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ブリスベンで、クロスオーバーした2つの個性/工藤壮人×檀崎竜孔

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タカ植松 一豪一会
第2回

ブリスベンで、クロスオーバーした2つの個性

プロ・フットボーラー 工藤壮人 × プロ・フットボーラー 檀崎竜孔

 今季のAリーグ、QLD州唯一のクラブであるブリスベン・ロア(以下ロア)には、2人の日本人選手が所属した。出場機会を求め、今季終了までの期限付き移籍で武者修行にやって来た檀崎竜孔(20)は、背番号10を背負い、持ち前の運動量とテクニックで大活躍。ゴール後に胸のエンブレムにキスするパフォーマンスでもサポーターの心も掴んだ。片や、J1で長くプレーした元日本代表の工藤壮人(31)は、一昨年の広島退団後は移籍先探しが難航していたが、ようやく手にした今回のチャンスに自身のキャリアを賭ける不退転の決意で臨んだ。そんなブリスベンの地でクロスオーバーした2つの個性は、シーズンのたけなわに何を語ったのか――(取材:5月11日)。
取材・構成・写真:タカ植松 取材協力: Brisbane Roar FC

PROFILE

くどうまさと

くどうまさと
ブリスベン・ロア所属。FW。元日本代表。U-10から柏レイソル一筋で、各年代の代表にも選出。柏のトップ・チームでの得点数は歴代最多を記録。柏を退団後、北米MLSのバンクーバーに1年在籍した経験も。昨年は所属なしの状態が続いただけに、完全移籍で加入の今季の豪州挑戦に期するものは大きい

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だんざきりく

だんざきりく
ブリスベン・ロア所属。MF。青森山田中学・高校に6年間所属。高1から大活躍し、高校選手権では全国制覇を2回経験するなど名を馳せた。高卒Jリーガーとして入団した札幌から、出場機会を求めて期限付き移籍でロアに加入。背番号10番を背負い、不動のレギュラーとしてチームに大きく貢献した

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タカ植松(植松久隆)
ライター、コラムニスト。在ブリスベンの日豪プレス特約記者として、これまでさまざまな記事を寄稿。今月は主戦場のフットボール、しかも地元クラブの日本人選手を取り上げる記事にとりわけ感慨深いものを感じながら執筆

 工藤壮人と檀崎竜孔――2人の共通項は、日本人で共にプロ・フットボーラーであること、そして、何よりも「とにかくプレーがしたい」という渇望だ。ここブリスベンの地でクロスオーバーしたそんな2人が、異郷で何を感じながらプレーしているのかを聞こうと、晩秋ながらも刺すような陽射しのゴールドコーストへと車を走らせた。練習後の束の間、2人は本音を語ってくれた。

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――ロアとの契約の話が来た時の感想を聞かせてください。

檀崎:僕は、高卒で入った札幌で出場機会を掴めず、とにかく試合に出たいと思っていた矢先の今回のオファーでした。まさか豪州からなんて考えてもいませんでしたが、どこであろうが「試合に出てナンボ」なので、非常にありがたい話だと思いました。

工藤:昨年、ずっとチームを探している時から、Aリーグでプレーができればなっていうのは頭にありました。実際、ロアに興味を持ってもらえていることは知っていたけど、なかなかオファーにつながらなかったのが、昨年11月にようやく正式なオファーが届きました。実はその時、他の話が決まりかけていたのですが、リーグのレベルや家族のことなども考えて、Aリーグでプレーできるならばと即決しました。

――世界を揺るがす”コロナ禍”の中で、平時と比べると海外移籍は困難を伴うはずです。海外でプレーしたいと考えたのはどのような思いからですか?

