福島先生の人生日々勉強
自分の居場所
苦しくて自分を見失いそうになることはありませんか。自分のことを嫌ってしまいそうなほどに。生きづらい時期は、子どもにもあります。
特に、自我が芽生え、「何のために生きているのだろう」「自分に生きる意味なんてあるのだろうか」と、自分の存在意義について悩み始めるころです。そういう時期は小学生でも高校生になっても何度でもあり得ます。精神的な成長に加え、その時に自分が置かれている環境に起因することが多いのですが、その悩みを乗り越えられるか否かは、その子が単純に愛されているかどうかが非常に大事になります。
例えば、家で手伝いをしなくてもご飯を食べて良い子どもと、食べてはいけない子どもがいるとします。後者の子どもは、働かずに食べたりすると怒られるわけです。するとどうなるでしょう。実は、後者の「働かざる者食うべからず」としつけられた子どもの方が、後に生きづらくなるのです。
手伝いをすること自体が問題なのではありません。家とは本来、自分がそこにいるというだけで家族にとって意味を成す場所です。ところが、子どものころに自分という存在そのものを認めてもらえないで育つと、大人になっても、職業的役割を果たしていないと自分に価値がないように思えてしまい、ただ何もしないで座っているだけでも、馬鹿にされている、責められていると感じ、身構え、少しもリラックスできません。
職を持ちお金を稼ぐ人の方が、そうでない人よりも偉いでしょうか。確かにお金は生活の役に立ちます。しかし、心の役に立つこととは違います。役職や収入と人の価値とは無関係です。にもかかわらず、職業的役割を中心にアイデンティティーを形成し、何もせずともそこにいてくれる人びとをないがしろにしていると、いずれ高齢になった時、自分自身の居場所を見失って苦しむことになります。なぜなら、役に立てない自分が厄介者に思えてくるからです。
あなたは本当に苦しい時、どこに行きますか。権力者のところですか。それとも、自然の懐(ふところ)でしょうか。
どうしようもなくつらい時に支えになってくれるのは、お金や権力ではありません。真の価値というのは、ただそこに、無条件に存在してくれるものにこそあるのです。赤ちゃんは生まれてきた時、自分では何もできません。でも、宝物ですよね。大人になって、働けなくなっても、体や気力が弱っても、宝物であることには変わりません。ただそこにいるだけですばらしいのです。あなたは今、大事な人を、大切にできていますか。
教育専門家:福島 摂子
大阪府出身。34年間、教育に携わり、教育カウンセリング・海外帰国子女指導を主に手掛ける。1992年に来豪。シドニーに私塾『福島塾』を開き、社会に奉仕する創造的な人間を育てることを使命として、幼児から大学生までの指導を行う。2005年10月より拠点を日本へ移し、日々活動の幅を広げていく一方で、オーストラリア在住者に対する情報提供やカウンセリング指導も継続中である。