第18回 セントラルQLD宝石ヶ原のサファイア その2
Central Queensland Gemfields / Sapphire
幸先良く始まった3人の宝探し道中。アナキー(Anakie)の後は、進路を北に取り、サファイア(Sapphire)の町で観光がてら軽食を取ってから、更に北を目指す。
目的地のルビーベール(Rubyvale)には“サファイア王”の異名を持ち、生前には懇意にしてくれていたピーター・ブラウン氏の店がある。そこのサファイア・コレクションは、バラエティーに富み、宝石ヶ原でも他の追随を許さない貴重なコレクションを誇る。もはや「サファイアの博物館」と呼んでも過言ではない店は、一見の価値あり。
ブラウン氏の店でたっぷりとサファイアの美しさを堪能し、その上がったテンションのまま、ルビーべールの西にあるリワーズ(Rewards)という場所を目指す。直訳すると“ご褒美”となるその場所では、“ブラック・スター・オブ・クイーンズランド”や“オータム・グローリー”といった逸品が発見された。
目を皿にしながら、2時間ほどサファイアを探し歩くが、今日はどうやらご褒美にありつける日ではなかったようだ……。ふと、空を見上げると灰色だった雨雲が徐々に黒っぽくなってきている。「そろそろ、ひと雨来るな。ひとまずご褒美は次にお預けだ」とばかりにリワーズを後にした。
次に目指すは、アナキーから約40分西へ車を走らせた所にあるウィローズ(Willows)。今回、3人道中の宿を提供してくれるその道40年の達人マイクさんの住む町だ。
ウィローズにはキャンプ場が1つ、水曜日と土曜日だけ開くパブ1軒、消防署の他に、50軒ほどの民家があるだけで、こぢんまりとしている。電波塔の周りでだけ、かろうじて微弱の電波が拾える程度の場所なので、サファイア探しをしていなかったら他にすることが全くないような場所だけに、訪れることもなかっただろう。
ただ、宝石探しの世界では、昔からここで採れる良質の青いサファイア目当てで多くのトレジャー・ハンターが一攫千金を夢見て、この町にやって来た。彼らは、青以外の色のサファイアには目もくれず棄てていたらしい。そんなこともあってか、青色以外にも緑、黄、複数の色が混ざったパーティー・サファイアなどが多く見つかる場所としても有名だ。
何とか日没前にマイクさん宅に到着して、すぐにあいさつ。マイクさんは敷地内の大型のバスに住んでいて、母屋は誰も住んでいないので、3人道中はそこに寝泊まりする。天気が良かったらキャンプをして大自然を感じるのが石探しの醍醐味でもあるのだが、今回はあえて悪天候の時期に来ていることもあって、屋根、シャワー、トイレ、電気、これらを問題なく使わせてもらえるのは本当にありがたいことだ。
家は普段、人が住んでいないこともあり少し散らかっているが、軽く片付けて寝床を確保。庭で焚き火をしながらの夕飯の支度に掛かるが、日が落ちたと同時に空に稲妻が走った。これでもかと言うくらいの激しい音を立てながら空を縦横無尽に駆け巡る稲妻。遂に来たか。この地に住んで40年のマイクさんも「これはすごいことになるぞ」と興奮気味だ。
ほどなく降りだした雨は「こんなに激しい雨は生まれて初めて」と思うような大豪雨。更に周囲では頻繁に落雷の音が鳴り渡る。
夕食後、本日の成果物のサファイアをツマミに3人でビールを飲み終えた後、激しく降る雨音と轟く雷鳴を聞きながらゆっくりと目を閉じる。さぁ、明日は何に出合えるだろうか――。そんなことを考えながらいつしか深い眠りに落ちたのだった。
(この稿、まだまだ続く)
このコラムの著者
文・写真 田口富雄
在豪24年。忙しい中に暇を見つけては愛用のGoProを片手に豪州各地を掘り歩く、石、旅をこよなく愛するトレジャー・ハンター。そのアクティブな活動の様子は https://www.treasurehuntingaustralia.com/に詳しく。宝探し、宝石加工に興味があれば必見。前・ゴールドコースト宝石細工クラブ理事長