工藤:ここでプレーするまでの隔離とかの障壁があろうがなかろうが、オファーをもらった時点でとにかくプレーしたいという思いしかなかったので、そこはあまり考えずに早く合流することだけを考えていました。

檀崎:僕は、国内でも海外でもどこでもいいから、とにかく試合に出たくてしょうがなかった。そんな時に今回の話が来て、とにかくチャンスを掴んで試合で活躍するんだという強い気持ちだけでしたね。

年齢も歩んできたキャリアも異なる2人が半年、異国の地で「戦友」として濃密な時間を共に過ごした
年齢も歩んできたキャリアも異なる2人が半年、異国の地で「戦友」として濃密な時間を共に過ごした

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 そうやって踏みしめたブリスベンの地では、日本人の同僚がいて、ホームでの練習や試合では日本語通訳が付く、Aリーグでは破格とも言える体制が取られた。異郷での挑戦では、時として、こういったサポートの有無が大きくパフォーマンスに影響してくる。一蓮托生(いちれんたくしょう)、半年弱の時間を経て深まった2人の関係性にも突っ込んで聞いた。

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――今回の挑戦に当たって、2人の日本人が一緒にプレーすることは大きなメリットをもたらしていますか?

檀崎:僕にとってはとても大きいです。実は、来る前から「日本人が2人になるかもしれない」というのは聞いていました。でもそれが、まさか経験豊富な工藤さんだとは思ってもいなかったので、それを知った時には興奮しました。やはり、経験豊富な選手からは一緒にやりながら学ぶことがとても多いので。工藤さんの存在は大きな助けになっています。

工藤:僕も同じです。バンクーバーでの1年の経験があって、ある程度は英語でコミュニケーションが取れるとは言っても、やっぱり母国語でピッチ上やロッカー・ルームでコミュニケーションができるというは心が落ち着くし、とてもやりやすい。バンクーバーに居た時は何から何まで自分でやらなきゃいけなかったのが、ここでは通訳の方や竜孔がいてくれるので心強いですね。

――そもそも2人は面識がなかったと聞いていますが、2人でのコミュニケーションはどんな風に始まったのでしょうか?

工藤:竜孔のことは、名前がインパクトあるし、あれだけ高校サッカーで騒がれた選手なので名前は知っていました。それで自分の入団が決まった直後に彼のインスタグラムをフォローしてから、DMを送った記憶があります。そうだよね?

檀崎:間違いないです。確かにDMを頂きました。

工藤:竜孔から連絡するのは気を遣うだろうなと思ったので、「これからよろしく」みたいなメッセージを送りました。実際に初めて会ったのは、僕がシドニーで2週間のホテル検疫を終えてブリスベンに着いた日に、一緒に日本食を食べに行った時ですね。

シーズン最終盤の練習後のひと時、チーム関係者との談笑で自然な笑顔が溢れた
シーズン最終盤の練習後のひと時、チーム関係者との談笑で自然な笑顔が溢れた

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 シーズン当初から、2人のチーム内での立ち位置は異なっていた。

 開幕前からチームに合流、コンディションを万全に整えてチームとの連携に一日の長があった檀崎は、開幕戦からスタメンに名を連ねると、順調に得点を重ねた。結果で周囲に自らの価値を認めさせて、不動のレギュラー・ポジションを確立させた。片や、入団の発表自体がおよそ1カ月遅く、2週間の検疫を終えてから合流した工藤は、やや出遅れてのスタートを余儀なくされた。その影響もあって、出場機会を勝ち取ることが求められる立場のままでシーズン最終盤を迎えている。

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――竜孔さん、期待に結果で答える順調なシーズンを送っていますが、その活躍の秘訣は何ですか?

檀崎:Aリーグは、身近な(小野)伸二さんがプレーしていたリーグというイメージしかありませんでしたが、海外だしフィジカルが強いだろうと予測していたら、思った通り。日本と比べると、良し悪しはあるけど、やはりフィジカル的な要素はこちらの方が優れています。そんな中で、強みであるスピードや運動量を生かしつつ、自分らしさを発揮できているのかなと思っています。

――取材時点で消化した全22試合に出場して7得点と、自分でも満足のいく結果が出ているのでしょうか?

檀崎:周りは、「よくやっている」と見るかもしれませんが、もっと上を目指すならば、まだまだだと思っているので、自分では決して満足はしていません。

――自らの更なる出場機会を求める強い思いもある中で、壮人さんは竜孔さんの活躍をどのように見守っていたんですか?

