近年、世界的に移民政策への注目が高まる中、オーストラリアでも移民制度の見直しが加速しています。オーストラリアの移民政策は、国内の労働力確保と人口構造の安定に直結する重要な政策領域であり、その方向性は選挙や国の将来像にも影響を与えるほど重大な位置付けを持っています。
ポイント制技術ビザの難化:従来型の“資格による移住”はより困難に
特に近年の傾向として、ポイント制技術ビザ(サブクラス189/190/491)を中心とした「雇用を伴わない移住ルート」が以前よりも格段に難しくなっています。
主な理由としては:
・招待(EOI)数の大幅な抑制
・州ノミネーション要件の細分化・厳格化
・職業リストの更新に伴う対象者の縮小
これらが重なった結果、ポイント制技術ビザで永住権を獲得するルートは、多くの申請者にとって現実的ではなくなりつつあります。
更に、「189 Skilled independentビザ」などの技術独立永住ビザでは、永住権取得後に申請時の資格や学歴に見合った職に就かないケースが多く、政府が求める「労働市場ニーズとの整合性」が担保されにくいという政策上の課題も指摘されています。
注目される雇用主スポンサー型ビザ:「482 Skills in Demand(旧482 TSS)ビザ」の存在感が拡大
これに対し、オーストラリア政府が近年特に力を入れているのが、雇用主スポンサー型ビザの移住ルートです。
その背景には以下の政策目的があります:
・実務経験があり即戦力として働ける人材を必要な産業に配置したい
・国内の人手不足(医療・介護・IT・建設など)を直接補いたい
・学生ビザからの不正移行ルートを閉じたい
・“雇用ベース”という客観的基準で質の高い移民を選抜したい
特に「482 Skills in Demand(以下、482 SID)ビザ」は、永住権への現実的なルートとして存在感を増しています。
「482 SIDビザ」が強い理由
①ポイントに左右されない“雇用ベース”の審査
スポンサーとなる雇用主が確保できれば、ポイント・スコアに左右されず、ビザ取得の現実性が一気に高まります。
②慢性的な人手不足が続く産業での需要が継続
医療、介護、ホスピタリティー、IT、建設業など、多くの分野で深刻な人材不足が続いており、スポンサーを見つけやすい環境が整っています。
③永住権へのルートが制度として明確
「482 SIDビザ」→ 「186 Employer Nomination Scheme(ENS)ビザ」
一定期間の勤務後に永住権へ移行できる仕組みが明確に用意されている
④学生ビザ・ワーホリからの移行が急増
在学中または在豪中にスポンサーを確保して「482 SIDビザ」へ移行する流れが定着しており、若年層にとって非常に現実的な選択肢となっています。
今後の見通し:雇用主スポンサー型ビザは今後も主流に
政策の方向性・労働市場の需要・不正対策の観点を総合すると、今後数年はポイント制技術ビザよりも、雇用主スポンサー型ビザの方が圧倒的に有利な構造が続くと見られます。ポイント制ビザの難化は申請者の選択肢を奪うものではなく、むしろ移住ルートの再編を促すシグナルと捉えるべきでしょう。
アドバイザー

清水 英樹
オーストラリアQLD州弁護士。在豪30年以上。地元大学卒業後、弁護士資格を取得。フェニックス・グループCEOとして傘下にあたる「フェニックス法律事務所」、ビザ移民コンサルティング「Goオーストラリア・ビザ・コンサルタント」、交通事故ならびに労災を専門に扱う「Injury & Accident Lawyers」を経営
