グローバル教育特集 2024
グローバル化が進む中、日本でも国際化を意識した教育を行う大学が増加している。海外での体験学習プログラムやインターンシップなどを含む、海外留学制度を設けている学校もあり、近年注目されているのが「ダブル・ディグリー・プログラム」だ。日本の大学に在籍しながら、一定期間を海外の提携校に留学することで、両方の学位を取得できる同プログラムの特長やメリットなど、体験者の声と共にお届けする。
ダブル・ディグリー・プログラムとは
複数学位取得制度とも呼ばれるダブル・ディグリー・プログラムは、文部科学省が2010年に公表した『我が国の大学と外国の大学間におけるダブル・ディグリー等、組織的・継続的な教育連携関係の構築に関するガイドライン』の中で、「我が国と外国の大学が、教育課程の実施や単位互換等について協議し、双方の大学がそれぞれ学位を授与するプログラム」と定義されている。国内外の大学が単位互換制度を利用して、学生に一定の期間において学習プログラムを修了させることにより、複数の学位を授与する仕組みのことを指す。
特にグローバル系の大学で多く導入されており、日本の大学に入学した後、決められた期間に海外の提携校に留学して履修科目を修了し、卒業時には日本と海外双方の学位が取得できるため、多角的かつ国際的な視野を身に付けることができる。ダブル・ディグリー制度を活用しない場合、海外の大学に正規留学することを考えると、学位を2つ取得するには最短でも8年は掛かるが、その期間を半分にすることができる点が最大のメリットと言える。
それぞれの大学によって提携先の大学との協定が異なるため、プログラムの詳細はさまざまだが、共通点として「日本の大学に在籍し、海外の大学に正規生として学位留学できること」や「留学先が協定校のため、日本の大学内での基準に合格すれば通常の入試は免除されること」などが挙げらる。また、通常より短い期間で学位を取得することが可能な場合が多い。大学によっては、留学先の大学の入学金や授業料を払うことなく、日本の大学の授業料のみで留学できる制度を整えている場合もある。
取得するには高いレベルの語学力が必須
ダブル・ディグリーを取得するためには、基本的に提携先の大学へ数年間留学することが必要だ。海外で学位を取るということは、ネイティブの学生と同じ専門的な授業を受け、試験にパスしなければならないため、大学の授業について行けるだけの語学力が必須となる。
また、国内の大学でダブル・ディグリー・プログラムを履修するためには、学内選考が設けられているケースが多く、大学での成績や語学能力に関して定められた基準を満たしていることが求められる。TOECやTOEFL、IELTSなど語学テストで高スコアを保持していることが必要とされるので、ダブル・ディグリーを目指す場合、早めに準備し、アカデミックでも通用する語学力を磨いておかなければ、実現は難しくなってくるだろう。
ダブル・ディグリー・プログラムは、東京大学や、東京工業大学、一橋大学などの国立大学に加え、早稲田大学や慶應義塾大学、明治大学、立命館大学などの私立大学が導入している。学修期間は、日本と海外2つの大学を合わせて4~6年間に設定されているケースが多く、修士を取得できるプログラムを用意している大学もある。
ダブル・ディグリー・プログラム体験談
現在、立命館大学に在学中でダブル・ディグリー・プログラムに参加し、オーストラリア国立大学に留学中、日豪プレスでインターンシップを行った荒木凛さんに、話を伺った。
物事を多角的に学ぶことで視野が広がり、将来の選択肢が増えたことを実感
荒木凛さん
あらきりん●立命館大学4年生。青年期をアメリカで過ごし、大学進学を機に日本に帰国。ダブル・ディグリー・プログラムにより2023年にオーストラリア国立大学に留学。25年の春に卒業予定。
──ダブル・ディグリー・プログラムについて、いつどのように知り、なぜその進路を選択したのですか。
小学6年生の夏に父の仕事の都合で渡米し、6年半ほどをアメリカで過ごし中学と高校を卒業しました。大学進学について考えた際、自分の英語力を落とさず、そして成長させてくれるような環境が良いと思いました。関西に住んでいたこともあり、関西を中心に大学を探していたところ、立命館大学のグローバル教養学部で帰国子女入試が実施されているという情報を塾の先生に教えて頂き、調べ始めました。コロナ禍であったため、オンラインで学校説明を個人的にして頂き、そこでダブル・ディグリー・プログラムがあることを知りました。
4年間で2つの学位を取得できるのは珍しく、自分自身の可能性が広がると考えました。日本にいながら両学校の勉強をするのは大変だと思ったのですが、全て英語で授業が行われることや文理関係なく物事を多角的に学べるところに興味を持ち、立命館大学に入りたいと考えるようになり、志望するようになりました。立命館大学は留学生も多いため、国際色豊かな環境という点も魅力の1つでした。
