ワンダフル・ライフ in AUS
ディンゴ・エイト・マイ・ベイビー!
ディンゴに連れ去られて亡くなったアザレア・チェンバレインの事件が、今年になって再び話題だ。家族が当時乗っていた車が博物館に展示されたニュースや、母親のリンディ・チェンバレインのインタビューがテレビ放送されているのを見かけた人もいるのではないだろうか。
1980年に起きたこの事件は、その後長期にわたってオーストラリア中で報道が過熱し、メリル・ストリープとサム・ニール主演で『クライ・イン・ザ・ダーク(88)』として映画化もされている。エアーズ・ロックでキャンプをしていたチェンバレイン家の生後2カ月のアザレアがディンゴにさらわれたと主張する母親と、それを信じない警察やメディア、観光へのダメージを抑えたい州政府の思惑が重なり合い、オーストラリア中を巻き込む大騒動へと発展していった。
ディンゴは、一見すると痩せ細った柴犬のような野犬だ。タイリクオオカミの亜種で、ニューギニアのシンギング・ドッグという古い犬種と遺伝子が似ているため、太古の昔に東南アジアからやって来たと言われている。ディンゴの最古の化石は、WA州で発見された約3,500年前のもの。タスマニアにはディンゴが生息していないばかりか化石なども残っていないため、氷河期後の海面の上昇によりタスマニアがオーストラリア本土から分かれた1万2,000年前からこの3,500年前の間にオーストロネシア人と共にやって来たと考えられている。現在も野生のディンゴはオーストラリア内陸部やフレーザー島に生息し、主にウサギやカンガルーなどの野生動物を捕食している。家畜やペットを襲うことも多く、猟銃を備えている農家も多い。また、2001年には9歳の男児が、12年には6カ月の乳児がフレーザー島でディンゴに襲われて命を落としている。
ディンゴはペット化された犬には程遠い、オーストラリアの生態系のトップに君臨する野生動物だ。だが、絶滅してしまったタスマニアン・タイガーの二の舞いとならないよう、人間と共存していく道が模索されている。
このコラムの著者
ランス陽子
フォトグラファー/ライター、博士(美術)。オーストラリアで古くから牧羊犬として愛されているボーダー・コリーのスパーキーとゴールドコーストで暮らす。現在はグリフィス大学で日本語のゴールドコースト方言とオーストラリア方言を研究中。
Web: http://www.yokolance.com.au