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「ジャパン・スーパーナチュラル」シドニーのNSW州立美術館で開催中

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「ジャパン・スーパーナチュラル」シドニーのNSW州立美術館で開催中

恐ろしい風貌の中にも、笑いやユーモアが漂う日本の妖怪。その魅力に焦点を当てた企画展「ジャパン・スーパーナチュラル」が11月2日、シドニーのニュー・サウス・ウェールズ州立美術館で始まる。葛飾北斎や歌川国芳など江戸時代の浮世絵師の作品から、コンテンポラリー・アートの巨匠・村上隆らが手がけた前衛作品まで180点以上を展示。近世から現代まで日本のポップ・カルチャーに脈々と流れる妖怪アートの系譜をひも解き、超常現象伝承に隠された日本人の心象風景に迫る。(ジャーナリスト・守屋太郎)

近世の浮世絵から現代美術まで、脈々と流れる妖怪アートの系譜


「幼い頃から日本の昔話に親しんできた」というニュー・サウス・ウェールズ州立美術館のメラニー・イーストバーンさん。長年に渡り「妖怪展」の構想を温め、2年間かけて妖怪にまつわる日本美術の所蔵品を世界中の美術館から収集した
(撮影:馬場一哉)

「妖怪や幽霊にまつわる日本の豊かな文化に触れて欲しい。妖怪や幽霊は想像上の産物ですが、アーティストはそれをリアルに表現することができるのです」。同展を企画したニュー・サウス・ウェールズ美術館アジア美術部のシニア・キュレーター、メラニー・イーストバーンさんはこう話す。

日本に伝わるさまざまな妖怪を初めて系統的にまとめたのは、江戸時代中期に活躍した画家・浮世絵師の鳥山石燕だと言われる。鳥山は1766年刊行の画集「画図百鬼夜行」で、天狗や河童、ろくろ首といった超常現象の存在を1種ずつ1枚の絵にして、それぞれの特徴を詳しく紹介した。この作品がいわば「妖怪図鑑」として大衆に親しまれ、後の世に大きな影響を与えたという。

葛飾北斎「百物語 こはだ小平二」(Photo: Minneapolis Institute of Art)
葛飾北斎「百物語 こはだ小平二」(Photo: Minneapolis Institute of Art)

「鳥山は、モンスターをコレクションして楽しむという意味では、『ポケットモンスター』(ポケモン)や『妖怪ウォッチ』(いずれも日本のアニメ・ゲーム作品)の元祖なのですよ」(イーストバーンさん)

浮世絵は当時、木版画の技術発展により大量生産が可能となり、安価な風俗画として大衆に広く浸透していく。今のポップ・カルチャーの原点とも言える。題材は、現代のグラビアに相当する「美人画」、ヌード写真に当たる「春画」、旅行への憧れを掻き立てた「風景画」、社会や権力を斬る「風刺画」など多岐に渡った。怪談や化け物をモチーフにした「妖怪絵」も、浮世絵の1ジャンルとして町人たちの人気を集めた。

富士山をバックに大波が砕ける『神奈川沖浪裏』で有名な浮世絵師・葛飾北斎も、妖怪絵を手がけた。当時流行した怪談話「百物語」を題材にした「こはだ小平二」(写真)は、妻の不倫相手に殺され、幽霊になって復讐する男を描いた北斎の妖怪絵の代表作だ。不気味な姿とは裏腹に、妻を寝取られた幽霊の情けない眼差しはどこか滑稽でもある。

25メートルの巨大絵巻に注目

明治時代になると、日本は西洋化を進めたため、妖怪や幽霊といった迷信はいったん下火になる。一方、大量の日本の芸術作品が西洋人の手に渡り、海外に流出していく。ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館は「ジャパン・スーパーナチュラル」の開催に当たり、米ミネアポリス美術館、米ボストン美術館、大英博物館など世界に散らばる妖怪関連の所蔵品を集めた。

時は流れ、妖怪や幽霊といった超常現象の存在は、第2次世界大戦後に再評価される。映画では『怪談』(小林正樹監督、1965年)などのホラー作品がヒット。マンガでは水木しげるの『ゲゲゲの鬼太郎』が人気を集めた。その後、現代に至るまで、『千と千尋の神隠し』などの宮崎駿監督作品に代表されるアニメ、ゲーム、マンガなど、妖怪は日本のサブカルチャーに強い影響を及ぼしている。

妖怪は現代の画家にもインスピレーションを与えた。日本が誇る現代アートの巨匠・村上隆もその1人だ。村上の「死者の国に差し込んだ『虹』の尻尾を踏んだ時」は、「ジャパン・スーパーナチュラル」の目玉作品。黒いドクロを中心に広がる虹色の波動、光線、モンスターなどをサイケデリックに描写した、横25メートル、縦3メートルの巨大絵画は圧巻だ。

