で幼児をいじめる鬼を地蔵菩薩が救う場面も観客の涙を誘います。
仏教の教えを分かりやすく民衆に伝える活動は中世以来続けられてきました。「絵解き」「説教節」などと共に鬼来迎もこういった流れと関係の深い芸能の1つです。毎年改めて因果応報について皆で考えることはこの地域の人びとにとってとても重要なことであり、結果としてこうして長く受け入れられてきたんでしょうね。今回地獄について少し調べることになったのですが、絶対に行きたくないなと本当に強く思いました。
では、作品をご覧ください。行書の「鬼来迎」です。地獄の怖ろしい鬼をイメージして荒々しく強い字を書きました。筆先を一々硯で整えることをせず、多少の乱れは逆にそれを活用します。乱れた筆先をコントロールするのにはそれなりの技量が必要です。
筆に墨がたっぷり含まれている潤筆(じゅんぴつ)の状態ですと運筆もスムーズに進むので線を書くことが容易ですが、筆の墨量が少なくなるとそうはいきません。かすれていっても我慢して書き続け、そのかすれた線をどう見せていくのか。それは書作の醍醐味でもあります。かすれた線を書きたがらない人をお見受けすることがありますが、日ごろから渇筆(かっぴつ)を受け入れ、それを使いこなす練習が非常に大事です。
れん(書家/アーティスト)
アーティストとして永住権取得。2010年、作品「ふるさと」が日本の国有財産として在豪日本国大使館に収蔵される。Government Houseでの企画展など日・豪・ドバイで作品展示多数。在豪日本国大使館、在オークランド日本国総領事館の招聘によるイベント参加やNSW州立美術館ほか各地で大書パフォーマンスやワークショップを展開。ハリウッド映画『The Wolverine』製作に書家として参加。2016年シドニー総領事表彰を受ける。書団れん倶楽部主宰。チャッツウッドで書道教室運営。RENCLUB Lineスタンプ販売中。
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