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【対談】ジェンダーの平等、女性がより羽ばたける世界を作る/サラ・リュー氏

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ジェンダー・ギャップを乗り越え、
女性がより羽ばたける世界を作る

「ドリーム・コレクティブ」マネジング・ダイレクター
サラ・リュー ✕ doq®代表
作野善教

日系のクロス・カルチャー·マーケティング会社doq®の創業者として数々のビジネス・シーンで活躍、現在は日豪プレスのチェア・パーソンも務める作野善教が、日豪関係のキー・パーソンとビジネスをテーマに対談を行う本企画。今回は、女性のリーダーシップ発揮を目的に、企業のコンサルティングや訓練、研修などを手掛ける「ドリーム・コレクティブ」創業者のサラ・リュー氏にご登場願った。(監修・撮影:馬場一哉)

PROFILE

Sarah Li

Sarah Li
ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包容、一体性)の向上、女性のリーダーシップ発揮を目的に、企業のコンサルティングや訓練、研修などを手掛ける「ドリーム・コレクティブ」の創業者兼マネジング・ダイレクター。日本の内閣総理大臣閣僚会議の顧問、「フォーブス賞」審査委員、若手起業家の国際会議「G20 YEA」オーストラリア代表、グーグル「リージョナル・パートナー」なども務める。

PROFILE

さくのよしのり

さくのよしのり
doq®創業者・グループ·マネージング・ディレクター。米国広告代理店レオバーネットでAPAC及び欧米市場での経験を経て、2009年にdoq®を設立。NSW大学AGSMでMBA、Hyper Isl and SingaporeでDigital Media Managementの修士号を取得。移民創業者を称える「エスニック·ビジネスアワード」ファイナリスト、2021年NSW州エキスポート・アワード・クリエティブ産業部門最優秀企業賞を獲得。

作野:日本の東京大学に留学した経験をお持ちですが、そこからオーストラリアで起業するまでの経緯について、まずはお聞かせください。

サラ:私は台湾で生まれ、ニュージーランドで育ちました。大学在学中に、交換留学プログラムを利用して、東京大学で1年半、学ぶ機会があり、卒業後は仕事を得るためにシドニーへやって来ました。私のキャリアの根底にあるのは、「不可能は可能」という考え方です。東大に留学しようとした時、大学で日本に関する講座を履修するなど、日本に関する経験が何ひとつなく日本に知り合いもいなかったので、周囲の皆には「できっこないよ」と言われました。しかし、結果的に留学プログラムに合格しただけでなく、東大から全額給付の奨学金も頂きました。それが私の人生にとって大きな転機になり、より大きな夢を抱くことを可能にしてくれたのです。

作野:その力強い信念は、どこから来ているのですか?

サラ:失敗を恐れず、トライしてきた経験だと思います。「東大に入れるわけがない」と言う人の考えは正しかったかもしれませんが、私には失うものは何もなかったのです。そのような姿勢は、私のキャリアにおける、一貫した哲学のようなものになっています。多くの場合、限界は自分の内側にあるもので、現実の中にあるわけではありません。何度もトライして経験を重ねれば重ねるほど、より大きな成功につながるということを私は学んできました。

作野:背景には家庭環境もあったのでしょうか?

サラ:私は非常に反抗的な性格で、両親が「やるな」ということは、全てやりたかった。両親は日本に行くことにも反対でしたが、やるなと言われると、反抗的な私はやってみたくなりました。私は「子どもに少しくらい反抗させた方が、良い時もあるんだよ」と両親に言いました。子どもが両親の定めたルールに従い過ぎると、子どもはぬるま湯につかってしまいます。すると、往々にして、チャンスを逃しかねません。

作野:反骨心がパワーの源になったと。

サラ:そうです。それ以来、私は常に、可能性に目を向けるようになりました。吉祥寺に住みながら東大に通い、日本滞在が1年を経過した頃には、日本文化の魅力に傾倒していきました。1年半の間に22カ所の街を訪問し、日本文化に熱中しました。

作野:強い好奇心はどこから来ているのでしょうか?

