プロフィル
德田修一(とくだしゅういち)1990年外務省に入省。モスクワ3回、ロンドン1回と「北部50度以北」の勤務経歴を経て2022年9月より、在シドニー日本国総領事に。ソ連時代を含め、ロシア情勢に精通。22年前半はウクライナ・ロシア情勢への対応に深く携わった。高知県出身。東京大学卒
経歴詳細:www.sydney.au.emb-japan.go.jp/itpr_ja/about_consul_generals_profile.html
写真・インタビュー:馬場一哉(日豪プレス)
──高知県東部の南端に位置する室戸市のご出身と伺っています。
德田:人口1万数千人の小さな町で、何より台風がよく通ることで有名です(笑)。ですが、おいしい日本酒においしい魚、すばらしい土地の恵みもあり、そこで生まれたことを誇りに思っています。
──全国的にも過疎化の進んでいる地域ではありますが、その地で育たれたご経験も徳田総領事のキャリアに大きく影響しているとご推察しますがいかがでしょう。
德田:ええ、それは多分にあると思います。とてもこじんまりした小さな町で、外を歩いてもみんな知り合いで声を掛け合うような、そんな土地柄です。大好きな町でしたが、高校生ぐらいのころから私自身の心のベクトルは自然と外に向き始めました。そして思い切って大学から東京へ出ることにしたのですが、まさに自分が井の中の蛙だったなと思い知らされる素晴らしい体験でした。大変優秀で魅力的な方々との出会いを通じて、人格形成に大いに役立ちました。小さな町で生きてきたからこそ、その出会いの価値をより高く受け止められた面が少なからずあると思います。東京で暮らしているうちに更にベクトルは外へと向くようになり、日本から外へ出ていくような仕事をしたいと考えるようになりました。つまり海外ですね。そのような思いから外務省の仕事を選択し、現在に至っています。
──外に向き始めていたベクトルが、多くの人々との出会いを通じて具体的な夢へとつながったわけですね。
德田:ええ、そのベクトルにドライブが掛かったような感じです。多くの恵まれた出会いは、生まれた町に残っていたらもしかしたら得られなかった機会かもしれません。学ぶ機会、自分を高める機会を得るためには外に出てたくさんの人と出会い、時には議論をすることが必要です。その経験を若いうちにできたことは、私の人生にとって非常に意味があったと思っています。
──德田総領事は、特にロシア情勢に関して深い知見を持たれておられますが、ロシアとの関わりのきっかけは何だったのでしょう。
德田:外務省への入省に際し、ロシア方面を第一希望にしたことがきっかけですね。1989年当時は、ロシアがまだソビエト連邦だった時代で、物事が大きく動くとても面白いタイミングでした。それに刺激を受け、海外に出ることを想像した時に自然にロシアに目が向きました。以来、30年余、在外勤務の経験はこれまで4回。 そのうちモスクワが3回、ロンドン1回。いずれも北半球の更に上半分、それもあり私の中では「北緯50度圏からの脱出」というのが1つの希望でした。初の南半球での着任に、非常に意気込みを感じています。
「ロシアとの関係は一から見直さざるを得ない」
──着任直前まで、東京でロシア・ウクライナ情勢への対応に追われていたと聞いています。
德田:ええ、東京ではロシア課長などを歴任し、シドニーに来る直前までロシア及び旧ソ連諸国を担当、もっぱらウクライナ問題に取り組んでおりました。重要なミッションは厳しい対ロシア制裁の導入と寛容な対ウクライナ支援でした。
──ロシアによるウクライナへの侵略に対し、日本政府の対応はどうすべきとお考えですか。
德田:今回の侵略は力による一方的な現状変更ということで、明らかな国際法違反であって、到底認めることはできません。私たちがここで的確に対応しないと、類似の事態が起こりかねません。そのためロシアに対しては極めて厳しく対応する必要があると考えています。私が前職で対応していたのは可能な限り厳しい対ロシア制裁をG7、特にアメリカ、EUと緊密に連携しながら導入することでした。また、ウクライナ支援の分野では財政支援、医療協力などをしてまいりましたが、最も印象に残っているのはウクライナ避難民の日本への受け入れです。第一号のウクライナ難民受け入れの際には、林外務大臣自ら避難民の方、1人ひとりにお声を掛け、避難民の方が涙ながらに感謝されている姿を目の辺りにしましたが、非常に心動かされました。
──ロシアとの関係において、注視すべき状況はあったとはいえ、やはり友好関係を目指していた政府にとっては晴天の霹靂だったのでしょうか。
德田:ロシアがウクライナの国境近くで兵力を増強していることはもちろん公になっていましたが、彼らがどういう行動を取るかはプーチン大統領次第。それが衆目の一致するところでした。ロシアは日本にとって隣国ですし、地域の安全保障を考えても関係は重要です。北方領土問題を解決し、平和条約を締結することが積年の日本の外交課題ですし、ロシアとの関係を安定的なものにすることは日本の国益にもなります。安定的な関係の構築を見据えてこれまでやってきたわけですが、今の状況を考えると、ロシアとの関係は一から見直さざるを得ないでしょう。ロシアが日本に対して何らかの措置を取るならば日本も対応しなければならないと思います。