同展ではこの他、山本太郎、青島千穂、松井冬子といった日本のコンテンポラリー・アーティストの作品やインスタレーションも多数展示され、手で触れられるスクリーンなどインタラクティブな仕掛けもいっぱいだ。『ゲゲゲの鬼太郎』のキャラクターが東海道を旅する、水木しげるのトリビュート作品「妖怪道五十三次」も見逃せない。

歌川国芳「相馬の古内裏」(そうまのふるだいり)(Photo: The Trustees of the British Museum)
歌川国芳「相馬の古内裏」(そうまのふるだいり)(Photo: The Trustees of the British Museum)
村上隆「死者の国に差し込んだ『虹』の尻尾を踏んだ時」の一部(Photo: courtesy Kaikai Kiki)
村上隆「死者の国に差し込んだ『虹』の尻尾を踏んだ時」の一部(Photo: courtesy Kaikai Kiki)
青島千穂「Off to Memorial Service」(Photo: Chiho Aoshim /Kaikai Kiki Co, Ltd.)
青島千穂「Off to Memorial Service」(Photo: Chiho Aoshim /Kaikai Kiki Co, Ltd.)

現代のサブカルチャーやアートで描かれる妖怪は、鳥山や北斎の時代と「完全につながっているのです」とイーストバーンさんは言う。当時既に世界最大規模の都市に発展していた江戸を中心に、鎖国政策の下で独自に進化し、繁栄した町人文化。そこから生まれた妖怪アートの系譜は、約300年の歴史を経て脈々と流れているのだ。新旧作品に共通する魅力は「物語性が非常に深いと同時に、ユーモアにあふれていて楽しい」(イーストバーンさん)ことだという。

「随筆家の寺田寅彦は1929年に『人間文化の進歩の道程において発明され創作されたいろいろな作品の中でも「化け物」などは最もすぐれた傑作と言わなければなるまい』(著作「化け物の進化」より)と書いています。日本には今も(鬼を追い払う)節分、夏の肝試しといった文化が根付いていて、そうした(霊的な)存在が(西洋と比べて)より受け入れられているのではないでしょうか」(イーストバーンさん)

この夏、不気味な妖怪たちの虜になってみては?

ジブリ・アニメの上映会も開催

開催期間は来年3月8日まで。NSW州立美術館の常設展示は入場無料だが、同企画展を観るには別に入場料がかかる。期間中は、妖怪をテーマにしたスタジオ・ジブリのアニメ映画の上映会(下記)、レクチャーなどの関連イベントも開催する。関連イベントのスケジュールは下記ウェブサイトまで。

また、期間中の毎週土曜日の午前11時からは、同美術館の「コミュニティー・アンバサダー」による1時間の無料日本語ツアー(予約不要)も催行されている。参加希望者は入場券を購入の上、同美術館地下1階の会場前に集合する。

■Japan Supernatural
期間:11月2日~2020年3月8日
開館時間:木~火10AM~5PM、水10AM~10PM(12月25日休館)
場所:Art Gallery of New South Wales(Art Gallery Road, The Domain, Sydney NSW)
Web: artgallery.nsw.gov.au/exhibitions/supernatural
アクセス:電車/セント・ジェームズ駅またはマーティン・プレース駅から徒歩約10分、バス/クイーン・ビクトリア・ビルディングから441番のバスに乗車、美術館前のバス停で下車すぐ
企画展入場料:大人$25、コンセッション$22、美術館会員$18、家族(大人2人、子ども3人まで)$62、子ども(12~17歳)$12、12歳未満無料
*チケットはオンラインでも購入可能
Web: ticketing.artgallery.nsw.gov.au/eventseatblockprices.aspx

■Studio Ghibli summer festival
入場料:大人$12、コンセッション/美術館メンバー$10
*チケットはオンラインでも購入可能
Web: artgallery.nsw.gov.au/calendar/studio-ghibli/
場所:Domain Theatre, Art Gallery of New South Wales
● 千と千尋の神隠し(2001年・宮崎駿監督)2020年1月11日(土)2PM~
● 平成狸合戦ぽんぽこ(1994年・高畑勲監督)2020年1月18日(土)2PM~
● となりのトトロ(1988年・宮崎駿監督)2020年1月25日(土)2PM~
● 魔女の宅急便(1989年・宮崎駿監督)2020年2月1日(土)2PM~
● もののけ姫(1997年・宮崎駿監督)2020年2月8日(土)2PM~

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