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Road Trip out of Sydney「クルマに乗って、街を出よう!」

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特集 | Road Trip out of Sydney

クルマに乗って、
街を出よう!

 摩天楼がそびえ立つ大都市から一歩外に出れば、黄金のビーチ、緑の田園地帯、赤い荒野など太古の大自然が広がるオーストラリア。その醍醐味を思う存分味わうには、クルマで旅に出るのが一番だろう。シドニー発のロード・トリップの魅力について探った。(ジャーナリスト・守屋太郎)

オーストラリアの自動車旅行の魅力は?

「シドニーからわずか数時間で行ける範囲内に、すばらしいロード・トリップのデスティネーションがたくさんあります。クルマを持っていない人でも、レンタカーやカー・シェアリングを利用して、気軽に自動車旅行を満喫できますよ」

 NSW州と首都特別地域でロード・サービスを提供する「NRMA」(本社シドニー)の広報部長、ピーター・コウリーさんはこう話す。同社は、会員向けに、走行中のクルマの応急処置や修理の他、自動車雑誌の発行、自動車旅行の案内などを行っている。

 人口が密集したメトロポリスが続く日本やアメリカ北東部などと違い、オーストラリアの人口はそれぞれ1,000キロ弱離れたシドニー、メルボルン、ブリスベンに極端に偏っている。その間には、人工の建造物が1つもない国立公園、地平線まで続く広大な農場、誰もいない白砂の海岸線などが続いている。街から1時間も走れば、入植前から手付かずの自然環境が広がっているのだ。

ニューキャッスルの北約120キロの内陸に位置するグロースター。緑あふれる森や農場と水量の多い川の景色が楽しめる(Photo: Destination NSW)
ニューキャッスルの北約120キロの内陸に位置するグロースター。緑あふれる森や農場と水量の多い川の景色が楽しめる(Photo: Destination NSW)

 雄大な大自然に加え、NSW州南東部には開拓時代の歴史的建築物が立ち並ぶ古い町や村も点在していて、オーストラリアの原点とも言えるイギリス植民地時代の素朴な雰囲気が味わえる。近年は地方でもレストランやカフェの質が向上していて、シドニーと変わらないおいしい食事にありつける。

 現代では、インターネットで検索すれば事前の情報収集には困らない。だが、いったん田舎に足を踏み入れればローカル情報を仕入れたい。地元の人に直接聞けば、きっとウェブでは知ることのできない穴場やおいしい食材に辿り着けるだろう。そうした情報を元に、立ち寄り先を臨機応変に変更できるのも、ツアーでは味わえないロード・トリップの醍醐味と言える。

野生動物の飛び出しに気を付けて!

シドニーの西約1,100キロ、南オーストラリア州との州境に近いブロークン・ヒル(Broken Hill)。赤土の荒野がどこまでも続いている(Photo: Destination NSW)

シドニーの西約1,100キロ、南オーストラリア州との州境に近いブロークン・ヒル(Broken Hill)。赤土の荒野がどこまでも続いている(Photo: Destination NSW)

 オーストラリアは日本と同じく、世界では少数派の右ハンドル・左側通行。日本人なら「気付いたら反対車線を走っていた」という、背筋が凍るようなことにはならない。ただ、この国特有の注意点はある。

 コウリーさんは「地方をクルマで走る場合は、飛び出してくる野生動物に、十分に目を光らせて! 特に夜間に走行する時は、細心の注意が必要です」と警鐘を鳴らす。都会を離れれば、カンガルーやワラビー、ウォンバットといった動物はその辺にいくらでもいる。カンガルーの中には最大で身長180センチ、体重90キロ程度まで成長する大型種もいる。衝突したら被害は甚大だ。

 「2019年には、カンガルーとの衝突事故で約7,000人のドライバーが保険料の支払いを申請しました。1台当たり約4,000ドルの修理費が掛かり、15%の車両が全損として処理されています」(損害保険会社「ハドル・インシュランス」)。野生動物は特に夜は活動が活発なので、衝突すれば車体が損傷するだけでなく、人間にとっても危険きわまりない。夜間の運転は避け、明るいうちに目的地に到着できる旅程を立てたい。

 道端に野生動物がいたら、速やかに時速20キロ以下に減速し、ブレーキを踏めばいつでも停車できるようにすること。もし動物と衝突した場合、まずはクルマを路肩に止めて自らの安全を確認。後続車の事故を避けるため。速やかに動物の身体を道の脇に移動させ、警察(000)または動物保護団体(下記)に電話して治療を受けさせる。こうした対応は、動物愛護意識の高いオーストラリアでは常識。万が一、親のカンガルーが息を引き取っていたとしても、お腹の袋の中の赤ちゃんが無傷で助かる場合がある。

野生動物と衝突した際の連絡先
■WIRES (NSW Wildlife Information, Rescue and Education Service)
Tel: 1300-094-737

安心・安全運転の心構えは?

