幸せワイン・ガイド@オーストラリア
今月のテーマ:赤ワイン「ピノ・ノワール」
秋も深まり、赤ワインの美味しい季節になってきましたね。皆さんのお好きな赤ワインは何でしょうか? 今回は、赤ワインの話になると特に話題に上がることが多い品種の1つである、ピノ・ノワールに注目したいと思います。オーストラリアで最も多く栽培され、かつ売れている赤ワインの品種はシラーズなのですが、今回は敢えてピノ・ノワールに注目してみます。
“God made Cabernet Sauvignon, whereas the Devil made Pinot Noir”「神がカベルネ・ソーヴィニヨンを創り、悪魔がピノ・ノワールを創った」。これは、アメリカで20世紀に活躍した伝説的なロシア出身の醸造家、アンドレ・チェリチェフが残した言葉です。この格言の中に挙げられているカベルネ・ソーヴィニヨンとピノ・ノワールは、世界の高級赤ワインの双璧とされるブドウ品種で、非常に対照的な味わいや特徴を持つことからよく対比される品種でもあります。どちらもフランス原産の品種で、カベルネ・ソーヴィニヨンはボルドー原産、ピノ・ノワールはブルゴーニュ原産の品種です。重厚で深みのある色合い、しっかりとした骨格と飲みごたえを持つカベルネ・ソーヴィニヨンに対し、ピノ・ノワールはより女性的でソフトな口当たりでミディアム・ボディ、エレガントな花や赤い果実のような香りを特徴とします。カベルネが赤ワインの王様なら、ピノ・ノワールは赤ワインの女王、と形容されたりもしています。ちなみに世界的に有名なブルゴーニュの高級ワイン「ロマネ・コンティ」は、ピノ・ノワールから作られています。
ピノ・ノワールは、数あるワイン用ブドウ品種の中でも、特に気難しいブドウ品種としても知られています。果皮が薄く、ありとあらゆる病気や気候の変化に対して繊細で、とにかく非常に手間がかかります。それだけ育てるのが大変な品種であるにもかかわらず、ブルゴーニュを始め多くの生産者が人生をかけて情熱を注ぐ特別なブドウ品種なのです。多くの生産者やワイン愛好家は、実に気難しいこのブドウの官能的な香りや味わいの深みと複雑さに取り憑かれてしまうのです。まさに人々を翻弄させる「悪魔のワイン」。繊細であるがゆえにバランス良いワインを作るのもより難しく、生産者の技術や繊細さがより試される品種とも言えるでしょう。
ピノ・ノワールは基本ミディアム・ボディの赤ワインです。軽やかなスタイルのものにはラズベリーやイチゴ、チェリーのような可憐な赤い果実の香り、もう少し深みのある重厚なスタイルのものにはブルーベリーやプラムのような青い果実の香りがあり、さらにスミレやラベンダーなどの土に咲く花や、クローブやバニラのようなスパイスの香り、また、熟成を重ねたものには土やマッシュルームのようなより複雑な香りが現れてきます。そして最高品質のピノ・ノワールには「ピーコック・テイル(孔雀の尾)」とも呼ばれる長く、そして広がっていくような余韻があり、ワインを飲み込んだ後もいつまでも口の中で味わいが長く、奥深く広がっていくような感覚にとらわれることがあります。この感覚は、文字でお伝えするのはなかなか難しいのですが、ワインを飲み慣れてくると、どなたでも少しず体感できるようになります。今これを読んでもピンとこないという方も、ワインをより飲み慣れてきた、いつかの時に思い出してくだされば幸いです。
ピノ・ノワールは、原産地であるブルゴーニュ以外にも、カリフォルニアのソノマ・カウンティ、オレゴン、ニュージーランドのセントラル・オタゴなど、世界各地に銘醸地が点在しています。オーストラリアではビクトリア州のヤラ・ヴァレー、モーニントン・ペニンシュラ、ジロング、ギップスランドや、南オーストラリア州のアデレード・ヒルズ、そしてタスマニア。また、ニュー・サウス・ウェールズ州では冷涼な高地であるオレンジなどに高品質なものがあります。早熟な品種であるピノ・ノワールは、冷涼気候であることがピノ・ノワールの栽培には重要です。
◆ピノ・ノワールと合わせたい料理
ピノ・ノワールと合わせやすい食べ物は幅広く、鶏肉や赤身の魚、マッシュルームなどがお薦めです。鴨料理や鶏肉料理、サーモンのグリルやマグロのお刺身、きのこのリゾットや炊き込みご飯など、幅広い料理とおいしく合わせていただけます。馬肥ゆる秋、お気に入りのレシピと共に試してみてくださいね。
*今月のお薦めワイン*
シーンに合わせたワイン選びも楽しみの1つ
平日ディナーに
Eddystone Point Pinot Noir Tasmania $32
Web: eddystonepoint.com.au
デート・ナイトに
Giant Steps Pinot Noir Yarra Valley $37.50
Web: giantstepswine.com.au
特別な夜に
Yabby Lake Single Vineyard Pinot Noir $64
Web: yabbylake.com
フロスト結子
オーストラリアと日本でワイン業界に携わり10年以上。ワイン卸業社に勤務しながらフリーランスでもワイン専門通訳、翻訳、ライター、市場調査、イベントなど幅広くこなす。私生活ではマラソン・ランナー。世界最大のワイン教育機関WSETの最上位資格、WSET®︎Diploma in Wine & Spirits及び日本酒のAdvanced Certificateを取得。
Web: auswines.blog.jp