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【特集】この冬こ そ オーストラリア でスキー!

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特集

この冬こそ
オーストラリアでスキー!
SKIING DOWN UNDER

 1年を通して温暖な気候に恵まれ、高い山岳地帯が少ないオーストラリア。「雪山でスキー」と言ってもピンと来ない人も多いだろう。しかし、南東部ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州とビクトリア(VIC)州の州境付近に広がるスノーウィー・マウンテン周辺の標高約1500メートル以上の高地には7、8月にまとまった雪が降るため、意外と質の高いスキー・リゾートが点在している。海外渡航ができないこの冬、身近なロケーションで白銀のワンダーランドを満喫したい。
(ジャーナリスト・守屋太郎)

スキーの魅力とは?

Photo: Destination NSW
Photo: Destination NSW

 雄大な冬山を背に、肌が凍るような風を切り裂きながら、雪原を高速で駆け降りて行く。普段の都会の生活にはない見渡す限り白銀の異世界を味わえるのが、スキーの一番の醍醐味だろう。

 高度な運動神経や体力に恵まれなくても、スキーが上手い友人やインストラクターに1、2時間、手ほどきを受けるだけで、大抵の人が緩斜面であれば楽しめる程度に滑れてしまう。そんなハードルの低さも魅力の1つと言える。

 それでいて、本格的なスポーツとしても選択肢が広く、奥も深い。美しい滑り方の「型」を極める「基礎スキー」や、スピードを争う「アルペン・スキー」をはじめ、技の美しさを競う「フリー・スタイル」、かかとが自由に動く専用のビンディング(足と板を固定する器具)で雪山を走破する「クロスカントリー・スキー」、山頂から新雪を滑り降りる「登山スキー」や「ヘリ・スキー」など、さまざまなジャンルがあり、それぞれの道を極めるには相当な鍛錬が必要となる。

現代のスタイルはいつ始まった?

ペリシャーの急斜面を攻める(Photo: Destination NSW)
ペリシャーの急斜面を攻める(Photo: Destination NSW)

 移動や狩猟、軍事のために雪上を移動する原始的なスキーは、紀元前から世界各地の降雪地帯に広く伝わっていた。木製の板とビンディングを組み合わせた現代のスキー板の原型が考案され、レジャーやスポーツとして確立されたのは19世紀と比較的新しい。ちょうど100年前の1921年、フランス・シャモニーで開催された第1回冬季五輪では、クロスカントリーとノルディック複合、ジャンプの3つの種目が正式採用され、冬の競技スポーツの花形として発展していった。

 現代では、用途に応じたさまざまな形状のスキー板が作られている。近年は横向きに1枚の板に乗る「スノーボード」も急速に普及してきた。古典的なスキーとは全く異なる発想で、アメリカ西海岸のサーフィンやスケートボードから生まれたムーブメントである。

日本人とスキー

ブランドや流行にこだわりがなければ、ウエアやゴーグル、グローブはアウトドア用品専門店でも機能の高い商品が購入できるのでお薦めだ(Photo: Destination NSW)
ブランドや流行にこだわりがなければ、ウエアやゴーグル、グローブはアウトドア用品専門店でも機能の高い商品が購入できるのでお薦めだ(Photo: Destination NSW)

 西洋諸国のスキーは、一般的に家族や友人と一緒に楽しむレジャーやホリデー旅行の目的といった側面が大きい。だが、日本人にとってのスキーはポップ・カルチャーとの関わりが特徴的だ。古い話で恐縮だが、1980年代には松任谷由実(ユーミン)の『恋人がサンタクロース』、『サーフ天国、スキー天国』、『ブリザード』といった冬の定番曲がヒット。ユーミンが挿入歌を担当した原田知世主演の映画『私をスキーに連れてって』(1989年)も、バブル経済絶頂期のスキー・ブームを盛り上げた。

 当時の男子学生たちはユーミンのBGMがこだまするゲレンデでお目当ての娘に声を掛け、アフター・スキーの「ディスコ」に誘ったらしい。当然、携帯電話はなかったので待ち合わせは口約束。すっぽかされることも少なくなかった。