サラ:例えば、初めてチョコレートの味を知ったら、次はアイスクリームを食べたくなる。旅を始めると、もっといろいろな場所に行きたくなる。そんな感覚でしょうか。一度しかない人生。日本に住めるのはこの1年半だけかもしれない。その時間を最大限に生かしたい、と考えたのです。東大を出て、その後仕事を始めた時も、そうした”哲学”をいつも心に刻み込んでいました。私が「ドリーム・コレクティブ」を起業しようとした時も、皆は「無理だよ」と言いましたが、私は前に進みました。

作野:話は戻りますが、日本の最高学府と言われる東大での勉強はどのようなものでしたか?

サラ:非常に楽しかったです。交換留学生だったから、勉強のためではなく生活も楽しみたかったからかもしれません。私は日本の文化と学生たちの中にどっぷり浸かっていたので、とても有意義な経験を得ることができました。また、交換留学プログラムで来日している世界中の学生とも交流し、さまざまな異なる文化と接することができたのも大切な経験となりました。一度、ある東大の女子学生と話す機会がありました。私が「なぜそれほど東大に入りたかったの?」と聞くと、彼女は「良い夫と出会えるからよ」と答えました。私は「そんな理由で東大に行くなんて」とショックを受けました。それが最初のきっかけになりました。日本社会の根底にある、多様性とジェンダー平等の問題について知り、より敏感になる転機になったのです。

生来の反骨心に火が付き起業へ

作野:その後、ニュージーランドに戻り、大学を卒業しました。そこでは何を学んだのですか?

サラ:メディア学と心理学です。忍耐力も(笑)。あとジャズも少し。

作野:大学卒業後はどんな会社で働いたのですか?

サラ:オークランド時代は日本貿易振興機構(JETRO)のインターンシップを経験しました。卒業後はニュージーランドから出たくて、いろいろなところに履歴書を送りました。最初の仕事はシドニーで得た、WPP(英国系大手広告代理店)の営業アシスタントで、そこで初めて実社会の試練を受けました。広告代理店の仕事のペースは速いですし、要求されるレベルも高い。クライアントの期待にどうやって応えるか。どのように会話すれば良いのか。手探りの状態でしたが、短期間に非常に多くのことを学ぶことができました。労働時間は長く、上司も「指示するまで何も言うな」という排他的なタイプ。体調を崩して病院にいる時でさえ電話会議に参加したり、クライアントの締め切りにギリギリ間に合わせるために、夜中に空港に荷物を届けたこともありました。

作野:私も東京の米国系広告代理店で、カオスのような職場で働いていましたから共感できます。でも、そうした環境の中で、どうやって対応するか、生き延びる術を学ぶことができるんですよね。

サラ:その通りです。ショックを跳ね退ける力、素早い回復力といったものを身に付けることができました。今、当時を振り返ると、本当に貴重な体験だったと思います。

作野:ご自身の会社を起業した経緯を教えてください。

サラ:最初の広告代理店では5~6年働きました。その後、代理店からオレイ(米国のスキンケア商品)などの消費財メーカーの職を経て、独立する前はレブロン(米国の大手化粧品メーカー)で、地域のブランド・マネジャーを務めました。美容用品のマーケティングの仕事に長年、携わっていたのです。アジア人の若い女性としてできるだけ早く出世したいと思っていましたが、多くの人事担当者から「限界がある」と言われました。それで、私の反骨心に火が付きました。だったら「問題を解決しよう。より多くの女性をリーダーに登用しよう」と考え、「ドリーム・コレクティブ」を創業したのです。最初は、個人の女性労働者をターゲットにした「B to C」のビジネスを始めました。女性の専門職を対象に、会議やセミナー、ワークショップを開きました。しかし、すぐに個人を対象にしたビジネスは「規模の拡大に対応できない」と認識するようになりました。「B to C」の商売は利幅も少ないです。加えて、戦略的には、問題を解決するよりも問題をより大きくしていたことが分かりました。私たちのプログラムに参加した女性たちは、より高度なインスピレーションを得て、新しい知見を持って職場に戻っていきました。しかし、企業の経営陣は旧態依然です。逆に彼女たちと会社の間に、軋轢を生んでしまったのです。私たちは考えました。構造的な問題を解決するには、直接、企業側と仕事をした方が良いのではないかと。そこで、企業を直接相手にした「B to B」のコンサルティングに軸足を移したのです。現在、当社のクライアントのうち、おおむね40%が日本企業です。40%がオーストラリア、残りの20%がシンガポール、米国、英国、インド、マレーシアなど他国の企業が占めています。

