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源氏物語の色彩の美をいけばなで体現─A Journey through Love/花のある生活 – flower in life – 第58回

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麗筆(れいひつ)の美しさに奔放な曲線の赤づるが絡み、流れるような曲線に薔薇の花の色香が漂います。初夏の愛らしい作品をお楽しみください

 今年は源氏物語の作者である紫式部が大河ドラマの主人公になっていることもあり、ゆかりのある寺院や仏閣がにぎわいを増しています。私はその物語に登場する色彩の美をいけばなで体現してみようと「源氏物語・平安の時を超えて─A Journey through Love」という、いけばなの個展を京都で開催しました。

 レディ・ムラサキとして日本国内はもとより世界の文学となった、作者で歌人の紫式部。式部によって描かれたこの書物は単なる恋愛小説ではなく、時代を超えて常に新しく、触れる度に深みを増していくように感じます。千年の時を超えて、今もなお鮮やかな色彩の美学を感じる源氏物語には、普遍的な人間の感情が色濃く刻まれています。「愛すること」が平安の時を超えて、どのような旅をしてきたのか、花の力と共に表現した作品の1つを紹介いたします。

 奔放な曲線が魅力の赤づる(こくわづる)を使い、墨で文字がしたためられた和紙を絡めて、つる薔薇(ばら)をのぞかせました。紙は楮(こうぞ)という植物からの由来で、花との相性も良く、意外な出合いが作品として調和することがあります。

 瑞々しい植物を色あせることなく保たせて、蓬(よもぎ)色をした柳のような枝垂れた葉をあしらえた作品は、初夏を彷彿とさせる躑躅(つつぎ)や皐月(さつき)の色合わせを意識しています。5月の京都で行われる葵祭では多彩な衣裳を纏(まと)っていた時代を再現したような十二単や装束の姿をした人びとが街を練り歩き、その様子は平安時代を思わせます。

 物語の主人公、光源氏が次々と女人たちに出会い、恋愛を重ねながら繰り広げられる長編大作には、日本の細やかに移ろう自然が優美に映し出されています。そこには美しい色香があって、物語に描かれる普遍的な物事には「愛すること」があらゆる表現を以て盛り込まれ、平安の時を超えて旅をしているように感じます。

 これからも果てなく続く旅路の途中で、ふと私の心に止まった優美な世界をいけばなにしてみました。

このコラムの著者

多田玲秋(Tada Reishu)

いけばな作家
Web: https://www.7elements.me/

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