 時は流れて21世紀。日本のスキー・リゾートの風景はガラリと変わった。少子化で若者が減る一方、オーストラリア人をはじめ外国人スキーヤーが急増した。だが、ユーミンも既に67歳。30年前の若い男女を魅了した切ない歌声は、今もゲレンデに響いているのだろうか。

オーストラリア人とスキー

ビクトリア州のハザム・アルパイン・リゾートでビッグなエアリアルを決める(Photo: Mt Hotham Skiing Company)
ビクトリア州のハザム・アルパイン・リゾートでビッグなエアリアルを決める(Photo: Mt Hotham Skiing Company)

 さて、世界屈指の豪雪地帯である上に高い山が多い日本と異なり、オーストラリアは低緯度に位置し、地形も平坦で冬に大量の降雪がある山地は非常に限られている。

 だが、スキーの歴史は意外と古い。ゴールドラッシュに湧いたNSW州南部キアンドラで1861年、ノルウェー人の金鉱夫がスキーを披露したのが始まりとされる。諸説あるが、日本のスキーは1911年に旧オーストリア・ハンガリー帝国の軍人が伝えたのが発端と言われている。それより半世紀も前にオーストラリアにスキーが伝わっていたのである。オーストラリア人スキーヤーの競技レベルも非常に高い。52年のオスロ五輪で初めてスキー競技に参戦し、98年の長野冬季五輪以降は全大会でメダルを獲得している。

 スキー人口はどのくらいいるのか。15歳以上の国民を対象にしたオーストラリア統計局(ABS)の調査(2013/14年度)によると、「アイス/スノー・スポーツ」の参加者数は推定9万9500人。参加率は0.5%、200人に1人である。統計上アイス・スケートも含まれるため実数はもっと少ないことを加味しても、他の主な個人スポーツ、例えばゴルフの73万2000人の7分の1、サーフ・スポーツ(サーフィンやボディーボードなど)の19万6000人の約半数と、意外と多い印象だ。

 ガソリン代くらいしか掛からないサーフィンなどと比べると、スキーは高コストの遊びであることから、オーストラリア人にとってどちらかというと富裕層の趣味といった位置付け。家族で1カ所のスキー場に長期滞在し、観光はせずに1日中ひたすら滑りまくるというのが、平均的なリゾート・スキーヤーのライフスタイルだ。

メリットは?

 オーストラリアでスキーをすることの一番の利点は、事実上の海外渡航禁止措置(ニュージーランドを除く)が長引く中、自由に移動できる国内で楽しめることだろう。シドニー、メルボルンの2大都市からは近いスキー場までドライブで半日程度だ。シドニーからNSW州南部のペリシャー、スレドボはいずれもシドニーから約480キロ。車で約5時間半~6時間掛かる。一方、メルボルンから一番近いのはVIC州のマウント・ブラーで、片道約240キロ、約3時間で到着する。

メルボルン市内から最も近いスキー・リゾートであるマウント・ブラー(Photo: Mt Buller)
メルボルン市内から最も近いスキー・リゾートであるマウント・ブラー(Photo: Mt Buller)
透き通った青空に映える雪山の景色も堪能したい(Photo: Visit Victoria)
透き通った青空に映える雪山の景色も堪能したい(Photo: Visit Victoria)

 なお、ペリシャー、スレドボの2つのスキー・リゾートが位置するコジオスコ国立公園内では冬の間、4輪駆動車を除いてチェーンの携行が義務付けられている。出発前に準備を忘れないようにしたい(途中の町でレンタルも可能)。

 一方、カンタス航空は7月~9月の期間限定で、シドニーとブリスベンの2都市からNSW州南部スノーウィー・マウンテン空港に直行便を就航している。長距離ドライブが面倒な人は、同空港まで飛んでレンタカーを借りれば良い。

 バス・ツアーに参加するのも一案だ。例えば、オンラインの旅行会社「オズ・スノー(OZ SNOW)」では、NSW州ペリシャーの一番安いパッケージ・ツアーが1人339ドルから。シドニー発の往復交通費、2日間の宿泊と朝夕の食事、スキーまたはスノーボードのレンタル代などが含まれている。ただし、リフト代は別だ。