拘束力が強い社会、急な変革は可能

作野:男女平等の度合いを示す世界経済フォーラム(WEF)の「ジェンダー・ギャップ指数」(2021年)によると、日本は156カ国中120位です。日本の社会や企業文化の観点から、多様性やジェンダーの平等をどのように見ていますか?

サラ:日本の状況は確かにすばらしいものではありません。しかし、改善しなければいけないという考えでは皆が一致していて、それは悪いことではありません。どうすれば良いのかは分からないけれども、何か改善しなければいけないという認識は共有されています。一方、一般的に既にジェンダーの平等が達成されているとされるオーストラリアのような国はどうでしょうか。そうした「改善しなければならない」という認識はありません。女性が人口の50%を占めているにも関わらず、オーストラリア証券取引所に上場するトップ企業200社の役員に占める女性の割合は34.1%。人種的な多様性にも疑念があります。例えば、アジア市場について議論するオーストラリアン・フィナンシャル・レビュー紙の「リーダーシップ・サミット」。パネリスト約20人の中で、アジア系は何人いるでしょう? 信じられないほど少ないです。ジェンダーや人種の多様性において進歩的とされているオーストラリアですが、実態はかけ離れていると言わざるを得ません。

作野:日本の話に戻りますが、この状況を変えるのに良いアイデアはありますか?

サラ:私の意見では、ゆっくりと準備していくのではなく、一気に変革するのが得策です。例えば、日本では新型コロナウイルスの感染拡大に際して、「在宅勤務しなさい」と言われても、急に対応できると誰も思わなかったと思います。でも実際には可能でした。社会的な拘束力が強い社会だからです。それ自体はすばらしいことだと思います。なので、そうした風潮をうまく利用して、「どの会社も男女比率を同じにしなければならない」とルールを書き換え、社会のシステムを変えてしまう。徐々に変えていくのではなく、即決して実行していくのが、一番効果的な方法だと考えます。例えば、男女で同じ割合の従業員を雇用しなければ、経営者の賞与が減らされるなどといった規制や奨励策が有効になるでしょう。

作野:ジェンダーや人種の多様性を実現し、日本企業が1つの力強いチームを作り上げる上で、何が課題になりますか?

サラ:多くの日本企業や、日本で運営している多国籍企業と仕事をしてきましたが、最大の課題はインクルージョン(包容、一体性)でしょう。実社会は既に多様になっていますが、インクルージョンは実現されていません。一方、日本には「目立ちたくない」、「他人と同じでいたい」といった企業文化があります。調和と従順であることは、質の高い仕事を可能にします。調和を求めること自体は良いことです。しかし、長所は最大の弱点になり得ます。そこは日本の強みでもあり、弱みでもあります。誰も目立ちたがらないということは、人のユニークさを包容しない、ということにもつながります。そうした物の見方をする企業と一緒に仕事をする時、私たちは難しい課題にぶつかります。異なる意見に反対することを許容し、むしろ称賛する。そのことが、多様性の利益を享受し、自然とインクルージョンにつながっていきます。

作野:日本には「根回し」という言葉があります。日本の組織は会議の前に根回しをして足並みを揃えたがります。でも、会議の前に結果が決まっているのなら、会議に出席する意味はあるのでしょうか。意見の一致。チームワーク。良い面もありますが、そうした環境からは斬新なアイデアや視野は生まれてきませんね。

母親なっても夢を諦めないで

作野:オーストラリア企業が日本企業から学べることはありますか?

