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過熱するシドニー・ラーメン最新事情①

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過熱するシドニー・ラーメン最新事情

 本格的な冬の到来と共に俄然食べたくなるのが、温かいラーメンではないだろうか。お昼時には多くのラーメン店に行列ができるなど、シドニーではラーメンがブームとなって久しいが、昨今ラーメン店の出店ペースは更に早まっており、もはやブームというよりは定着期を経て、発展期に入ってきたと言えるのではなかろうか。本紙では毎年シドニーのラーメン事情についてまとめてきたが、もはや年に1回では全く追いつかないほど変化のスピードは高まっている。ラーメン・ファンの中にも既に最新情報に追いつけなくなっている人も少なくないと推察する。そこで本特集ではこれまでのシドニーのラーメン事情を振り返りつつ、新たな動きや店をざっとまとめて紹介していきたい。
(取材・文:馬場一哉)


 シドニーでラーメンがブームと騒がれ始めてかれこれ10年ほどが経過した。その間、本紙にもコラムや、あるいはラーメン特集といった形でシドニーのラーメン事情について数多く掲載してきた。これまでのシドニー・ラーメン界の動きに関してはぜひバック・ナンバーを見て頂きたいが、一応本記事でもざっとおさらいしていく。また、本記事では提供できる情報の数を多くしたいため、それぞれのラーメン店の場所や店の特徴など詳細はできるだけ省く。誰でも手元で便利に情報を検索できるこの時代、検索エンジンを使えば欲しい情報はすぐ出てくるので本記事をその入り口として活用してもらえれば幸いだ。

 第1次シドニー・ラーメン・ブーム(日豪プレス名付け、以下2次、3次も同様)は今から10年ほど前にさかのぼる。その当時、一番星ラーメン館などがラーメン・ファンの間で人気だったが、そこにがむしゃら亮亭めんやなど人気店が相次いでオープン。いよいよシドニーでも本格的なラーメンを食べられる時代が来たとラーメン・ファンが湧いたのがちょうどこの時期だ。

 そして12年ごろ、再び新店ラッシュが訪れる。第2次シドニー・ラーメン・ブームだ。ずんどてんこもりなど新規店舗が相次いでオープンすると共に、日本から一風堂を有する力の源グループや、博多丸を有する丸亀製麺グループなどが相次いで市場に参入。これにより、日本でもシドニーでのラーメン・ブームが話題に上るようにもなった。

 15年には日本のテレビ番組などにも出演経験がある有名ラーメン・シェフ、翁和輝氏がシドニーに進出。翁さんラーメンをプロデュースして話題をさらった。同時期にフレンチ・シェフとして名高い犬飼春信氏によるラーメン店立ち上げ(一究、現在は閉店)、人気店まんぷく開店、サウスエリアにきぶながオープンなど引き続きラーメン界は話題に事欠かなくなった。この時期を記者は第3次シドニー・ラーメン・ブームと名付けている。弥榮(やさか)もこの時期に少し遅れる形でオープンした。

日本の屋台のような雰囲気で食べられるのがうれしいWok & Noodle Bar
日本の屋台のような雰囲気で食べられるのがうれしいWok & Noodle Bar

 さて、この段階まで来ると、ラーメンはもはや一過性のブームなどではなく定着した食文化の1つとなる。ここで一度、シドニーのラーメン界を俯瞰しようということで本紙でも「シドニー人気店店主・座談会」などの企画を開催。また、ずんどと本紙が組んで油そばを共同開発したのもこの時期だ(どちらも上述のオンライン版のバックナンバー一覧から見られる)。奇しくもずんどの油そば販売と同時期に、他の店舗でも油そば、まぜそばなど汁なし系のメニューが増え始めた。

 その後、一風堂博多丸まんぷく弥榮などが2号店をオープンするなど、多店舗展開が目立ち始める。同名の2号店だけではなく、めんや系列がごくう、翁さんラーメン系列がWok & Noodle Barなど別コンセプト、別メニューの店を展開するなどといった動きも目立った。なお、がニュートラル・ベイにオープンしたこの時期、とりいちの目と鼻の先にオープン。また、弥榮の2号店も開業し、元々あったたんぽぽも含めて一気にニュートラル・ベイがラーメン激戦区となった。追って触れるが、その後一番鳥もラーメンを売りとしたメニュー展開を始め、更に激しくしのぎを削るようになった。