工藤:そこは素直に同じ日本人としてすごいなと。言葉の壁がありながらも、選手からの信頼も勝ち得ているし、しっかり周りと絡むことで、ピッチ上でもゴールという形で結果を出しているのは、本当にすばらしいことです。

――自分にももっとチャンスがあれば、という思いもあるのでは?

工藤:個人的には、結構前からコンディション面も十分に整ってきた実感はあります。でも、やはり試合に多く出て活躍している選手たちが結果を残してきているわけで、そこはリスペクトされるべきです。ただ、自分としてはその中に少しでも早く入っていけるようにと、気持ちの面も含めて、しっかり準備してきました。

――その結果が4月29日のラウンド18、アウェーのCCM戦での待望のゴールにつながりました。その時の率直な感想と左薬指にキスするジェスチャーの意図を聞かせてください。

工藤:やっぱり、それまでFWとしてゴールという一番分かりやすい結果で貢献できていなかったので、ホッとした気持ちと、(初ゴールまでが)遅過ぎじゃないかという気持ちがありましたね。昨年、所属チームがない中で迷惑を掛けてしまった家族にとってもうれしいゴールだったはずなので、「いつもありがとう。これからもがんばるね」っていう思いが自然に表れましたね。

檀崎:あのゴールは本当に工藤さんらしいゴール前への入り方で、すごく勉強になるゴールでした。3点目のアレックス(・パーソンズ)のゴールはそんなに喜ばなかったけど(笑)、4点目の工藤さんのゴールの瞬間はもう超ダッシュで一緒に喜びに行きました。

――今後、期待するのは2人のピッチ上での「檀崎の鋭い抜け出しからのクロスに工藤がゴールまで鋭く反応して値千金の決勝ゴール!」なんていうシーンですが、ずばり期待できますか?

檀崎:これまで2人が先発でピッチに立った時は、大雨でピッチ・コンディションが最悪だったり、早めの2失点で展開が合わなかったりと不運が重なりましたが、この先、僕がアシスト(して工藤さんがゴール)する日も遠くないと思います。

工藤:それが実現すれば、他の選手との絡みなんかよりも格別なものになるのは間違いないですね。そのためには、竜孔は基本的にピッチに立っているので、僕がとにかくもっと出場機会を得られなきゃだめ。そのチャンスが来たら、それを確実にものにできるよう必死にがんばります。

――2人はお互いをどんな選手だと思っていますか?

工藤:竜孔は、基本的なスキルが高いのは元々だと思うんですが、実際に生で見ていて、しっかり点を取るポジショニングを見極める勘のようなものをモノにしつつあるなと感じます。FW目線で見ても、点の取り方を知っている、点を取るための良い感覚を持った選手だなと、傍で見ていてすごいなと思っています。

檀崎:経験豊富な工藤さんを見ていて思うのは、ピッチ内外問わず尊敬できることがたくさんある、その人としての器の大きさ。人との接し方だったり、発する言葉だったり、なんかすごいなと思わされることばかりで、本当のプロフェッショナルは違うんだなと。そんな工藤さんに、まさかそんなに褒めてもらえるとは思っていなかったので、メチャメチャうれしいです。

工藤:こんなに褒めたのだから、いつかご飯でも奢ってもらわなきゃだな(笑)。

――最後にそれぞれエール交換をお願いします。

工藤:今後、竜孔がどんなキャリアを描いているかは分かりませんが、今の活躍だけでは満足していないはず。試合を通じての課題や反省点を、できる限り今年のうちに克服して、次のステージに進むための準備を、ここで結果を残しながらやって欲しいですね。そうすることで、いずれ欧州などの第一線で活躍するための近道になるはずだから、足元をしっかり見てコツコツと。

檀崎:僕からは、「良いパス出すので待っていてください」としか言いようがないですね。

工藤:じゃ、ゴール前で準備しているから、後はお前次第だよ(笑)。

***

 本稿が届くころ、Aリーグはそのシーズンを終えている。果たして、ブリスベンでの日々は、2人の渇望を満たすことができただろうか。この地でクロスオーバーした後の2人は、どんなキャリアを歩み始めるのだろうか。残念ながら、筆者に先を見通す予知能力はない。彼らの後日譚(ごじつだん)は、巻末のコラムでいつか触れたい。

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