サラ:日本企業から「グローバル企業から何を学べるか」と質問されることは多いですが、その逆はほとんどありません。日本文化の長所は「謙虚さ」です。日本人は変化を好まないかもしれませんが、相手の話を素直に聞き、学ぼうとします。そうした謙遜した態度、謙虚な姿勢は、オーストラリアの企業が学ぶべきではないでしょうか。私は交換留学生として初めて日本を訪れた時、空港のトイレをものすごく奇麗に掃除しているおばさんに出会いました。当時は日本語が話せなかったので、友達に「どうしてそんなに真剣にトイレを掃除しているの?」と聞いてもらいました。すると、おばさんは「私はただトイレを掃除しているんじゃない。外国から来たお客様にとって日本の第一印象になるから強い責任を感じているの」と答えました。その言葉は、私にとって働くことの意味を根底から覆すほど衝撃的でした。そうした「一生懸命」の精神は、私たち全てが学び、リスペクトできることだと思います。

作野:逆に、日本企業がオーストラリア企業から学べることは?

サラ:オーストラリア文化の強みは、判断が素早いことと、上下関係があまりないことでしょう。私の会社でも、私はスタッフから追及されたり、完全な説明を求められたりします。私の言ったことが否定されることもあります。でも、スタッフがベストを尽くしている限り、私は構いません。そのために雇っているのですから、意見が違うのは当然です。リーダーが多様な意見を認識することが、組織を強くするのだと考えています。組織の階級や肩書きに関わらず、異なる意見を包容することは、日本の会社がモデルにできる部分だと思います。

作野:将来のビジョンについて語ってください。

サラ:私たちは「2025年戦略」という目標を立てています。第一に、2025年までに、私たちは訓練プログラムや管理職の職場経験、無料のオンライン教育プログラムなどを通して、世界中でリーダーを目指す300万人の女性と一緒に仕事をしたいと考えています。第二に、世界でトップ30位の全てのハイテク企業と協業していきます。ハイテク企業は凄まじい高成長を遂げていますが、女性の活躍度が低いので参入のチャンスがあります。現時点で既にトップ50位のうち23社と仕事をしていますので、目標の実現に向けて進んでいます。第三に、売上高を毎年、前年比で100%伸ばし続けます。売上高の倍増は昨年実現しましたし、今年以降も継続します。「ハイパー・グロース」(超高成長)企業であり続けます。NECやソフトバンクといった日本の大手ハイテク企業とも協業しています。日本の企業カルチャーの将来を形作る一助になりたいと思っています。グローバルな経験を有しながら、日本独自の細かいニュアンスや文化を理解し、リスペクトしています。それが巨大なコンサルティング会社にはできない、私たちの強みです。既に日本の首相官邸や、東京都の小池百合子都知事とも仕事をしています。私たちは日本の市場を席巻し、日本が良い方向に変わっていくように、お役に立ちたいと思っています。

作野:最後に、子育てなどの理由で仕事を離れた人にアドバイスをお願いします。

サラ:当社のウェブサイトでは今年、「シー・リターンズ」(彼女は仕事に戻る)という、職場復帰を目指す母親や女性向けに、無料のオンライン・コースを立ち上げます。まずはそちらに登録して欲しいと思います。このコースを終了すれば、世界の一流ハイテク企業の求人広告にアクセスできるようになります。私の友達の中には、母親になって仕事の夢を諦めた人が何人かいますが、私は彼女たちの話を聞いて悲しくなります。子どもが「お母さんは自分を育てるために夢を犠牲にしたんだ」と知ったら、どう思うでしょうか。母親は、子どもの人生を導くような、模範となる人物になるのが一番だと考えています。

作野:本日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。

(11月9日、ドリーム・コレクティブ社で)

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