リフト券は日本と比べて高額だが、オンラインで予約すると割引されるケースが多いので事前に調べておきたい(Photo: Destination NSW)
リフト券は日本と比べて高額だが、オンラインで予約すると割引されるケースが多いので事前に調べておきたい(Photo: Destination NSW)
南半球最大規模のスキー・リゾートであるペリシャーの
絶景(Photo: Perisher)
南半球最大規模のスキー・リゾートであるペリシャーの絶景(Photo: Perisher)

 いずれコロナ感染が終息して平時に戻れば、シーズンが北半球と反対であることも大きなメリットになる。南半球の冬は国内で、北半球の冬になれば日本など海外のリゾートへ遠征すれば、ほとんど年中スキーを楽しむことができる。

 雪不足はほとんど心配しなくて良さそうだ。オーストラリアでは干ばつで降雪量が落ち込むことがあるが、近年は最新の人工降雪機が稼働していて、安定した雪の量を確保している。

 充実したアフター・スキーもオーストラリアのスキー・リゾートの魅力の1つ。麓(ふもと)の町には、モダン・オーストラリア料理のレストランやパブ、ホテルなどシドニーやメルボルンに負けない質の高い施設を備えている所も少なくない。温泉こそないものの、疲れた体をリフレッシュすることができるだろう。

山岳列車の駅や宿泊施設、飲食店などが軒を連ねるペリシャー・スキー・ビレッジ(Photo: Destination NSW)
山岳列車の駅や宿泊施設、飲食店などが軒を連ねるペリシャー・スキー・ビレッジ(Photo: Destination NSW)
山頂の近い、標高1765メートルのハザムの町。南半球のスキー・リゾートのビレッジとしては最も高い位置にある(Photo: Mt Hotham Skiing Company)
山頂の近い、標高1765メートルのハザムの町。南半球のスキー・リゾートのビレッジとしては最も高い位置にある(Photo: Mt Hotham Skiing Company)

デメリットは?

 もちろん、日本など海外のスキー・リゾートと比較すればイマイチなポイントもある。1つ目は雪質だ。リフトで行ける最も標高の高い地点は、例えばスレドボが国内最高の2037メートル、ペリシャーが2034メートルと日本のスキー場(最高は長野県・志賀高原の2307メートル)と比べて大きく見劣りするわけではない。だが、日本のスキー場と同程度の標高でも、低緯度で気温が比較的高いため雪は水分が多く重い。まるで片栗粉の上を「キュッ、キュッ」と音を立てて滑るような、極上のパウダー・スノーは期待できない。

 可能な限りクオリティーの高い雪を追求するなら、南太平洋上を巨大な低気圧が東進し、オーストラリアの南東海上で発達して台風のように等圧線が混み合っている数日間が狙い目だ。南極から吹き付ける冷たい南風が大量のバージン・スノーを降らせてくれるだろう。

 2つ目は、高低差が比較的小さいことだろう。例えば、スレドボの最高地点から一番下のリフト乗り場までの高低差は672メートル、最長滑走距離は5.0キロといずれも国内トップである。だが、高低差1000メートル、最長滑走距離10キロを誇る長野県・野沢温泉など日本の大規模スキー場と比べると、垂直方向の規模は少し物足りない。概して急斜面の割合が少ないので、エキスパートは攻めがいがないと感じるかもしれない。

 3つ目は、スキーが可能な期間が短いこと。スノーウィー・マウンテン周辺のスキー・リゾートのシーズンは6月末~9月末または10月初旬とされているが、自然の安定した積雪が見込めるのは実質的に7月、8月の2カ月間である。

 4つ目は、コストの高さ。例えばペリシャーのリフト券(大人1人)は、ネット予約の割引で1日139ドル~、割引なしの当日券で最低156ドル~。オージーにも人気の高い長野県・白馬八方尾根の1日券は5,500円とおよそ半額である。宿泊費もおおむね1泊300ドル~とシドニー市内と変わらない。スキー板とブーツ、ストック(英語名は「poles」)のレンタル代は1日当たり100ドル前後が相場だ。コジオスコ国立公園の入場料も車1台当たり29ドル(冬季)が毎日徴収される。仮に夫婦2人で、週末2泊3日でNSW州のスキー・リゾートに旅行すれば、食事代や移動費も含めるとざっと1,500~2,000ドル掛かる。1シーズンに何度も通うとなるとそれなりの予算が必要になる。

