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【QLD】ルーシーのアート通信「Overexposed Memory 2015」

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ルーシーのアート通信

オーストラリアのアート業界で活躍中のコラムニスト・ルーシーが
オーストラリアを中心に活躍するアーティストと彼らの作品をご紹介。

第4回 ジョイス・ホー(Joyce Ho)
「Overexposed Memory 2015」

Joyce Ho, Overexposed Memory 2015 (film still). Single-channel video installation, 4‘47”/Image courtesy the artist and GOMA, APT9
Joyce Ho, Overexposed Memory 2015 (film still). Single-channel video installation, 4‘47”/Image courtesy the artist and GOMA, APT9

今回紹介するのは、35歳という若さで芸術の世界で成功を収めた台湾・台北出身のジョイス・ホーの作品だ。彼女は、ブリスベンにあるQLD州立美術館「Gallery of Modern Art」で4月28日まで開催されている「2019 Asia Pacific Triennial of Contemporary Modern Art」に参画しているアーティストの1人で、絵画や現代美術表現の1つであるインスタレーション・ビデオ(室内で映像を上映し、空間の中で光や音を反響させる手法)というパフォーマンス・アートを得意としている。

中でも「Overexposed Memory 2015」は、彼女の日常を表現しているインスタレーション・ビデオとして注目を集めている。映像と音響を駆使した同作品は、食事など日常生活の中での経験や記憶を表現し、特に咀嚼音(そしゃくおん)に焦点が当てられている。流れる映像はまるで夢の中にいるような感覚に陥る描写が特徴的で、くすんだイエローの背景の中に若く美しい女性が登場し、オレンジを押し潰したり、ミニトマトにかぶりついている。オレンジを潰す音はまるで包装紙を取り扱うような響き、トマトを食べる際に出る咀嚼音は、ベルが鳴る音やドアのきしむ音のように聞こえる。ホーは咀嚼音を日常生活で耳にする音に変換しているのだ。同作品は咀嚼音をテーマにするという一風変わった作品と言えると同時に、類を見ないユーモア性溢れる作風とも評されている。

ホーは、彼女独自の「社会の仕組み」、特に「官僚制度」に対しての見解をアートに反映させ、その主題に自ら挑戦することを好んでいる。彼女は、人びとが社会の仕組みを認識しないことによって官僚制度の秩序は崩壊するのではないかと考えている。また、今後の組織体制はどうなっていくのだろうかという点に疑問を抱き、社会組織の規制や欠点を探求し続けているのだ。

同作品は印象的なビデオであると共に、鑑賞者に普段の出来事について再考するきっかけを与えてくれる。インスタレーション・ビデオという新たな芸術表現を駆使して投影された若く美しい女性のパフォーマンスに人びとは魅了され、一度歩みを止めて人生について考えさせられるのだ。

生活の効率化を追求するあまり、人びとがテクノロジーに依存し過ぎている現代社会。ホーは、物事の本質を捉え、世間の雑音に心を捕らわれない強さを身に着けて欲しいと作品を通して鑑賞者に訴えかけている。

■Web: www.joycehostudio.com
■Instagram: joyce_tsai_you_ho


ルーシー・マイルス(Lucy Miles)
オーストラリアと日本のアート業界で25年以上の経歴を持つ。クイーンズランド・カレッジ・オブ・アート並びにグリフィス大学でファイン・アート(ペインティング)の美術学士、クイーンズランド大学では美術史の優等学位を取得。現在、QLD州のサウスポートを拠点にファイン・アート・コンサルタントとして活躍中。
■Email: luceartbrands@gmail.com
■Web: www.luceartbrands.com.au

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