豚骨スープ一辺倒からの脱却

 海外のラーメン・ブームと言えばたいていの場合豚骨スープだが、それはシドニーも例外ではなかった。いわゆる第1次~第3次までのラーメン・ブームの時期、主役はやはり豚骨スープであり続けた。

 もちろん、博多ラーメンのかえだまがチャイナタウンに新規オープンするなど、引き続き豚骨スープが人気なのは変わらないが、ラーメンが食文化の1つとして定着し始めた時期からバリエーションは目に見えて増え始めた印象がある。

 例えば従来、焼き鳥店として知られたチャコバーはある時期からランチタイム、及び月曜の夜限定でラーメンを提供するようになったが、独創的なメニューを提供し日本人、ローカル双方から絶大な支持を得ている。一風堂グループの五行も焦がししょうゆや焦がし味噌などがメインでこちらも人気を誇っている。

シドニーで長崎ちゃんぽんを食べられるのはうれしい
シドニーで長崎ちゃんぽんを食べられるのはうれしい

 ニュートラルベイのとりいちも鶏白湯をメインに据えるなどこだわりを見せている。トラムシェッズ内のオーサカ・トレーディングも魚介の利いたしょうゆラーメンがベース。また、老舗のラーメン館も長崎ちゃんぽんを出すなど工夫をしている。その他郊外で高い人気を誇る東京ラーメンのネギ味噌ラーメンも見逃せない。このようにラーメンのメニューの多様性が高まっていることからも、シドニーのラーメン・カルチャーは確実な高まりを見せていると言って良いだろう。

さて、そんな中新たな動きとして見られ始めたのが、日本人ではなくオーストラリア人が作るラーメンが出始めたことだろう。例えばニュータウンの人気カフェ、ライジング・サン・ワークショップではラーメンも人気メニューの1つだ。モーニング・ラーメンなどユニークなラーメンを提供して話題をさらっている。また、サリーヒルズのカフェ、サンドバーもラーメンを提供している。オーサカ・トレーディングで修行を積んだオージー・シェフがラーメン作りに情熱を燃やしている。

斬新な発想に感心させられるライジングサンのモーニング・ラーメン
斬新な発想に感心させられるライジングサンのモーニング・ラーメン
しっかりした魚介の旨みを感じるサンドバーのしょうゆラーメン
しっかりした魚介の旨みを感じるサンドバーのしょうゆラーメン

 日本のラーメンがローカルの人びとの発想によってどのようなユニークな進化をするか、それを見届けられるのも海外ならではのラーメン・ファンの楽しみ方と言えるだろう。さて、ここまでがざっと昨年までのシドニーのラーメン業界の動きと言ったところだ。

加速度的に進化を続けるラーメン業界

 いよいよ最新のラーメン事情に話を進めるが、この1年間の加速度的なラーメン人気の高まりには驚かされるばかりだ。印象的なイベントとして2018年9月の2つのラーメン・イベントに触れておきたい。

 1つ目はずんどが行った「札幌ラーメンフェア」だ。札幌ラーメンの伝道師として知られる西山製麺の石田栄氏が来豪し、自ら本場の札幌ラーメンを作り提供するイベントで、この期間に使用する麺は全て札幌から直送した西山生麺となった。本場の味を食べられるということで大いに話題となり連日1~2時間超の大行列となり、本来4日間行われるはずだったイベントは3日間で早々に終了してしまった。なお、現在、チャッツウッドにできたずんど2号店、ずんどサッポロではこの西山製麺を使った札幌ラーメンを提供している。

札幌の西山製麺を輸入し、専門のシェフをそろえたイベントは大盛況に
札幌の西山製麺を輸入し、専門のシェフをそろえたイベントは大盛況に
人気カフェと人気ラーメンがコラボしたイベントには開店前からたくさんの人が並んだ
人気カフェと人気ラーメンがコラボしたイベントには開店前からたくさんの人が並んだ

 そして2つ目はダーリング・スクエアにオープンした人気カフェ、エディション・ロースターズ・カフェとチャコバーがコラボして行った1日限定のラーメンイベントで、こちらも同様に1~2時間待ちの大盛況となった。シドニーであれほどの行列はなかなか見られるものではない。シドニーでのラーメンの人気の高さをまさに実感させられるイベントであった。

 さて、直近1年の動きの中で注目したいのは、夜は居酒屋などを経営し、昼間はラーメンを提供する、それまでチャコバーが行っていたようなダブル経営のような形でラーメンを提供する店が激増したということだ。ポップアップ的な店舗であっても驚くほど独創的なラーメンを出すところも多くうならされる。

