フォティチュード・バレー/ブリスベン
最近、街のそこかしこに“壁画”を見掛ける。「壁画」なんて書くと、世界史の教科書に出てきた旧石器時代の洞窟内の壁画の類を語感として想像してしまうが、もちろんそんなものではない。英語でいうところのミューラル(mural)、いわゆるグラフィティーとは明確な一線を画した高い芸術性で建物の壁面に新たな生命を吹き込むストリート・ポップ・アートだ。
ブリスベンのサバーブでも、さまざまなミューラルが街行く人びとの目を楽しませるだけでなく、街並みにポジティブなアクセントやインパクトを与えている。
このミューラル、実は景観維持の観点からも効果大。というのも、完成度の高い作品には、街の至る所にグラフィティーを施す連中も手出ししない暗黙の諒解があるようで、今やグラフィティー対策に意図的にミューラルが施される建物もあると聞く。
写真は、ブリスベン随一の歓楽街フォティチュード・バレーの外れにある楽器屋の壁面を飾る秀作。プリンス、ジミヘン、ラモーンズ、エイミー・ワインハウス、見切れてしまったがデビッド・ボウイといった偉大なミュージシャンが生き生きと描かれている。他都市の系列店舗と被らないよう人選したのか、オージーが1人も含まれていないのは少々寂しいが、さすが、その世界で名の知られたアーティストの作品だけにすばらしい完成度は一見の価値あり。
メルボルンやシドニーに比べて、街並みに趣がないと揶揄されてきたブリスベンだが、最近は贔屓目(ひいきめ)無しでグッと洗練されてきたように感じる。さまざまなミューラルがそれにひと役買っているのは間違いない。
読者の皆さんも、散策がてら、すてきなミューラルを探してみては。
植松久隆(タカ植松)
文 タカ植松(植松久隆)
ライター、コラムニスト。ブリスベン在住の日豪プレス特約記者として、フットボールを主とするスポーツ、ブリスベンを主としたQLD州の情報などを長らく発信してきた。2032年のブリスベン五輪に向けて、ブリスベンを更に発信していくことに密かな使命感を抱く在豪歴20年超の福岡人