 ちなみに、現時点で海外で唯一渡航できるニュージーランドへスキーに行くと幾ら掛かるのか。シドニー~クイーンズタウン間の往復航空券は最安値で往復532ドル。スキーのパッケージ・ツアーは、クイーンズタウンでの7泊分のホテル代、近郊のスキー場の5日間のリフト券、ホテルからスキー場までの移動費込みで499ドル~。海外スキーの方がコスパは高いのであった。

主なスキー・リゾート5選

 オーストラリアには現在、NSW州に4カ所、VIC州に4カ所、タスマニア州に2カ所の合計10カ所のスキー・リゾートがある。そのうちシドニーとメルボルンから気軽に行ける、比較的規模の大きなリゾート5カ所を紹介する。

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スレドボ(Thredbo)

 NSW州南部スノーウィー・マウンテンを代表するスキー・リゾートの1つ。ヨーロッパのリゾートをモデルに、スキー場と宿泊施設、小売店、飲食店、ナイトクラブなどが一体で開発された。縦方向の滑走距離は国内トップでエキスパートも楽しめる。

最高地点:2037メートル(国内最高)
最低地点:1365メートル
ゲレンデ総面積:4.8平方キロ
最長滑走距離:5.0キロ(国内最長)
リフト数:14基

ペリシャー(Perisher)

 同じくスノーウィー・マウンテンに位置する、国内だけではなく南半球で最大規模のスキー・リゾート。ペリシャー・バレーなど4つのエリアと村が統合されており、地域の中心地ジンダバインから山岳鉄道でアクセス可能。

最高地点:2034メートル
最低地点:1605メートル
ゲレンデ総面積:12.45平方キロ
最高滑走距離:3キロ
リフト数:47基

マウント・ブラー(Mount Buller)

 メルボルンから北東へ243キロ。ビクトリア・アルプスと呼ばれる山岳地帯の景色が圧巻。粋な雰囲気の麓の町には約30軒の飲食店が軒を連ね、アフター・スキーの楽しみも豊富。水・土は夜間も営業する。メルボルンから近いため特に週末は混雑する。

最高地点:1780メートル
最低地点:1375メートル
ゲレンデ総面積:3平方キロ
最長滑走距離:2.5キロ
リフト数:22基

ハザム・アルパイン・リゾート(Hotham Alpine Resort)

 メルボルンから東へ360キロ。麓に町がある通常のリゾートと異なり、山の峰に宿泊施設や飲食店がある変わったレイアウトが特徴。標高が高いため冬季は雪に覆われており、オーストラリアでは珍しくホテルの目の前からスキーを楽しむことができる。

最高地点:1861メートル
最低地点:1450メートル
ゲレンデ総面積:3.2平方キロ
最長滑走距離:2.5キロ
リフト数:14基

フォールズ・クリーク(Falls Creek)

 メルボルンから373キロ。ゲレンデの80%以上が初中級者向け。コース数は92と多いため混雑が少ないと評判。全長64キロの整備されたクロスカントリー用のコース(無料)もある。水・土にナイト・スキー開催。

最高地点:1780メートル
最低地点:1400メートル
ゲレンデ総面積:4.5平方キロ
最長滑走距離:3キロ
リフト数:14基

まとめると?

 基本的に海外に行けない今年の冬、国内のスキー・リゾートは「スキーができる」ということ自体が貴重だ。雪質はそこそこでリフト券や宿泊代などコストは高いが、長いホリデーを楽しむことにかけては一流のオーストラリアだけに、アフター・スキーも含めたリゾートとしての完成度は高い。今までスキーをしたことがないビギナーはもちろん、コロナ禍で欲求不満が溜まっている中上級者も十分に楽しめそうだ。イベントが少ない冬、新しい楽しみが発見できるだろう。

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