第10回 Coomera, Gold Coast / Jasper クーメラの碧玉
碧玉(Jasper)は、不純物を含んだ微細の石英が集まってできた不透明な鉱物。含まれる不純物が酸化鉄なら赤や緑色、水酸化鉄なら黄褐色になる。それ以外にも青、桃、紫、黄色などさまざまな色が産出される。モース硬度は7と硬く、古の世には世界中で装飾品として用いられた。日本でも弥生時代には魔除けの効力があると信じられ、勾玉(まがたま=古代古墳時代の装飾具の1つ)などに加工され重宝されてきた。
碧玉の成分は石英なので、玉髄や瑪瑙と同じ。透明なら石英、半透明なら玉髄、縞模様なら瑪瑙、そして不透明な物が碧玉となる。碧玉は色や産出地によって名前が変わり、赤は赤碧玉、緑は緑碧玉、赤と緑が混ざれば3月の誕生石ブラッドストーン、桃色はロードナイト、西オーストラリア州で採れる紫と黄色の物はムーカイトなどと呼ばれる。
ゴールドコーストの人気遊園地ドリームワールドがあるクーメラ。アボリジニの言葉で血、血管を意味する地名は、クーメラ川がゴールドコースト北部地域を潤す”血管”の役目をしていたことから名付けられた。
そのクーメラ川に注ぐ支流は碧玉の産地として知られている。高速道路の西側アッパー・クーメラには、以前入場料を払えば碧玉が採掘できる採石場があった。ゴールドコースト北部で見られる碧玉は赤、青、紫、桃、そして黄褐色と色とりどりだ。
今回のポイントは、地元宝石細工クラブの会員仲間に教えてもらったアッパー・クーメラの川にある某所。ポイントの川辺に着いてみてびっくりしたのだが、何とその川辺自体が碧玉でできているではないか。色も大きさもさまざまでどれを持ち帰るか迷うくらいだ。しかしなかなか、これぞという代物には出合えない。諦めずに探し続けること30分。何気なく動かした石の下から茶色の石が顔を出した。引っこ抜いてみたら、今日一番の大きさ。小玉のスイカほどある碧玉だった。
その”スイカ”をこの日の1番の獲物として持ち帰ったが、中の模様が気になるので、早速、スライスに。すると茶色をベースに青色のストライプが現れた。数枚スライスしてから、その内の1枚を磨いてみることにした。さすがは硬度7だけあってとても硬いが、時間を掛けてピカピカに磨きあげた。碧玉の模様は大自然が作り出した芸術作品。現代は電気の力で比較的容易に切り磨けるが、弥生時代の人がこの固い石を勾玉にして、更に穴まで開けていたことには驚かされる。
ずっと見ていても飽きない碧玉を見ながら思った。大昔の人たちは、夜な夜な焚き火の周りでおしゃべりでもしながら磨いていたのかな。ふと、弥生人の心に少しだけ触れられたように錯覚した。これぞ時空を越えた遊び。だから石探しはやめられない。
このコラムの著者
文・写真 田口富雄
在豪24年。忙しい中に暇を見つけては愛用のGoProを片手に豪州各地を掘り歩く、石、旅をこよなく愛するトレジャー・ハンター。そのアクティブな活動の様子は https://www.treasurehuntingaustralia.com/に詳しく。宝探し、宝石加工に興味があれば必見。前・ゴールドコースト宝石細工クラブ理事長