先輩取得者が語る
リアルな「オーストラリア市民権」事情
オーストラリアの永住権を所持している日本人の間でよく話題に上がる同国の市民権取得。永住者なら誰もが関心を持つが、一生を大きく左右する問題であるだけに「市民権を取った方が永住権よりも得なのだろうか?」と疑問を抱くのは当然だ。そうした疑問を解決する上で専門家からの情報も大切だが、「経験者のリアル」も知りたいところではないだろうか。そこで今回は、オーストラリア市民権を持つ日本人4人に市民権取得の本音を伺った。(聞き手=蓮ミチコ)
市民権取得者プロフィル
①永住権取得年 ②市民権取得年 ③市民権取得時の年代 ④家族構成
Aさん
①2005年
②2017年
③40代
④独身
Bさん
①2003年
②2007年
③30代
④独身
Cさん
①2004年
②2019年
③30代
④独身
Dさん
①2002年
②2012年
③40代
④夫、子ども2人
オーストラリア市民権を取得した理由
――市民権を取得しようと思った理由について教えてください。
Aさん(以下、A):日本に高齢の親がいるので帰国を決めましたが、親が他界した後に、またオーストラリアに住める可能性を残しておきたかったことが理由です。
Bさん(以下、B):オーストラリアの選挙に参加したかったのが一番大きな理由です。またオーストラリア市民権を取得した後に日本国籍に戻りたい場合、「簡易帰化手続き」という方法があると分かったことも市民権取得の理由として大きかったです。
Cさん(以下、C):オーストラリアの市民権取得が年々難しくなっているため、今後日本で生活をする可能性が低いことを考え、取得することにしました。Dさん(以下、D):家族がオーストラリアのパスポートを持っているのに自分のパスポートだけ日本のものであることで、有事の際に家族と離れ離れになってしまうことを心配したからです。また税金を払っているのに選挙に参加できないことが不条理に思ったことも理由です。
市民権を取って良かった点
――市民権を取得して良かったと感じるのはどのような点でしょうか。
A:現在日本に住んでいますが、いつでもオーストラリアに戻れる可能性が高いという点です。
B:選挙に参加できるのはやはり大きいです。また、永住権保持者に比べると大学の学費も幾分優遇されています。
C:5年に一度更新しなければならないレジデント・リターン・ビザ(永住者の再入国ビザ)が免除になる点です。それ以外は特にないです(苦笑)。D:やはり家族と同じオーストラリアのパスポートを持っているので、何かあっても大丈夫という安心感を得られました。オーストラリア国民として投票でき、政治に参加できることも良かったです。
それぞれ異なる市民権のデメリット
――逆に市民権を取得して悪かった点を教えてください。
A:オーストラリアでの選挙投票が期日までに間に合わなかった場合、罰金を払わなければいけないことです。パスポートの申請のための経費も掛かりましたし、手続きもわずらわしかったです。また今後、日本やオーストラリアの法律が自分の望まない方向へ転換するかもしれない恐れもあり、そうした自力ではコントロールし切れない不測の事態に常に備えなければならない精神的な不安要素もあります。
B:日本の旅券法の関係で、日本国籍から離脱しなければならなかったという点です。また、日本帰省の際に日本の国民健康保険制度を利用できなくなったことは、特に歯科治療において痛手です。
C:日本が二重国籍を認めていないため、国籍上、日本人ではなくなりました。D:特にないです。
市民権取得を迷っている人へ
――ずばり日本人永住者に市民権へ変えることをお勧めしますか?
A:人それぞれ状況が違うため、どちらとも言えません。ただ、オーストラリアに永住することを決意している人には、市民権を取得した方が有利になっていくのではないかと思います。レジデント・リターン・ビザの更新料とオーストラリアのパスポート更新料を比較するとパスポート更新料の方が安いですし。
B:あまりお勧めしません。日本のパスポートよりオーストラリアの旅券の方が他国を旅行する際にビザ代を支払わなければならない機会が多く、旅行好きの私としては痛い出費です。
C:政府関係の仕事に就きたい人や、残りの人生をオーストラリアで過ごすことを決めている人以外にはお勧めしません。ただし、オーストラリア国籍を取得したことを日本政府に届けなければ、デメリットもないのが現状なのでそういった考えの人であれば取得しておいた方が良いと思います。D:最終的な終の住処をオーストラリアと決めていたり、自分以外の家族全員がオーストラリア国籍であれば市民権取得をお勧めします。しかし将来的に日本に帰るつもりであったり、迷っている人にはお勧めしません。
読者の方へのメッセージ
――今後、市民権取得を迷っている人へのメッセージをお願いします。
A:市民権を取得する手続きは想像以上に煩雑で、時間も掛かりました。私の場合、半年ほど要しました。しかし、今はもっと取得まで道のりが険しく、今後英語テストの導入なども検討されていると聞きますので、早いうちに取得してラッキーだったと思います。
B:私は正直に日本の旅券を返還し、国籍紛失届も出しました。しかし、日本では大きな政党の元党首が二重国籍発覚後も政治生命を維持できており、「正直者が馬鹿を見る」という気分です。
C:日本は多重国籍者に対してペナルティーがあるわけではないのが現状です。取得しておいて損はないのではないかと思いますが、申告しない場合はあくまでも自己責任でお願いします。D:将来的に日本に帰るのか、オーストラリアでずっと暮らしていくつもりなのかが重要な判断要素になると思うので、よく考えてから決断した方が良いと思います。しかし、だんだんと市民権取得も難しく高額になってきているので、取れる時に取っておくというのも1つの考え方かと思います。