割れや欠け、ひびなどで破損した部分を金などの金属粉で修復する「金継ぎ」。古くから日本で受け継がれてきたこの特別な技法が、ファスト文化が浸透した現代、世界中から注目を集めていることをご存知だろうか。壊れたら廃棄するのではなく、より魅力的に直して使うというその発想、物を大切にする日本文化。知れば知るほど奥深い「金継ぎ」の魅力について、オーストラリアで金継ぎのワークショップを開催している「Kintsugi Australia」の諸岡淳さんに、話を伺った。世界が注目している「Kintsugi」、私たち日本人自身がその魅力を再発見する機会としてぜひ諸岡さんの話に耳を傾けて欲しい。
(インタビュー:日豪プレス編集部)
──諸岡さんは、金継ぎの技術を使った修理、講座の開講など「金継ぎ」の伝道師の役割をオーストラリア全土を対象に担われておりますが、現在に至るまでの経緯について伺わせて下さい。
2008〜17年までシドニー北郊のマンリーで日本食レストランを営んでいたのですが、大変忙しい店で皿が毎日のように割れて頭を悩ませていました。そんな時テレビ番組を通じて「金継ぎ」について知ったのです。自分で修理できるならと、すぐにでも金継ぎを始めてみたかったのですが、当時オーストラリアで金継ぎを教えている人はいませんでした。そこでホリデーを利用して金継ぎの基本を日本に習いに行くことにしたんです。そしてそれからほぼ毎年、日本に金継ぎの勉強に出掛け、最終的には17年に店を売却し日本に1年間金継ぎ修行に出ました。さまざまな技術を取得したかったので、5つの教室に通い毎日朝から晩まで金継ぎについて修行しました。
──諸岡さんをそこまで虜にした金継ぎの魅力とは何でしょう?
伝統的な金継ぎでは、600年前とほぼ同じ技術で陶磁器を修復できます。そのこと自体、タイムスリップしたようでロマンを感じます。一方で、エポキシ樹脂を使用したモダン金継ぎの材料は、ホームセンターなどでほぼでそろえることができるので、ご家庭でも簡単に行えます。
陶磁器にはそれぞれ、人の思い出があると僕は思うんです。旅行の記念、結婚式や人生の特別なイベントで購入、あるいは頂いた物、それらを壊してしまった時のショックは大きいでしょう。壊れた陶磁器を100%元通りにすることはできませんが、修復の過程を一歩ずつ楽しみながら、そしてその器との思い出や、その時の大切な思いと共に修復して行く時間はとても有意義です。丁寧に時間を掛けてその陶磁器の思い出と寄り添い、たとえ修復した器に傷が残っていても、多少いびつでもそれはその人にとって100%以上の宝物に変身します。それこそが金継ぎの哲学であり、魅力だと思います。
── 金継ぎは日本独自の美意識として海外からも注目を集めています。
金継ぎがこれほど世界中から注目されるのは、第一に日本や日本文化が世界中から好まれているからだと思います。私のワークショップに参加する人のほとんどが、日本に訪れた経験があったり、日本食が大好きというような方々です。金継ぎが注目されているのは、その美しい仕上がりに加え、傷や不自然な形でさえ、その物の個性であり美しさだという「侘び寂び」の影響を受けた、日本人の美意(哲学)があるからだと思います。「Beauty of imperfection 」です。
人は、生きて行く中で誰もが体や心に傷を負うことがあります。しかしその傷は自身が生きるために負った傷であり、決して悔やんだり隠したりする必要はありません。金継ぎの陶磁器はそのようなことのシンボルとして世界中の人びとの関心を集めているのではないでしょうか。
──現在注目を集めている金継ぎですが、当の日本人は実はその魅力を認識していないという意見も聞かれます。
ええ、ですからぜひ日本人にこそ学んで欲しいと思っているのです。私の教室では、現在モダン金継ぎと伝統的な金継ぎ、2種類の金継ぎを教えています。モダン金継ぎは、エポキシ樹脂を使用したもので手軽に行えます。材料もほとんどオーストラリアで購入でき、一度習えば簡単な修復はご自宅でできるようになります。個人的なイベント、デート、チーム・ビルディングとして人気があり、妻ひとみの金継ぎアクセサリー講座はヘンズ・パーティーにも人気です。
伝統的な金継ぎは、漆うるしを使いほぼ室町時代と同じ方法で器を修復します。伝統的な金継ぎ基本コースを修了すると金継ぎ道場に入門することができ、更に上級の技術を学ぶことができます。
世界から注目されている金継ぎを体験してみたい人や、じっくり伝統の技を身に付けたい人、大切な器を壊してしまった人など、ぜひワークショップに参加してみてください。
日本で修行をした教室には海外からの生徒もたくさん来ていて、何度かオーストラリアから訪れたカップルにもお会いしました。そんな経験から、オーストラリアでも金継ぎのすばらしい技術を伝えて日本とオーストラリアの架け橋になろうと決意しました。そしてその思いを日本人の方々とも共有したいと思っています。ぜひ門を叩いて頂けるとうれしいです。
諸岡淳
千葉県出身。1984年ワーキング・ホリデーで初来豪。87年に永住権を取得して再来豪し96年に「Bell Oceania」を設立。2008年シドニーで日本食レストラン「Jipang」を経営し、10年に金継ぎに出合う。17年に日本で金継ぎ修行。翌年「Kintsugi Australia」を設立。22年にオペラ・ハウスで金継ぎ講座を開催。現在、シドニーCBDスタジオでほぼ毎日、メルボルン及びブリスベンで数カ月に1回ずつワークショップを開催している。
Kintsugi Australia
●住所:Level 4, Suite 402,235 Clarence St., Sydney NSW
●Tel: 0418-175-507(諸岡直通)
●Email: kintsugi2000@gmail.com
●Web: www.kintsugi-australia.com.au