日豪間の草の根の交流活動を支える「豪日交流基金」

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 長年にわたる交流の中、国防など政府間の関係性だけでなく、近年、草の根交流でも親密な関係性が目立つ日本とオーストラリア。両国間の文化交流を始め、旅行者の行き来なども過去に例がないほど高まってきているが、そのような活動を裏で支え、2国間の関係性向上に尽力してきたのが豪日交流基金(Australia-Japan Foundation=AJF)だ。本記事ではAJFの活動紹介に加え、同基金で初の日系女性理事長に任命された小川夏子さんへのインタビューを紹介する。

1980年代から続く日豪ライフセービング交流。オーストラリアで行われる救助技術を競う大会を日本に紹介するプロジェクトを助成 ©Surf Life Saving Queensland

オーストラリアで日豪をつなぐ最も歴史のある文化基金

「豪日交流基金(Australia-Japan Foundation、以下AJF)」は1976年にオーストラリア政府によって設立された、オーストラリア最古の、歴史ある文化交流機関だ。本部はキャンベラにあり、日本では東京にあるオーストラリア大使館が業務をサポートしている。その目的はオーストラリアと日本の間の人的交流や制度的連携の深化、外交政策及び貿易目標の促進などにあるが、大きく主要な目標として以下の3つを掲げている。

(1) 日本でのオーストラリアに対する関心を高め、両国の利益に関する理解を促進する。
(2) オーストラリアにおける日本のプレゼンスを高め、経済的、及び戦略的パートナーとしての役割を高める。
(3) 日本においてオーストラリアの卓越性や専門知識をアピールする。

2024年10月、ホバートでタスマニア拠点の団体が成果発表を行った©AJF/DFAT


 理事会メンバーは、皆オーストラリアの外交政策及び経済外交の優先事項に関して幅広い専門知識を有しているが、2026年に50周年の節目を迎えるタイミングで、日系オーストラリア人の小川夏子さんが理事長に就任することになった。

 AJFは現在、これまでの成果を振り返りつつ、次の50年に向けた基盤作りを推し進め始めてい
るという。

「新たな挑戦に向けて、未来を担う世代を鼓舞サポートしていく予定です」

 小川さんはそう話し、「今年開催される大阪・関西万博では、現代オーストラリアを象徴するテーマが紹介されるため期待してください」と付け加えた。

下田とマルチドーのライフセービング・クラブの交流©AJF/DFAT
「Meals on Wheels Japan」プログラム©Meals on Wheels Japan
シェパードセンターによる障害児支援©The Shepherd Centre

AJFの助成金プログラムとは?


 AJFは毎年、日豪間の団体や個人を対象に助成金を提供している。この助成プログラムは、両国のつながりを深めるためのプロジェクトの支援を目的としており、毎年およそ20件のプロジェクトに対して1件あたり1万~5万豪ドルを助成しているという。また、一部のプロジェクトには、複数年にわたる助成が提供される場合もあり、特に、地方での活動、効果的な広報計画を伴うプロジェクトを歓迎しているそうだ。助成の対象となる分野は以下の通りだ。

社会、文化、スポーツ:日豪間の文化交流やスポーツ・イベントを通じた相互理解の促進
●経済外交と地政学:貿易、外交、戦略的パートナーシップの強化
教育とオーストラリア研究:学術交流や研究の支援を通じた知識の共有
科学的イノベーション:日豪の科学技術分野での協力プロジェクトの推進
情報発信と広報活動:オーストラリアの現代的なイメージの強調と広報活動

 具体的にAJFが支援を行ってきたプロジェクトには以下のようなものがある。

ライフセービング・クラブの交流
 マルチドー・サーフ・ライフセービング・クラブと下田ライフセービングクラブの姉妹クラブ交流
プログラム。海辺での安全活動や知識などの共有はもちろん、文化交流なども通じて両国の絆を深めることに貢献してきた。

「Meals on Wheels Japan」プログラム
 日豪の食事配達サービスなどに関してボランティア間で知識共有を行うプログラムで、「Meals on Wheels Japan」と「Meals on Wheels South Australia」の交流を支援。高齢化、栄養不足、子どもや高齢者の食糧不安、社会的孤立といった課題に対する取り組みを援助してきた。初支援は1980年代初頭と、長年にわたるパートナーシップ関係構築への協力を行うことで両国の関係の深化、健康や精神面での幸福度向上などに寄与している。

シェパード・センターによる聴覚障害児支援
 オーストラリアのシェパード・センターと静岡県立総合病院が協力し、聴覚障害児を対象とした早期介入プログラムを日本向けに開発。同プロジェクトでは、教育や社会的交流の機会を広げることに加え、将来的には他地域への展開も目指しているという。

 上記プロジェクトを始め、毎年20近いプログラムを支援するAJF。興味のある人、団体はぜひ、ウェブサイトをチェックしてみると良いだろう。

■豪日交流基金
Web: japan.embassy.gov.au/tkyojapanese/ajf.html



インタビュー

日本とオーストラリアの関係性をますます親密に初の女性日系理事長 小川夏子さん

小川夏子
2024年より豪日交流基金(Austr al ia-JapanFoundation)理事長。ビクトリア州日豪ビジネス協会、豪日経済委員会でも役職に就く。アシャースト法律事務所所属
©Nichigo Press

「日豪両国の関係に貢献したいと考えるプロフェッショナルたちのキャリアを支援し、メンターとしての役割を果たすことに情熱を注いできました」

 2024年9月、豪日交流基金の新理事長となった小川夏子さんはそう話す。小川さんは西オーストラリア州パース出身の日系2世。1960年代後半、日本語を教えるためにオーストラリアへ渡り、西オーストラリア州のカーティン大学で日本語講師として活躍した父親を持つ。小川さん自身も成長と共にパースの日系コミュニティーと深い関わりを持つようになり、次第に日豪を橋渡しする役割を担いたいと考えたそうだ。そんな中、彼女が目指したのは法曹界だった。

「日本企業がオーストラリアへと投資する際に直面する複雑な法的問題を、日本語で分かりやすく説明できる弁護士になりたいと考えました」

 1996年にオーストラリア大手法律事務所ブレイク・ドーソン(現アシャースト)のパース事務所に入所。その後、メルボルン、東京、シドニー、キャンベラと拠点を移しながらキャリアを積んだ。

 小川さんのキャリアの中心には、常に「日本企業をサポートしたい」というテーマがあったという。

 家庭ではオーストラリア人の夫と共に、18歳と19歳の2人の子どもをバイリンガルに育て上げた。「彼らがこれからも日本とのつながりを大切にしていってくれることを期待している」と小川さんは話す。

 そんな中、2024年9月、ビクトリア州日豪ビジネス協会と豪日経済委員会でも役職に就いている彼女に白羽の矢が立つ。ウォン外務大臣より理事長というポジションのオファーがきたのである。

「日豪関係の未来に広く貢献できる機会を得られたことに感激しています。ぜひ多くの人にAJFの活動に目を向けて頂きたいと願っています」

 長きにわたり、日本とオーストラリアの関係性向上に密接に関わってきた豪日交流基金、そこで小川さんがどのような手腕を発揮するのか、非常に楽しみだ。





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