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宝石大陸見聞録 その5─北部準州でいろいろ掘って、しまいには車輪まで掘ったというお話/トミヲが掘る、宝石大陸オーストラリア 第37回

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スチュアート・ハイウェイからプレンティ・ハイウェイに乗り換え、一路、東のジェム・フィールドへ

 ジェム・ツリーのキャンプではぐっすり眠れ、翌朝、スッキリと目が覚めた。念のため、昨晩の到着が遅く聞けなかった石探しの情報をキャンプ場のスタッフに聞いてみたが、これと言って目新しい情報はない。興味があった石探しツアーは既に出発してしまっていて、あいにく翌日は催行しないらしい。

「今回は、すてきな石との出合いを引き寄せている。ツアーで1つのエリアに留まるより、ハーツ山脈をドライブしながら、行き当たりばったりでどんな石に出合うか試す方が俺らしい」と自分自身に言い聞かせて愛車のエンジンを掛ける。

NT(北部準州)ハーツ・レンジ(Harts Range)にある発音が難しい町、アティトゥジェレ。この一帯はアボリジニーが静かに生活している場所なので、静かに通り過ぎるだけ

 プレンティ・ハイウェイはQLD州まで延びる高速道路。以前得た情報ではオフ・ロードの砂利道とのはずが、コロナ禍の移動制限中に行われたインフラの集中整備で奇麗に舗装されていた。「なんだ、こんな良い道ならQLD州からまたすぐに来れそう」などと軽口を叩きながら東へと車を走らせ、手持ちの地図に乗っているスポットを当たっていく。

車を降りて、さっと道端の石を観察してみるだけで、石英やピカピカと光る黄鉄鉱か雲母のような物が入った石などが当たり前のように手に入るのにはビックリ

 まずは、アティトゥジェレ(Atitjere)という町の旧雲母(うんも)鉱山。アボリジニーが多く暮らす人口250人ほどの町は静かだが、異様なほどゴミが散乱している。四方八方から得体の知れない視線を感じて、体内“危険察知アラーム”が鳴ったので早々に退散して町外れの鉱山跡地へ。鉱山跡の岩山の横には古い物置小屋がポツンとあり、地べたにはビール瓶の欠片が散乱していた。

 「まぁとにかくは探索だ」と視線を下に向けると、小指の先ほどの大きさの雲母があちこちに落ちている。1時間ほど岩山を探索後、掌大の雲母をゲット。宝石ではないがすてきな鉱物を得られて満足したので、岩山の山頂でサンドウィッチを頬張ってから次のポイントへ。

雲母鉱山跡地。散乱したビール瓶の欠片に太陽の光が反射して石探しをするには大変な場所。ここみたいに掘った場所に敬意を払わず、汚したまま放置するから規制が厳しくなったり、アボリジニーが嫌がったりするのが分からないかな……

 その後、地図の示すポイントを幾つか訪れてみても、道が険しくなんとかたどり着いても空振りばかり。「もうこれが最後」と臨んだのが、ジルコン・フィールドというポイント。未舗装路を走り、ポイントまで5キロほど手前までたどり着いたが、ここで車のタイヤが砂地にハマってまさかの立ち往生。シャベルでタイヤの下を掘って大きめの石を敷き詰めることで、なんとか脱出には成功したが、これ以上進むのは危険と判断して引き返すことに。

ジルコン・フィールドまであと10キロ地点。この後5キロほど進んでから悪夢が待ち構えていようとはこの時点では当然知る由もない

 戻りの道中、高さ20メートルほどの丘があったので散策してみると、雲母の他にも見慣れない石がゴロゴロしていた。これは何だと頭をひねりながら踏み締める1歩1歩が楽しい。そうする内に、白濁色にうっすらと淡い緑色が入ったアパタイト(燐灰石。通常は青く、硬度5の鉱物)がたくさん落ちているポイントを発見。青い物でないと価値はないが、初めて自分で見つけたアパタイトは旅の思い出と立ち往生の悪夢を詰め込んだ忘れられない特別な石になりそうだ。

