ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館(以下、NSW州立美術館)の北新館で11月24日、ルイーズ・ブルジョア展「Has the Day Invaded the Night or Invaded the Day?」のメディア向け公開イベントが行われた。その様子のリポートをお届けする。
(文・写真=櫻木恵理)
アジア太平洋地域で過去最大規模のブルジョア展
11月25日から2024年4月28日まで開催される同展覧会は、シドニー国際アート・シリーズの一環として、ルイーズ・ブルジョアの作品を管理するニューヨークのイーストン・ファンデーションの協力により実現したものである。
ルイーズ・ブルジョア(Louise Bourgeois)は前世紀に最も影響力のあるアーティストの1人として知られており、彼女の展示会としてはアジア太平洋地域で過去最大規模、オーストラリアで行われる女性アーティストの展覧会としてもかなり大きなものとなる。120点以上の作品にはオーストラリア未公開のものも多く含まれているので、これを機に出掛けてみてはいかがだろうか。
1911年にフランスのパリで生まれ、亡くなる2010年までアメリカのニューヨークで活動していたブルジョアは70年に及ぶキャリアの中で、家族や母性、セクシャリティと死、愛と憎しみ、静けさと混沌など、対立する感情や心理状態などを探求した作品を多く生み出している。
しかし、ルイーズ・ブルジョアと聞いてもピンとこない人も多いのではないだろうか。彼女の作品をいくつか紹介すれば、見たことがある人もいるかもしれない。
母親の象徴としてよく作品として登場する蜘蛛の彫刻
最初に目をひくのが、NSW州立美術館の南本館入り口にある世界的に有名な彼女の象徴的作品「Maman 1999」だ。高さ9メートル、幅10メートルある巨大な蜘蛛(くも)は、ブルジョアの最愛の母親のオマージュとして表現されている。
そして2022年にオープンしたばかりの北新館が、ルイーズ・ブルジョア展のメイン会場である。白い建物が印象的な北新館の地下2階にある明るい「昼」のスペースと、第二次世界大戦中に燃料貯蔵庫だった真っ暗なタンクギャラリーの「夜」のスペースという2カ所にまたがる展示は、ルイーズ・ブルジョアの世界観を更に引き立てている。
蜘蛛の彫刻は、彼女の母親の象徴としてよく作品として登場する。この作品では巨大な蜘蛛の脚が、網の籠を守るように包んでいる。中にはルイーズの思い出の中にある母親が幸せの中で刺繡(ししゅう)をしている時に座っていたいすがあり、それは彼女の安全基地のようにも檻のようにも見える。
この作品はフランスの丘を表現したもので、その柔らかい曲線は母体のイメージも連想される。彼女の表現する緊張と対立において色は重要な役割を持つが、赤は攻撃性や矛盾という犠牲をいとわない肯定を意味するのに対し、青は平和や瞑想、逃避などをあらわす色である。そんな色彩で、とてもポジティブで穏やかなものとして捉えていた風景がそこにある。
真っ暗なタンクギャラリーの中央で光る金色の作品は、美しさと痛み、トラウマと超越性、ヒステリーの激しさを男性の体で表現している。反り返る体は完全に丸になることはなく、それはまるでブルジョアの終わりない探求心を反映しているような作品である。
お得なチケット販売や無料の日本語ガイド・ツアーも開催
同展覧会のチケットの購入や詳しい日程は、NSW州立美術館のウェブサイトから確認を。また、世界的に有名な抽象画家カンディンスキー展も同美術館で11月4日から2024年3月10日まで同時開催中なので、両方のチケットを一緒に買うと少し割引されてお得になる。
もしくは、シドニー国際アート・シリーズのアート・パスを購入すれば、ロックスにあるオーストラリア現代美術館(MCA)で12月8日から開催されるタシタ・ディーン展も含まれ、全部で3つのアーティスト展が割安で入場できる。
Sydney International Art Series Art Pass
ルイーズ・ブルジョア及びカンディンスキーの特別展においては、無料の日本語ガイド・ツアーも予定されている。
■カンディンスキー展の日本語ガイド・ツアー:2024年1月21日、28日、2月2日、11日、18日、25日、3月3日(いずれも日曜日の午前11時から約1時間程度)
■ルイーズ・ブルジョア展の日本語ガイド・ツアー:2024年3月10日、17日、24日、31日、4月7日、14日、21日(いずれも日曜日の午前11時から約1時間程度)
この夏、国際的に有名なアーティストの作品に触れてみるのも良いのではないだろうか。