第18回 バレエ・ダンサー、舞台裏での時間との戦い
皆さん、こんにちは。QLDバレエ団の吉田合々香です。今回は、公演時に舞台裏で行われる“早着替え“についてお話ししたいと思います。
バレエでは、物語が進むにつれて背景や舞台装置の切り替えがあり、場所や時間を飛び越えて観客の皆さんを次のシーンへと誘います。
大掛かりなシーンの移行は、大抵、幕間の緞帳(どんちょう)が降りている間に行われますが、作品によっては、舞台が暗転するほんの少しの間に大道具の移動や衣装替えを行わなければなりません。
舞台袖には、ダンサーの早着替えのための小さなスペースが用意されており、公演前に衣装や髪飾り、ヘアピンなどを事前にセットしておきます。
私がこれまでたくさんのバレエ作品を経験した中で、最も大変だった早着替えは、2021年のKrzysztof Pastor振り付けの『ドラキュラ』の公演でのミナ役です。
それは公演中に何度も早着替えを要する役。特に第2幕、舞台袖にはけて、ドレスからブラウスとスカートの衣装に着替え、コートを羽織って、アクセサリーを外してから帽子を被る。この間、舞台上に戻るまでたったの40秒ほど。ドレスのホックを外す係、ブラウスとスカートを着せる係、私が外したアクセサリーを受け取る係、コートと帽子を渡す係と、毎回4人の衣装部の方々に助けてもらっていました。
激しい踊りで衣装が脱げてしまったり、頭飾りが飛んでいってしまわないように、早く着替えるだけではなく、丁寧さも必要になります。
いかがだったでしょうか。次回劇場にいらっしゃる際は、ぜひ、“早着替え”を要するシーンがどのように展開するのか注目してご覧になってみてくださいね。
このコラムの著者
吉田合々香(よしだねねか)/QLDバレエ団プリンシパル・アーティスト
金沢市出身。欧州に4年間留学後、2014年QLDバレエ入団のためにブリスベンに移住。平日はバレエ漬け、週末はお菓子作りや居心地の良いカフェでの時間を楽しむ。リラックス方法はおいしい和食を食べ、お風呂に浸かり、アロマを焚いてぐっすり眠ること。好きな映画は『ジュリエットからの手紙』。