掌サイズの雲母。ピカピカと光る層状の鉱物だ。磨けない石だが、これくらいの大きさだとテンションが上がる

 キャンプ場に戻り、シャワーで疲れとほこりを洗い落とす。今夜は、このキャンプ場名物の週に1度、豪快に大型BBQで調理されるロースト・ビーフが楽しめる夜。宿泊客がほぼ全員参加するにぎやかなテーブルを囲んだのは石と旅が好きな人ばかり。いろいろ情報交換しながら、ビールとロースト・ビーフに舌鼓を打つ。ツアーに参加した人に話を聞くと、「ガーネットを見つけたけど、小さいものばかりで……」と浮かない表情。「まぁ掘って見つけられただけ良いじゃん。俺なんか、石探しどころか、はまった車の救出のためにしか地面掘ってないよ」とジョークを飛ばしたら大ウケ。笑いながらビールを飲む楽しい夜はあっという間に過ぎていった。

キャンプ場“宝石の木”での週に1度の人気イベント。薪と釜で調理されたアウトバック風ロースト・ビーフに満天の星空の下で舌鼓を打つ

 翌朝、出発前にキャンプ場のスタッフに「次回はツアーにも参加するよ」と話すと「ちょっとこっちに来い」と建物の横に連れていかれると、そこには、テーブルの上に盛られた大量のガーネットが。「石が好きなら、ここのガーネットを少し持って行っていいよ」と、うれしいことを言ってくれるではないか。ありがたく少し拝借してから、スチュワート・ハイウェイを北上。途中、エイレロン(Aileron)の巨大アボリジニー像前で記念撮影がてら休憩。ついでに少し散策すると道端に小粒の水晶が落ちているのを発見。ファセット・カットできるかどうかギリギリのサイズでも、思わぬ出合いはいつでもうれしいものだ。

NTのアイレロン。巨大なアボリジニーのオブジェが目印の道の駅

 デビルズ・マーブル(Karku Karlu、アボリジニ語で”丸い岩”)に着いたら、キャンプ場は既に満員。仕方がないので更に100キロほど北の1930年代にゴールドラッシュに沸いた町テナント・クリーク(Tenant Creek)を目指す。なんとか日暮れ前に到着できたので、夕陽が良く見える丘バッテリー・ヒルを今宵の寝床に定めて車中泊。

 翌朝、丘のふもとの案内所に石探しの情報を得ようと訪ねてみたが、金以外これと言った有力な情報はつかめない。であれば、「ここからは、舵を大きく東に切って一路、QLD州を目指すか」などと思案しながら車へと戻る途中、視線の先の地面で灰色の石が光った。「ひょっとしたらマグネタイトかな」と磁石を近付けてみると、弱々しい微量の磁力だがくっ付く。やった! ビンゴ!! マグネタイトだ! 先日のマグネティック・ヒルでの体験もあり、磁力のあるマグネタイトとの出合いに大人気なく興奮してしまった。

 これまで、さほど興味のなかった物に急に興味が湧き始めるから石は楽しいし、奥が深い。このテナント・クリークでの思いがけない出合いに大満足で、心置きなく次の目的地へ旅立てた。

ふと視線が捉えた先に、ピカピカと光沢があり、何かが違うとひと目で分かる石が落ちていた。磁石に反応するマグネタイト(磁鉄鉱)だ。

 とまぁ、広大な宝石大陸の見聞録、今回で5回目なのだが、トレジャー・ハンターは果たして無事に本拠地のブリスベンに帰りつけるだろうか……。さぁ、とにかく先を急ごう。まだまだ、正直、掘り足りない。必ずやどこかに“♪私を待ってる石がある~”なんて思わせてくれる石探しはこれだから止められないんだな。

(この稿、続く)

このコラムの著者

文・写真 田口富雄

在豪25年。豪州各地を掘り歩く、石、旅をこよなく愛するトレジャー・ハンター。そのアクティブな活動の様子は、宝探し、宝石加工好きは必見の以下のSNSで発信中(https://www.youtube.com/@gdaytomio, https://instagram.com/leisure_hunter_tomio, https://www.tiktok.com/@gdaytomio)。ゴールドコースト宝石細工クラブ前理事長。23年全豪石磨き大会3位(エメラルド&プリンセス・カット部門)





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