幸せワイン・ガイド@オーストラリア
今月のテーマ:「ヴィンテロパー(Vinteloper)」
昨年からオーストラリア全土に広がるブッシュファイアに、皆様心を痛めておられることと思います。どうかどうか一刻も早く鎮火しますようにと願いながら、パソコンの画面に向き合う日々です。
今回のブッシュファイアはかなりの広範囲にまたがっていますが、被害を受けた地域の1つである南オーストラリア州のアデレード・ヒルズ、そしてカンガルー島はオーストラリアの重要なワイン産地です。クリスマス前のブッシュファイアでは、アデレード・ヒルズの約3分の1のブドウ畑が焼失してしまいました。オーストラリアのブッシュファイアや極度の乾燥は、ワイン生産者たちにとって常に背中合わせとなる大きな脅威であり、オーストラリアでのワイン造りが、厳しい自然と背中合わせであることを改めて思い知らされます。
美しいアデレード・ヒルズ
アデレード・ヒルズは南オーストラリア州の中でも標高が高く、美しい丘陵地の広がる冷涼な産地で、ピノ・ノワールやシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランの他、ゲヴュルツトラミネールなどの「オルタナティブ品種」、そして優れたスパークリング・ワインの産地としても知られています。大小300ほどのさまざまな生産者が集い、州都アデレードからも近いことから多くのワイン愛好家が訪れる場所です。
今回のブッシュファイアで大きな被害を受けながら、すでに再建に向けて立ち上がるワイナリーをご紹介したいと思います。
ヴィンテロパー
ヴィンテロパーはアデレード・ヒルズに2008年にデビッド・ボウリーによって設立されました。モダンなグラフィック・アートのような斬新なラベルがとても印象的で、これはデザインは、デビッドの妻でアーティストであるシャロンが手掛けたものです。繊細なスケッチに水彩画のようなグラデーションが重ねられており、これはそれぞれのワインのイメージに合わせて異なる色合いを組み合わせたものです。
彼らのウェブサイトのあちこちには“Fun on the Outside, Serious Inside the Bottle”(外見は楽しく、中身は真剣)という楽しいフレーズが散りばめられています。言葉の通り、パッケージは楽しく、中身のワインは最高品質、ということですね。ワイン・ラベルの裏側に書かれたテイスティング・ノートもとてもユニークでチャーミング。通常、ワインの裏ラベルには「レモンやライムのような柑橘系の香り」、あるいは「チャーミングなラズベリーやスパイスの香り」といったように、果物や花、スパイスなどを使って表現されていることが多いと思いますが、ヴィンテロパーでは、通常とは少し違ったスタイルをとっています。たとえばリースリングは「It feels like that first swim of summer. Electric and alive, it jolts you awake(この夏最初の海水浴。電気が走るような高揚感、生命力に満ち溢れ、思わず目が覚めるよう)」。夏の訪れに感じる高揚感、爽やかな空気が、1本のボトルに閉じ込められている、まさにそんなワインです。このワインを飲んだ時の清涼感や生き生きとした酸味や果実味を、味覚や嗅覚だけでなく、五感を使って体全体で感じることができ、心地良く楽しませてくれるようなワイン。端的でありながら、言い得て妙なテイスティング・ノートで、誰もが一度は感じたことのあるようなどこか懐かしい表現。思わず彼らのワイン全てをチェックしたくなりますね。
ヴィンテロパーでは今回のブッシュファイアーで甚大なダメージ(95パーセントの畑が焼失)を受けたにもかかわらず、既に再建に向けて立ち上がっています。地域の人びとが協力し合い、ボランティアによる出荷作業に取り組む様子が、ソーシャル・メディアなどでも発信されていました。厳しい状況である時こそ前を向き、助け合うオーストラリアの人びとの強い精神は心から尊いと感じます。
私たちにできること
今、私たちにできる一番の支援は、CFS(南オーストラリア消防サービス、cfs.sa.gov.au)やアデレード・ヒルズのワイン生産者団体(gofundme.com/f/adelaide-hills-wine-region-fire-appeal)などの関連団体への寄付はもちろんですが、継続的に支援するにはヴィンテロパーのようなアデレード・ヒルズのすばらしいワインを買って楽しむことです。ちなみにヴィンテロパーは日本にも輸出されていて、アマゾンなどのECサイトでも購入することができます。
もう1つはアデレード・ヒルズを訪れることです。地元の消防団の懸命の消火活動の甲斐もあり、アデレード・ヒルズでは多くのワイナリーがセラー・ドアを開け、ワイン愛好家たちを迎え入れています。
私たちの生活に楽しみと潤いを与えてくれるワイン、その裏側にいるすばらしいワイン生産者たちには、これからもおいしいワインを作り続けてほしい。今回の記事にはそんな思いを込めさせていただきました。ぜひお試しください。
*今月のお薦めワイン*
ラベル・デザインとテイスティング・ノートも魅力いっぱい
暑い夏の夜にベランダで。牡蠣や刺身と
Vinteloper Riesling 2019 $29
ピクニックに。フルーツやチーズと
Park Wine White 2019 (500mL) $20
夕涼みのディナーに。プロシュートなどと
Vinteloper Touriga Nacional 2018 $29
フロスト結子
オーストラリアと日本でワイン業界に携わり10年以上。ワイン卸業社に勤務しながらフリーランスでもワイン専門通訳、翻訳、ライター、市場調査、イベントなど幅広くこなす。私生活ではマラソン・ランナー。世界最大のワイン教育機関WSETの最上位資格、WSET®︎Diploma in Wine & Spirits及び日本酒のAdvanced Certificateを取得。
Web: auswines.blog.jp