第11回 音楽あってこそバレエ
ロイヤル・ニュージーランド・バレエ時代、ドン・キホーテのバジル役を踊る筆者(Photo: Evan Li)
今回はバレエと音楽の切っても切れない関係について。
「音楽はバレエを生み、バレエは音楽を生む」。ガリーナ・ウラノワという旧ソ連時代に最高とうたわれたバレリーナが残した名言にある通り、バレエという総合芸術においても、僕たちバレエ・ダンサーにとって、音楽は切っても切れない関係です。現代バレエには音楽なしの作品もないわけではないですが、ほぼ100%バレエの世界では音楽に乗って踊ります。
バレエとオペラやミュージカルとの大きな違いは、言葉を使わず体で表現すること。それが成り立つためには音楽の力がとても大きく、何百回も音楽と体を同調させる練習をしてさまざまな表現を身に付けます。
もちろん、バレエ特有のラインを研ぎ澄まし、テクニックを磨くことも大事ですが、僕はバレエがバレエである以上、音楽をしっかりと聞き、音の通りに踊ることで、自分が表現したいことを観客に伝えられると信じています。
「音の通り」とは言っても、単調に音符の上を歩いていくだけではなく、少し音をずらして踊ることも役柄によっては必要です。例えば、イケメン床屋のバジル(ドン・キホーテの主役)は大胆な性格で、切れのある動きとカリスマ性で人びとを惹き付ける踊りが求められます。
音の中でギリギリまで音を引っ張り、俊敏な動きでアクセントを付けてポーズするなど、全幕で2時間ほどの音楽をしっかり体に浸透させて僕たちは舞台に立っています。 ひたすらバレエでの表現を練習する僕には、言葉で表現するのがとても難しく、文面で皆様に思いを伝える練習もしっかりやらねばと思う今日このごろです。
このコラムの著者
岩本弘平/QLDバレエ団シニア・ソリスト
兵庫県伊丹市出身。11歳からバレエを始め、18歳でメルボルンのオーストラリアン・バレエ・スクールに入学。その後、ロイヤルNZバレエ団を経て、2018年にQLDバレエ団に移籍。趣味はウクレレ、スポーツ観戦、睡眠、日本のお笑い。祖母の手作り水餃子の味を懐かしみながら、大好きなウィスキーのグラスを傾ける。