アリサが新技「トトロハマり」を覚えた(『となりのトトロ』にハマっている、の意)。時には、朝連続2回〜夜1回と1日に計3回見る日もある。累計の視聴回数は間違いなく80回を超えているだろう。毎朝起きるなり「トトラ見たい」、チャイルド・ケアから戻るなり「トトラ見たい」と言う。たとえ大泣きしていても「トトラ見る?」と聞くと「うん」と言って泣きやむ。我が家の歴史はトトラに助けられてきた歴史でもある。
そんなアリサが4月末に2歳のバースデーを迎えた。もちろん盛大にお祝いしたが、その翌朝、やはり起き抜けに「トトロ見たい」と主張。ん? そう、「トトラ」ではなく「トトロ」と正確に口にしたのである。アリサなりに2歳になったことの証左として、成長を示したのだろう。
「ついにきちんと言えるようになったね!」と褒める僕。
その横で「アリーの『トトラ、トトラー』かわいかったのにな……」と少し寂しそうなMEG。成長の喜びと同時に失われるものもある。世の普遍というやつだ。
アリサの「トトロハマり」により、例えばカイトがセリフを暗唱できるようになるなど家族にもいろいろと影響(効果?)が出始めていたが、僕には2つ変化が訪れた。
1つは現在この原稿をノートに手書きで書いていることだ。本コラム執筆はもちろん仕事の一部ではあるものの、同時にただ皆さんに緩く(できれば楽しんで)読んでもらいたいだけの書き物ゆえ、ビジネス的側面はほぼゼロ。必然的に他の業務に比べ執筆が後回しになりがちで、ビジネス・アワー以外、なんなら土日に書いているケースも多い。だが、仕事時間以外となるとどうしても子どもたちにペースをかき乱されたりもする。
そんな中気付いたのが、トトロの主人公、サツキとメイのお父さん·草壁タツオがスーパーイクメンであるということ。考古学者であるタツオは、非常勤講師として時に大学に足を運ぶものの、昭和のこの時代には珍しいリモート・ワーカーだ。自宅で調べ物をしながら原稿を執筆し、家事や育児もしっかりと行っている。そんな折、トトロ内のシーンでお父さんが「娘を遊ばせながら原稿を書く術」を発動していることに気付いたのである。
「お父さん、お父さーん」とたびたび声を掛けてくるメイ、気付けば庭で摘んできた花を机に並べたりなど、執筆や調べ物を中断させられることもしばしばあるのだが、お父さんはそれをいとわず、すぐに目の前のノートに向かい再び集中力を発揮するのだ。僕もそこに本稿執筆スタイルに関する着想を得た。仕事部屋でデスクに向かってキーボードを叩くのをやめ、子どもたちが遊んでいるリビング・ルームでノートに向かってペンを動かすことにしたのである。つまりは手書きだ。そして、これがなかなか良いのだ。
ボールペンで書いているため、書き直し部分は二重線で消したり、作業が中断しても吹き出しで「次は○○について書く」などメモしたり、アリサがまたトトロを見始めたら「今もトトロを見ている」とキャプション案をノートの端にメモしたり。雑多に文字を操り、時にはちょっとイラスト的ないたずら書きも加わるなど、ノート自体がだんだんとビジュアル的な魅力を帯びてくるのが創作じみていて面白い。正確な文字数がカウントされないのもまた良い。ある程度ファジーな分、より「徒然(つれづれ)」マインドで原稿に向かうことができるようになったのである。
今さら「YouTube」にどハマり
2つ目の変化はYouTubeを見るようになったことだ。「トトロハマり」の術中下、僕はトトロという物語の持つ「深み」に引き込まれていった。
このオブジェクトは何の意味を持つのか、このシーン、セリフはなぜここに挿入されているのか、そもそも「トトロ」とは何なのか? その答え(らしきもの)を求めてネット検索を繰り返した結果YouTubeにどっぷり浸かってしまったのである。
もちろんこれまでYouTubeを見てこなかったわけではない(作業用BGMを流したりなど)。だが、少なくとも僕にとっては「文字」情報の方が、明らかに情報収集効率が良く、動画はスキップ、あるいは早送りする対象だった。
ただ、今回のように、トトロの裏設定などを追いかける際には、絵や音楽があった方が理解が早いため、大体1.5倍速で全体を見ることが習慣化した。さて、問題(?)はそこからだ。皆様もご存知の通り、YouTube上にはいかにも「自分が関心ありそうな」動画のサムネイルが山ほど並ぶ。そして僕はこれまで見向きもしなかったそれらをついに開くようになってしまったのだ。
中でもどハマりしたのは料理のチャンネルだ。これまでも料理のレシピを検索する機会は多々あったものの、ざっくりと全体像を文字情報でつかみ、あとは自分のやり方で作ってきたのだが、プロの解説付きの動画チャンネルの、まあ面白く、気付きの多いこと。そのほか、ビジネス系チャンネル、ゲーム関連チャンネルなどなど、今さらながら「YouTubeおもしれーっ」となってしまったのである(世間的にはだいぶ周回遅れ)。
とはいえ、日豪プレスのビジネスもかなりSNSなどのチャネルを活用したものが増えてきており、僕自身もこの際、動画にしっかりと親しみ、知見を蓄積していくフェーズでもあるなと感じている。豪州在住日本人の多くは知っているだろうが、ここ10年以上、日本のスキー・リゾートにオーストラリア人が大挙して押し寄せている。そしてその流れは現在、過去最大のストリームになりつつある。それもあり今年1月、僕も北は北海道から西は岐阜までスキー・リゾートを行脚したのだが、その際に数百本の動画を収録し帰ってきた(その取材を雑誌化した『jSnow』は絶賛配布中。電子版は下記QRコードより)。
かつてはスチール写真撮影が取材のメインだったが、これも時代の流れ、最近は動画撮影に力を入れており、その意味でも実は先述した動画視聴は良きインプットともなっているのだ。僕自身の哲学として「編集者はあくまで黒子」という思いがあり、自分が表に出ることを良しとしてこなかったがこれもまた時代の流れ。自分自身が表に顔出しすることがビジネスの信頼にもつながると考えを改め、最近では動画にも顔を出すようにしている。直近では豪州の公共放送SBSにも「オーストラリア人にますます人気の日本のスキーの現状」と題したインタビューに出ている。興味がある人はぜひ見て頂ければ幸いだ(以下リンクより)。
このコラムの著者
馬場一哉(BBK)
雑誌編集、ウェブ編集者などの経歴を経て2011年来豪。「Nichigo Press」編集長などの経歴を経て21年9月、同メディア・新運営会社「Nichigo Press Media Group」代表取締役社長に就任。バスケ、スキー、サーフィン、筋子を愛し、常にネタ探しに奔走する根っからの編集記者。趣味ダイエット、特技リバウンド。料理、読書、晩酌好きのじじい気質。ラーメンはスープから作る。二児の父