
2025年8月16日、シドニー、サリーヒルズのNSW Teachers Federation Auditoriumで、広島の被爆者である小倉桂子さん(88)が講演を行った。第二次世界大戦終結から80年という節目に合わせ、シドニー日本クラブが主催した記念イベント「Pass the Baton — Commemorating 80 Years Since the End of WWII」の一環。
当日は現地の学生も多く参加するなど幅広い層が集まった。戦争を直接知らない世代が多数を占める中、被爆体験の語り部として世界を巡る小倉さんの言葉に多くの人が耳を傾けた。
「バトンを渡す」という使命

小倉さんは1945年8月6日、わずか8歳の時に広島で被爆。講演では英語で、自身の記憶を淡々と、しかし力強く語った。街が一瞬にして焼き尽くされた光景、全身を覆った放射性物質を含む「黒い雨」、そして人々の命が失われていく中で幼い彼女が感じた恐怖と混乱。その証言は、単なる歴史の叙述ではなく、現在を生きる聴衆に直接訴えかけるものであった。
「被爆体験を持つ人はやがていなくなる。だからこそ、国境を越えて若い世代にバトンを渡したい」
そう強調し、自身の語りを未来へつなぐ行為そのものが使命であると示した。
世界に数多く存在する核兵器
講演の中で小倉さんは、現代における核兵器の脅威にも言及。世界中に大量の核兵器が存在するとされる現実を前に、「私が生きているうちに核廃絶を実現してほしい」と訴えた。
更に日本国内で一部の政治家が核武装の可能性に言及していることにも触れ、「ひたひたと恐怖を感じている」と懸念を表明。被爆国である日本が今再び核をめぐる議論に直面していることを憂いた。
多彩なプログラムで平和を考える
講演後は、朗読劇『父と暮せば』(The Face of Jizo)の一部上演、折り鶴を折るワークショップ、パネル展示、映像上映といった多彩なプログラムが用意された。折られた鶴は広島平和記念公園の「原爆の子の像」に奉納される予定だという。自らの手で平和を祈る象徴的なワークショップとして多くの人が参加した。
イベント後、小倉さんから在豪日系人に向けたメッセージを頂いた。
「1つの文化だけではなくダブル、つまり倍の文化に触れていらっしゃるのはとても恵まれたことだと思います。毎日がインターナショナルな環境でありながらそれが日常、という状況はたいんへん幸せなことだと思います」
小倉さんの熱い思いはシドニーに住む多くの人々に心に火を灯したに違いない。