日豪関係の上昇気流
──日豪関係は現在、これまで以上に良い関係作りの段階に入っていると感じますが、このタイミングでの着任に関して意気込みをお聞かせください。
德田:実は着任前に、過去5代までさかのぼり、シドニー総領事を務めた皆さまにお会いしました。その中で皆さまがおっしゃっていたのは、日本とオーストラリアの関係はまさに上昇気流にあるということです。ちょうど岸田総理もお越しになられておりますが(編注:岸田総理の来豪日にインタビューを行った)、日豪を取り巻く安全保障環境は抜本的に変わっていくタイミングにあり、この分野の両国関係も著しく進んでいます。また、オーストラリアは日本にとって重要な資源・エネルギーの供給国です。LNG、鉄鉱石、レアメタルなどの安定的な供給元ということで、引き続き良好な関係を続けていければと思います。
私たちはオーストラリアを同じ方向を向いて外交施策を進めていく同志国と捉えています。オーストラリアと共に、インド太平洋エリアの同志国を増やしていくことが重要だと思っています。日本もようやく水際措置を緩和しましたし、政府関係者、経済関係者、一般旅行客も含めて、コロナで細まっていた両国間の交流の幅を太めていく。私の業務がその一助となれれば幸いです
シドニーはオーストラリア最大の商業都市です。総領事館の重要な役割の1つに日本企業の活動支援もございますので、特に経済・貿易分野に関して日系企業の皆さまと連携しながら後押ししていきたいと思います。また、他都市の在外公館との意見交換など連携も考えていきたいと思います。
──着任から1カ月、まだインプット中の案件も少なからずあると思いますが、現時点で在任中の取り組みとしてお考えのことがあればお聞かせください。
德田:取り組まなければならないことは少なくとも3つあると思っています。1つ目は在留邦人の皆様が安全に快適に暮らせるよう、領事サービスを始め、総領事として適切に対応すること。2つ目は日系企業の支援をしていくこと。そして3つ目は、当地における日本のプレゼンスを、さまざまな方策や手段を駆使して上げていくことです。これらが大きく私のミッションと考えております。特に3つ目の日本のプレゼンスを高めることに関して言えば、「明るい未来のある元気な日本」をしっかりオーストラリアの皆さまに示していきたいですし、声が掛かればどこへでも行こうと考えています。私自身がいわば日本の広告塔となり元気な日本をアピールしていきたいですね。体も精神も頑丈にできていて打たれ強さには自信があるので、何があってもへこたれずに活動していきたいと思います。
「呼ばれればどこへでも足を運びます」
──「打たれ強さに自信」とのことですが、学生時代など何かスポーツに取り組まれていらっしゃったのですか。
德田:中学、高校時代は剣道部に所属していました。文字通り「打たれ」ました。当時は今とは違い、上下関係が非常に厳しく、まさに鉄拳制裁というような時代でした。加えて中高一貫の学校だったので中学1年生で、一番上の先輩は高校3年生、子どもと大人くらいの違いです。かなり鍛えられましたね。大学時代はスキーなどに取り組みました。
──日本のスキー場は、オーストラリア人にとってたいへん人気ですし、日豪をつなぐキーワードとして「スキー」も挙げられます。
德田:日本は交通インフラが整っており、スキー場へのアクセスなども抜群だと思います。北海道、長野、新潟あたりが特に人気だと思いますが、東北、群馬、栃木など他にも魅力的なスキー場があるエリアはたくさんあります。オーストラリアの方には、更にいろいろなスキー場に足を運んで頂きたいですね。
──町歩きも趣味だと伺っております。
德田:そうなんです。実は先週末、ずっと町歩きをしていたらすっかり日焼けしてしまい顔の皮がひと通り剥けてしまいました。写真に写らないと良いですが(笑)。また、せっかくのシドニーということで、安いゴルフ道具をそろえて持ってきました。これから時間を見つけて妻とゴルフの練習をしようかなと思っています。
──これから当地の日本人の方々と接点を持つ機会が多くなるかと存じますが、最後にメッセージを頂けましたら幸いです。
德田:着任してまだ日は浅いですが、これからできるだけ多くの方々と出会い、皆さまと一緒に元気な日本をオーストラリアでアピールしていきたいと思っています。そのために私が必要であれば、呼んで頂ければどこへでも足を運びます。皆さまと一緒に、日本のために、また日本とオーストラリアの友好関係構築のために力を尽くしていく所存です。時にはこちらから積極的にアプローチをすることもあるかもしれませんが、そのときはお話を聞いて頂けたら大変ありがたく思います。
──本日はありがとうございました。
(10月21日、在シドニー日本国総領事館で)