立命館大学の提携校はオーストラリア国立大学で、アジアや太平洋諸国について学べるのはとても貴重な機会だったことに加え、オーストラリアと太平洋諸国というのは距離的にも近いためオーストラリア人がどのような考えを持っているのかを、授業を通して学ぶことができました。オーストラリア唯一の国立大学で学べたことは大変貴重な経験です。
──入学後、ダブル・ディグリー・プログラムに参加するために行った準備や勉強法を伺えますか
留学するためには、立命館大学在学中に必要なクラスを取り、C以上の成績を取ることが必須とされています。他にもTOEFLまたはIELTSの所定点数を超える必要がありますTOEFLは80点以上、リーディングとライティングで20点を取ることに加え、リスニングとスピーキングで18点を取るという条件があります。IELTSは、O verall6.5で、全ての分野で6以上を取らなければなりません。
成績のために大学の授業では理解することを大切にし、分からないことがあれば積極的に教授と話すようにしていました。大学では自ら行動することがとても重要です。行動すればサポートしてもらえる環境がそろっているので安心できます。成績は課題やプレゼンテーションが大半なので、疑問に思うことはしっかり聞いて、良い成績を保ってきました。また、語学試験は授業以外に勉強する時間を自分で作らないといけません。そのハードルを越えないと留学に行けないので、塾に通う人もいました。
──日本の大学とオーストラリアの大学では、それぞれ何年間、どのようなことを学ぶのですか。
私はグローバル教養学部を専攻しており、立命館大学で3年間、オーストラリア国立大学で1年間学びます。文理関係なく学ぶため、統計学を学ぶこともあれば哲学や国際関係論、デザイン学、歴史学を学ぶこともあります。科目の選択肢があるので、教養学をベースに、興味のある分野や好きなことを学べる環境です。
1年目は立命館大学でグローバル教養学部のカリキュラムに沿って学習しますが、2年目からはオーストラリア国立大学の勉強と半々で学ぶことになります。オーストラリア国立大学では、アジア太平洋学を専攻することになります。前期、後期4クラスずつ取りますが、2つは立命館大学のクラスで、もう2つはオーストラリア国立大学のクラスです。
私は3年生の時にオーストラリア国立大学で1年間アジア太平洋学を学びました。アジアや太平洋諸国の政治や環境問題、戦争と平和についてなど、幅広い知識を得ることができます。4年生になると立命館大学でゼミを取り、卒業論文を書くことになります。2人の先生を選び、そこからトピックを考え、先生方の知識を組み合わせて卒業論文を書いていきます。前期と後期で先生が違うので、2回卒業論文を書くことになりますが、だからこそ自分の知識を広げ、多角的に物事を考えることができるため、他の大学のよりもユニークだと考えています。
──日本とオーストラリアの大学、及びライフスタイルについてどのような違いを感じましたか。
寮生活に大きな違いを感じました。日本の学生は、寮に入るのではなく実家暮らしまたは1人暮らしをするイメージがあります。立命館大学のグローバル教養学部には寮がありますが、他の学部の学生は実家か1人暮らしが多いです。一方、オーストラリアでは寮自体の数が多く、そこで生活する学生の人数も多かったです。その中でさまざまなイベントが開催され、寮ごとのパーティーがありました。日本ではそのようなイベント自体が少ないと感じました。
また、寮だけでなく大学のイベントが多数開催されるのが日本とは異なる点でした。日本では、学祭のような年に一度開催される大きなイベントがありますが、小さなイベントは通常ありません。そのため、オーストラリアの方が、学生同士のつながりができる機会が多いような印象です。日本では、サークルで他学部の友人を作るのが一般的ではないでしょうか。そういった点で違いを感じました。
── 留学先で起こしたアクション、挑戦したこと、意識したことを教えてください。
オーストラリアでは、現地の学生と同じクラスを取ることになるので、授業中だけでなく授業以外の時間にも教授に連絡を取るなど、自発的に行動していました。友人を作るのも、待っているだけでは何も起こらないで、自分から人に話し掛けたりしてコミュニケーションを取るようにしていると、学部外にも友人を作ることができました。
他にもチアリーディング部に所属し、部活動にも励みました。高校でバスケットボール・チアリーディング部だったこともあり、友人と一緒にチアリーディング部に入り、大会などを経験してとても楽しい思い出となりました。日本では体験できないようなスケールの大きい大会に行ったり、賞を取ったり、自分自身が成長できた期間です。部活動以外には、カフェでアルバイトをしてさまざまな人と出会い、海外で働く経験を通して責任感が生まれました。それだけではなく、クラブに行って楽しんだり、友人と旅行に行ったりして、学生らしい生活をしました。