 本特集にあたって記者はさまざまな情報を頼りに数多くのラーメン店を訪ね歩いた。多少の所感を交えながら、記者が注目したラーメン提供店を以下、五十音順に紹介していく。加速度的に増え続けるラーメン提供店の中で覚えておきたいところをある程度網羅できていると思うので今後のラーメン・ライフの参考にして頂ければ幸いだ。

 なお、所感はあくまで記者の個人の意見ということを念頭に置いて頂ければと思う。また、記者のラーメンの好みなどはこちらも冒頭にも記したバックナンバー内にある初期のコラムに詳しいので気になる方はそちらを参照して欲しい。

エビス・バー&グリル

夜は、名すしシェフとして知られる上田恭司シェフがすしを握る居酒屋だが、昼間はリーズナブルなランチ・メニューを提供している。注目したのは火曜限定のランチ・ラーメンだ。具だくさんの豪勢な豚骨ラーメンを何と10ドルで食べることができる。大きな焼き海苔が1枚丸ごと入っている豪快さも嬉しい。

安いだけでなく具だくさんでボリュームも多いのがうれしい
安いだけでなく具だくさんでボリュームも多いのがうれしい
いつまで行っているかは分からないので早目に訪れると良いだろう
いつまで行っているかは分からないので早目に訪れると良いだろう

楽・炉端グリル

人気フレンチ・シェフとして名を馳せる犬飼春信氏が、同じくファイン・ダイニングで活躍してきた花倉嗣文シェフと、ダーリングハーストにオープンさせた炉端グリルの店だが、昼間はラーメンをメインに据えたメニューを提供している。洋の発想から生まれる独創的なラーメンに虜になるファンも少なくない。今回頂いたクラムチャウダー・ラーメンも絶品。オプションでタスマニア産の黒トリュフを削ってもらうこともできる。トリュフの香りを感じながら、これは逆に日本ではなかなか食べられない類のラーメンではなかろうかと感じた。

季節限定発売のクラムチャウダー・ラーメン
季節限定発売のクラムチャウダー・ラーメン
開店からすぐに行列となるので早目に行くことをお勧めする
開店からすぐに行列となるので早目に行くことをお勧めする

ゴールドクラス・達磨

毎日リピートするファンもいる人気メニューになっているそうだ
毎日リピートするファンもいる人気メニューになっているそうだ

製麺所の担当者に記者好みの、加水率高めの中太ちぢれ麺を使っている店を聞いたところ教えて頂いたのが同店。魚介のしっかりとしたダシを使った塩ラーメンはコクがありながらもあっさりとしており、また麺もつるつるしていて美味。若手ながらその確かな目利きと腕前で人気を高めている伊藤信太朗シェフ自らダシをしっかりと取っているという。また同シェフの握るすし3貫が付いてくるのもうれしい。

奇をてらわずベーシックに作った印象の豚骨スープ
奇をてらわずベーシックに作った印象の豚骨スープ

昼はラーメンをメインに、夜は居酒屋スタイルでお酒を楽しめる店として、ますやグループが満を持してシティにオープンさせた新店。初来訪ということでメインの豚骨ラーメンを頼んだが、比較的あっさりとした味わいだった。ビジネス街で比較的利用者層の年齢が高いことを考慮しての調整だろう。飲んだ後の締めなどにも良いのではないか。

ラ・ラ・ラーメン

濃厚な海老の香りと絶妙なたれが絡み合った絶品
濃厚な海老の香りと絶妙なたれが絡み合った絶品

たまたま最後になったが、今回さまざまなラーメン店を食べ歩く中、実は最も衝撃を受けたのがラ・ラ・ラーメンだ。日本人経営のラーメン店ではなく、完全ローカルということなので正直、大きな期待はしていなかったのだが見事に裏切られた。今回はエビ混ぜそばという、いわゆる油そばの類のメニューを頼んだが、僕が人生で食べた中で最もおいしい油そばではないかと思うほどうまかった。器の盛りの演出も面白く、逆にこれは日本のラーメンにこだわり続ける日本人には作れない類の新世代のラーメンなのではないかとすら考えてしまった。店内の内装もお洒落で女子ウケも間違いないだろうし、ドリンクの種類も充実している。開店前にすでに行列ができていたことにも納得できるクオリティーだ。海外でラーメンが進化するとはこういうことではないかと可能性を感じた次第。





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