 「慣れない道を運転するのは疲れるもの。定期的に休憩を取り、可能なら同乗者に運転を交代してもらってください。オーストラリアの天候は急変します。出掛ける前に『ライブトラフィック・ドット・コム』(下記)をチェックして、行き先の道路の状態を必ず確認しておきましょう」(コウリーさん)

 オーストラリアでの運転初心者にはなじみが薄い道路形態としては、信号のないロータリー状の交差点「ラウンドアバウト」がある。基本的に、ラウンドアバウトでは内部を時計回りに走るクルマに優先権がある。外部から進入する場合、右ウィンカーを出し、自分の右手からラウンドアバウト内を走るクルマがあれば一旦停止し、やり過ごしてから入らなければならない。逆に自分がラウンドアバウト内から左折して外部に出る場合は、左ウィンカーを出し、こちらに優先権がある。

 スピードや車間距離の感覚も日本と違う。ハイウェイや田舎の街道は道幅が広く、日本の感覚だとついアクセルを踏み込みがちだ。田舎の町外れでは、法定速度はおおむね時速80~100キロだが、町の中心部に入ると時速50~60キロに急に制限される。減速しないまま調子に乗って飛ばしていると、高額な罰金を食らいかねない。

 車間距離も感覚的には日本の2~3倍は取るのが普通だろう。渋滞しているハイウェイへの合流時も、1台ずつ譲り合うのがマナーだ。法定速度を厳守するだけではなく、オーストラリアのリズムに合わせ、焦らず楽しい旅を心掛けたい。

出掛ける前に道路の状態が確認できるウェブサイト
■Web: www.livetraffic.com

日帰りのお勧めコースは?

(左上)NSW州南部スノーウィー・マウンテンズのポプラ並木 (右上)ワインの名産地ハンター・バレーの農場で馬と戯れる (左下)趣のあるテージに泊まるのもお薦めだ (右下)バイク乗りならツーリングの旅も楽しめる(Photos: Destination NSW)

(左上)NSW州南部スノーウィー・マウンテンズのポプラ並木 (右上)ワインの名産地ハンター・バレーの農場で馬と戯れる (左下)趣のあるテージに泊まるのもお薦めだ (右下)バイク乗りならツーリングの旅も楽しめる(Photos: Destination NSW)

 「初めてロード・トリップに行くなら、まずは気軽な日帰り旅行。シドニーから西へ約2時間のブルー・マウンテンズ(Blue Mountains)は、観光名所の奇岩『スリー・シスターズ』が有名ですが、山道を散策してオーストラリアの野生動物に遭遇したり、中心の町・ルーラ(Leura)のしゃれたカフェで時間を過ごしたり、楽しみは盛りだくさんです」とコウリーさん。

 同じくシドニーから2時間程度で行けるワインの名産地ハンター・バレー(Hunter Valley)も、日帰りドライブ旅行のお勧めデスティネーションだ。「ワイナリーに併設されたレストランでランチを楽しみ、セラー・ドア(直売所)でお気に入りのワインを買って帰りましょう」(同)。

 「観光バスが並ぶ大手のワイナリーはツアーの定番です。しかし、自分でクルマを運転して行くなら、ツアーでは行けない家族経営の小規模なブティック・ワイナリーに足を伸ばしてみては。例えば、ハンター・バレーの2カ所にセラー・ドアがある『ピーターソンズ』(Petersons=試飲は要予約)。ジューシーかつクリーンな味わいのシャルドネは、近隣のポート・スティーブンス(Port Stephens)特産の生ガキに合う。ハンター・バレーで買った白ワインをクーラー・ボックスでキンキンに冷やし、養殖場の直売所で割りたてのミルキーな生ガキといっしょに喉に流し込む瞬間は、格別ですよ」(オーストラリア運転歴30年の男性会社員)。

 なお、NSW州では普通免許の場合、アルコール血中濃度は100ミリリットル当たり0.05グラムまで容認されている。目安としては「2時間当たりビール1杯、ワイン1グラス程度ならOK」とされる。だが、アルコールの分解能力には個人差があるため、飲酒検問でセーフかアウトかの基準を一概に線引きするのは難しい。日帰りの場合、試飲は同乗者に任せ、飲む楽しみは家に帰ってからに取っておこう。

■Petersons
552 Mount View Rd., Mount View NSW
Tel: (02)4990-1704
2347 Broke Rd., Pokolbin NSW
Tel: (02)4998-7379
Web: www.petersonswines.com.au

週末やホリデーのお勧めコースは?

