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性犯罪疑惑で苦境に陥るモリソン保守政府/政局展望

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政局展望ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

 COVID-19感染問題への対応では、依然として高く評価されているモリソン保守連合政権だが、昨年11月ごろから発生した自由党の女性スキャンダル、「女性差別」問題で批判に晒されている。しかも今年の2月になると、はるかに深刻な強姦事件、有力政治家の強姦疑惑が報道され、モリソン保守連合政府は一挙に苦境に陥っている。

強姦事件の告発

 自由党関係者による強姦事件が世間の知るところとなったのは、今年の2月初旬に自由党の閣僚スタッフであったヒギンズなる若い女性が時事報道番組に登場し、告発したためであった。

 告発内容は、2019年連邦選挙の2カ月ほど前の同年3月に、同僚の自由党スタッフの男性から強姦されたという衝撃的なものであった。しかも、その場所が連邦議会内の国防産業大臣の執務室で、両者は泥酔した挙句、規則を破って閣僚オフィスに入室したとのことであった。

 同事件は、当時ヒギンズが仕えていたレイノルズ国防産業相(注:現国防相。女性)に即座に報告され、レイノルズは警察への告訴を助言したとされる。ただ、ヒギンズはそれを固辞し、つい最近まで同じく大物閣僚のキャッシュ女史のスタッフとして働き続けていた。

 問題は、ヒギンズが泣き寝入りした理由として、仮に同事件が公になれば、失職は確実であったからと述べたことであった。そのため、政治優先の自由党の「悪しき文化」が注目されたのだ。

自由党有力政治家の強姦疑惑

 ヒギンズの強姦事件報道は、沈静化するどころか逆に拡大している。というのも、今度は現役の大物自由党政治家が、政界入りする前に少女を強姦したとの告発がなされるという、ヒギンズ事件を凌駕する一大政治スキャンダルが明らかとなったからだ。

 これは、30年以上も前の1988年に起こったとされる出来事で、性犯罪の被害者とされる女性は弱冠16歳、そして当時17歳の加害者とされる人物は、その後政界入りした自由党政治家で、しかもモリソン政府の現職の閣内大臣と言う衝撃的なものであった。

 南オーストラリア州に居住していた同女性は昨年、事件の発生したニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州警察に告訴したものの、新型コロナウイルス感染問題でNSW州警察による事情聴取が遅れていた。そういった中、昨年の6月に、精神疾患を患っていたこの女性は自殺している。ただ、同事件を本人から直接聞いていた友人たちが、詳細な報告書などと共に、真相究明を依頼した書簡を首相のモリソン、野党労働党上院リーダー兼影の外務大臣のウォン、そしてグリーンズ党のハンソン-ヤング上院議員宛てに送り、その結果、同スキャンダルが公になった次第である。

ポーター大臣の記者会見

クリスチャン・ポーター法務大臣兼労使関係相(本人Facebookより)
クリスチャン・ポーター法務大臣兼労使関係相(本人Facebookより)

 3月3日、モリソン政府のポーター法務大臣兼労使関係相が地元パースで記者会見を開いている。その中で、現在連邦政界ばかりか、一般国民の間でも大いに注目されている性犯罪事件疑惑、すなわち、「現役の連邦閣内閣僚が33年前に16歳の少女を強姦した」とされる疑惑の対象が、自分であることを明らかにした上で、ポーターは疑惑を断固とした調子で全面否定している。

 被害者とされる女性は、ポーターと共に高校生の豪州代表弁論チームの一員であった。上述したように、いったんはNSW州の警察に告訴したものの、実は自殺した日の前日には告訴を取り下げている。ただ、疑惑の内容はその後メディアでは噂となっていた。

 さて、ポーターは疑惑内容を涙ながらに全面否定しており、またNSW州警察当局も、被害者とされる女性が他界したことから、確証的な証拠が不足していることを理由に、同疑惑のこれ以上の捜査は不可能として、既に捜査の終了を宣言している。

 しかしながら、疑惑の深刻さの度合い、そして、何と言っても疑惑の人物が現職の法務相と言うこともあって、野党労働党やメディアの一部は、警察の調査は不可能としても、政府から独立した特別調査、例えば、豪州最高裁がヘイドン元最高裁判事のセクハラ容疑を受けて設置した独立調査委員会などを参考にしつつ、ポーター疑惑を徹底的に調査すべきと主張している。

 これに対してモリソン政府は、刑事事件疑惑を捜査するのは警察で、その警察が起訴すらせず、捜査終了を宣言した疑惑を、再度取り上げて追及するのは、法の支配といった根本的な制度を無視した危険な行為と述べつつ、これまでのところ、同疑惑に対する特別調査の実施を拒否している。もちろん、被害者とされる女性が他界していることから、どのような調査であれ、その結論が満足のいくものとなる可能性は極めて低く、実施するだけ無駄との見方もあろう。

 一方、これまでのところモリソンは、ポーターは少なくとも法務相から辞任すべきとの要求に対しても拒否している。確かに、ポーター自身も訴えているように、単なる疑惑のみで公人が辞職を余儀なくされるということは、極めて危険な前例を作るものである。ただ他方で、今後も疑惑究明の要求は続くものと予想され、モリソン政府が、例えば「自由党や議会に見られる、女性差別の悪しき文化」を究明するといったことで、現在の苦境を脱出できるかについては大いに疑問と言えよう。

スキャンダルの行方

 スキャンダルの行方だが、現在政府は独立調査を拒否しているものの、果たしていつまで圧力を凌げるか疑問と言える。ただ、独立調査を受け入れた場合は、他にもさまざまな「事件」が白日の下に晒される危険性が大であり、政府も困難な立場に立たされている。

 一方、政府の「隠蔽体質」を攻撃している野党労働党だが、今回のスキャンダルは労働党にとっても諸刃の剣である。確かに、差別問題などでは自由党より進歩的に見える労働党だが、議員とスタッフとの不倫問題、セクシャル/パワー・ハラスメントといった点では、労働党も同類で、「叩けばいくらでも埃が出る」というのが実情であるからだ。

 結局、スキャンダルの継続は、既に蔓延している国民の政治家不信、政治不信を強めることとなろう。そしてスキャンダル問題が長引けば、年内に実施されると見られてきた次期連邦選挙が、来年に繰り延べされる可能性が高まることとなる。ただし、下院解散と上院半数改選の同日選挙という、通常パターンの選挙形態を前提にすれば、次期選挙は遅くとも来年の5月14日まで、どんなに遅くとも21日までに実施する必要がある。

 最後に関係閣僚の今後だが、実はヒギンズ事件及びポーター・スキャンダルを受け、レイノルズ国防相もポーターも、心労のあまり疾病休暇を採ることを余儀なくされている。ただ両者が、現行のポートフォリオに復帰できるとの保証はない。また、つい最近まで、モリソンの後継党首候補の一角を占めていたポーターだが、将来自由党党首に就任する可能性もほぼ潰えたと言わざるを得ない。

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