第9回:実際にやってみたら?
私はこれまでの経験で学んだことに、何かを決定したり、どこかを予約しないといない時は、推測で決めるのではなく、実際に自分でその場に行って体験してみなければいけないということがある。
シドニーの日系旅行会社で社長秘書をしていた時、厳しい教官のような副社長がいた。ある時、応接室に呼ばれ、「そこに座ってみなさい」と言われて驚いた。なんとソファーとテーブルの間が離れすぎていて、テーブルに置かれたお茶に手が届かないのである。
次に大会議室に行っていすに座ったところ、隣のいすが近すぎてノートを取るにも隣に座っている人に肘があたって書けない。「座る人の身になって考えて、何事も準備しなさい」というのが副社長からのメッセージであった。私は、「これだ」と思った。
また、その前に勤務していた通信会社の社長はレストランの予約を頼む際、決まって「ここで食べたことはありますか?」と聞いていた。
この社長はとてもグルメな人でシドニーの有名レストランをよく知っていて、私は見栄を張ることなく、正直に「行ったことがありません」と言うと、「それでは、今度みんなで食べに行きましょう。何がおいしいのか、どのような雰囲気のレストランかを知るのは、セクレタリーにとって大切なことですから」と教えてくれたのである。
その後数年間でシドニーの有名レストランのほとんどを訪れることができたのはグルメ社長のお陰で、おいしい勉強であった。
以来、イベントや会議を企画する時は、その会場となるホテルやレストラン、会議場に足を運んで自分で確認するようになった。
私は多くのすばらしい上司に恵まれ、たくさんのことを学んだ。今なお、こうして教訓として実践し続けている。
ミッチェル三枝子
高校時代に交換留学生として来豪。関西経済連合会、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社に勤務。1992年よりシドニーに移住。KDDIオーストラリア及びJTBオーストラリアで社長秘書として15年間従事。2010年からオーストラリア連邦政府金融庁(APRA)で役員秘書として勤務し、現在に至る