「Sushi(スシ)」という言葉は、すっかり地元のオーストラリア人にも定着し、英語化している。都市部では、手軽に巻き寿司が買えるテイクアウェイ(テイクアウトの豪州流の呼び方)店がショッピング・センターに並び、回転寿司店も多い。
こういった寿司店で働く日本人も多く、現地在住の人びとならではの会話にも寿司に関する単語が生まれてきているようだ。
日本語では寿司を握る人といえば「寿司職人」という言葉を使うが、これが現地で寿司を提供する人びとの名称となると、「寿司シェフ」となる。日本の寿司職人のような修行を経ていない人びとのことを「職人」と呼ぶのはどうかという気持ちが働いていることもあるだろう。
オーストラリアのテイクアウェイ店で販売されている巻き寿司は、日本の寿司とは少々違う。まず生魚はサーモンぐらいしかなく、アボカド、チキンカツ、エビフライや唐揚げといった具がそれぞれの巻き物に使われていることが多い。またひと口サイズには切られておらず、10センチほどの筒状のままで、太さも日本の細巻きと太巻きの中間サイズのものが一般的だ。
そういった寿司を作る人びとは、現地の日本人向けの求人広告では「sushi roll(スシ・ロール)」を作る人として「ロール・セクション」で働く「ロール職人」「ロール・メーカー」などと呼ばれている。
当然、酢飯も英語の影響から「寿司ライス」などと呼ばれることも多い。日本人が働くような寿司店とは言え、現地の店舗ではやはり共通語は英語となる。そういった環境で相手の言語によって「酢飯」と「寿司ライス」を使い分けるよりも、よく使う単語だからこそ、どちらの言語の話者に対しても共通して使いやすい「寿司ライス」の方を使うようになるのだろう。
プロフィル
ランス陽子
フォトグラファー/ライター、博士(美術)。現在、グリフィス大学の大学院でオーストラリアの日本人コミュニティーにおける日本語変種を研究中。ゴールドコーストでの調査を手始めに、今後はオーストラリア各地での調査を予定している。在豪日本人が使用している面白い言葉についての情報を募集中。情報やメッセージはFBコメント欄かFBメッセージまで。「オーストラリア弁を探せ!プロジェクト」
(Web:www.facebook.com/JapaneseVariationInAUS)