(左上)NSW州北東部の小さな海岸町、フォースター(Forster)の北に広がるナイン・マイル・ビーチ(Nine Mile Beach) (右)NSW州北東部クレセント・ヘッドのビーチでキャンプ。信頼できる4輪駆動車があれば砂浜も自在に走破できるだろう (左下)大自然の中でのキャンプ生活はオーストラリアのロードトリップの真骨頂(Photos: Destination NSW)

(左上)NSW州北東部の小さな海岸町、フォースター(Forster)の北に広がるナイン・マイル・ビーチ(Nine Mile Beach) (右)NSW州北東部クレセント・ヘッドのビーチでキャンプ。信頼できる4輪駆動車があれば砂浜も自在に走破できるだろう (左下)大自然の中でのキャンプ生活はオーストラリアのロードトリップの真骨頂(Photos: Destination NSW)

 週末に2泊3日でドライブ旅行を楽しむなら、更に遠出してみたい。コウリーさんは「北に向かうなら、街のすぐそばに白砂のビーチが広がるニューキャッスル、湾内の景色が美しい別荘地のポート・スティーブンスを経由して、小ぢんまりとしたリゾート・タウンのポート・マッコーリー(シドニーから北へ387キロ)まで足を伸ばしてみては」と語る。

 南に向かうなら、シドニーから約200キロのジャービス・ベイまでのルートがお勧めだという。ロイヤル国立公園を南下し、「シー・クリフ・ブリッジ」(Sea Cliff Bridge)を通って海岸沿いの絶景を楽しみ、南部の中心都市ウロンゴン(Wollongong)を抜けて、壮大なブロー・ホール(潮吹き穴)で有名な観光名所カイアマ(Kiama)、ファミリー向けのキャラバン・パーク(オート・キャンプ場)があるビーチ・タウン、ジェリンゴン(Gerringong)などに立ち寄り、「世界一白いビーチ」と言われるジャービス・ベイの大自然を堪能したい。

 ジャービス・ベイの中心地、ハスキソン(Huskisson)にはロッジや貸別荘などの宿泊施設が集中している。湾の南端にあるブーダリー国立公園(Booderee National Park)内には、原始的なアウトドア生活ができるキャンプ場が2カ所ある。

 「国立公園内で2週間、ソロ・キャンプをしたことがあります。週末はにぎわいますが、平日はほぼ1人。半径数キロ以内に誰もいません。ソーセージとパンを焼いて朝ご飯を作ると、気を抜くと頭上から急降下してくるクッカバラ(ワライカワセミ)に強奪されます。夜は焚き火で肉を焼いて酒を飲み、食料をテントの中に片付けるのを忘れて寝てしまうと、カンガルーやウォンバットに食い荒らされます。いかに野生動物の攻撃から身を守るかの戦いです(笑)。でも、ドリーム・タイム(先住民アボリジニの天地創造の神話)の世界を体験するには、至極のシチュエーションです。月明かりで本が読めるし、新月の夜は銀河系の渦の断面がくっきり見えるほど空気が透き通っています。遠くで波が崩れる音と、野生動物が森の中でガサガサ動く音しか聞こえません」(前述の男性会社員)

■Camping at Booderee National Park
Web: www.parksaustralia.gov.au/booderee/camping

 最後に、コウリーさんにホリデーのロード・トリップのお勧めコースを紹介してもらった。「1週間くらいの日程なら、ブッシュの魅力が堪能できる内陸コースがお勧めです。まずは、ブルー・マウンテンズ経由で西に向かい、バサースト(Bathurst)オレンジ(Orange)ダボ(Dubbo)といったオーストラリアらしい田舎町で宿泊しながら、野生動物に身近に触れることができる「タロンガ・ウェスタン・プレーンズ・ズー」(Taronga Western Plains Zoo)まで足を伸ばしてみてはどうでしょう」

 タロンガ・ウェスタン・プレーンズ・ズーはシドニーの西方390キロに位置する、19世紀初頭に開拓されたNSW州中西部ダボにある。貴重な絶滅危惧種を含む約350種、約4,000頭の動物が自然に近い環境で飼育されている広大な動物園だ。ガイド付きのトラックに乗ってキリンやエランドが群れるサファリ・パークを駆け抜けたり、カバに餌をあげたり、ミーアキャットと戯れたりできる。子どもと一緒に大人も楽しめそうだ。

 「10日間から2週間くらいの時間的余裕があれば、南方のビーチとキャンベラを回ってシドニーに帰ってくる周遊コースはいかがでしょう。1日目は開拓時代の歴史的な町並みが残るベリー(Berry)のベッド・アンド・ブレックファスト、2日目はチーズで有名な乳業の町、ベガ(Bega)で泊まり、白砂のビーチが美しいマリンビュラ(Merimbura=シドニーの南方450キロ)のキャラバン・パークでゆっくり滞在してみては」。キャラバン・パークには、キャンプ用品がなくても大自然の中で暮らせるファミリー向けのコテージがあり、貸別荘のように利用できる。

 帰路は、幾何学的な都市計画によって建設された首都キャンベラ(Canberra)に立ち寄り、連邦議会議事堂や、日本のゼロ戦が展示されているオーストラリア戦争記念館(Australian War Memorial)を見学して、オーストラリアの政治や歴史の知識も深めたい。キャンベラとシドニーの距離は約300キロ。途中、ゴールバン(Goulburn)にある高さ15メートルの巨大な羊のコンクリート像「ビッグ・メリノ」(The Big Merino)で記念撮影して長旅を締めくくりたい。

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