日本ではできないようなことを体験できたのは、自分からアクションを取ることを忘れなかったからだと思います。チャンスを待っているだけでは、1年でこれほどの経験をすることはできなかったでしょう。自分から行動し、楽しみながら学ぶことを意識していました。
──オーストラリアでは、日豪プレスでインターンシップを行うなど、学外での活動も行っていました。インターンシップではどのようなことを経験し、学びましたか。
日豪プレスでのインターンシップはすごく楽しくて、新しい学びを得ることができました。1つの記事を作成するまでの過程や、苦労などを少しではありますが理解させて頂きました。日本語の記事を英語に訳す仕事をした際、1つの言葉でこんなにも悩むのかと実感したことを思い出します。間違った言葉を使って、伝えたいことを台無しにしたくないと緊張しながら悩み、完成した英訳を見ては何度も書き直しました。自分の英語力がまだまだだと感じることもありましたが、言葉の大切さについて考えさせらせる経験でした。読みやすい言葉で、そして人に読んでもらえるようなタイトルを付けるという点も難しかったです。
──日本とオーストラリア両国の大学生活を経験し、特に印象に残っている出来事は何ですか。
オーストラリア国立大学での学部はアジア太平洋学だったので、教授が太平洋諸国出身であったり、オーストラリアは太平洋に近いので日本にいる時よりも身近に感じることができました。日本にいる時はオンライン授業で学んでいたため、あまり実感がなく、深く理解するのが容易ではありませんでした。オーストラリアに滞在することで、アジア太平洋諸国同士の関係を、身を持って体験するからこそ理解できた部分がありました。
オーストラリアは、非常に多国籍な国なのでそれぞれの文化を尊重してくれる傾向にあります。学生はキャンパス内の寮で過ごすことが多いため、学生同士のコミュニケーションが多くありました。一般的な観点から言うと、日本は1人暮らしが基本となるので、そういった点の違いも大きいと思います。しかし、立命館大学のグローバル教養学部は、海外の大学の環境に近く、多国籍な教授たちがいます。そして、授業は全て英語で行われ、サポート体制も整っているので、特に大きな違いを感じることはありませんでした。立命館大学は、帰国子女や海外からの留学生たちが違和感なく過ごせる環境になっていると思います。
──ダブル・ディグリー・プログラムを活用することで強みとなった部分はどのような点ですか。
私は、ダブル・ディグリー・プログラムのおかげで将来の選択肢が増えたと思います。日本と海外での大学生活を体験し、多くの経験をしてきた教授と出会えたことで視野が広がりました。学生も人種やバックグラウンドが多種多様なので、他学部で学ぶよりもインターナショナルです。日本でもそのような環境にいられるのは、グローバル教養学部でダブル・ディグリー・プログラムに参加しているからだと思います。
私は留学先で3年生になり、現地で就職活動の準備を始めたのですが、海外に住んでいた期間が長いこともあり国内選考は難しいと考え、ボストン・キャリア・フォーラムに参加しました。そこでは日本国内の学生と海外の学生で選考が違う場合や、海外の大学生しか受け入れていない企業もありました。そういった場合でも、ダブル・ディグリーなので大学名を記入する欄にどちらの大学名も入れることができたのは、とても大きな強みでした。そして、英語が話せるからこそ、外資系の企業もハードルが低く挑戦できるのは、全てを英語で学ぶ環境が整えられたグローバル教養学部だからこそだと思います。日本の企業でも海外の企業でもチャンスがあり、そのチャンスをつかめるのはダブル・ディグリーならではです。
── 最後に、ダブル・ディグリー・プログラムに興味を持っている人や、その親御さんへのメッセージをお願いします。
ダブル・ディグリー・プログラムでは、物事を多角的に学ぶことができます。いろいろな国籍の学生がいる環境で学ぶことができるので、国際色豊かで視野が広がるとても貴重な経験になると思います。2つの大学の学位を取得するのはもちろん簡単ではありませんが、それ以上に得ることが多いです。また、両大学の学位を取ることで日本だけでなく海外で働けるチャンスにもつながります。日本の大学の学位を取っても、海外では知名度が低く、チャンスが限られてしまう場合もありますが、海外の大学の学位を持っているからこそ、英語力の証明になることに加え、経験も伝えられるので将来におけるチャンスも広がるでしょう。
──ありがとうございました。