Central Queensland Gemfields / Sapphir
サファイア探索2日目。朝6時、昨夜の雨は止んだが、空はまだ灰色のまま。同行の2人を起こし朝食を手早く摂って、車で朝の“偵察”に出掛ける。道端の至る所に出現した水たまりが昨夜の雨の激しさを物語る。町から高速道路へとつながる唯一の道は冠水で通行止めに。立ち往生していた地元民と話してみると、ここまでの洪水は「今まで経験がない」とのこと。いったん、宿舎に引き上げてマイクさんを交えて作戦会議をすることにした。
昨夜は90ミリ(1時間で1平方メートルの降雨量)もの雨が降ったものの、幸い山上にあるウィローズ(Willows)は洪水の被害には見舞われず、道路の冠水も午後には引くはずだとマイクさん。「今晩もまた雨だ。料理がしにくくなるぞ」とスロークッカーを貸してくれただけでなく、野菜、肉を入れて調理までし始めた。「これで晩飯は大丈夫だ」って、あなたはどこまで親切なんだ!
その後は町の周りの山や森を散策してみたが、雨水を含み軟らかくなった地面は歩くのもひと苦労。2時間ほど山を歩き回るが、収穫らしい収穫はなかった。
宿舎に戻り昼食を摂っていると、マイクさんがやって来て、「ちょっと裏庭に来い」と。裏庭にはサファイア探しに必要な機械がずらりと並んでいた。
掘り起こした石をサイズによって分けるトラメル(Trammel)と呼ばれる機械、石の表面に付着した土を洗い流し、比重の重いサファイアなどの宝石と比重の軽いただの石を分けるパルセーター(Pulsator)もある。
その横にこんもりと積んであるのが、マイクさんが数日前に山から掘り起こしたという約2トンの土の山。昨日の雨で地面が軟らか過ぎて足場が悪く機械は使えないが、「手洗いなら、ここにある土でサファイアを探してもいいぞ」と、またまたマイクさんからのありがたいオファー。更には、6月にウィローズに石探しに来た時に掘ってトラメルで仕分けした後、パルセーターで洗っていなかった石も保管していてくれて、「お前の、このバケツの中のも洗ったらいいじゃないか」と、マイクさん。どこまでも親切!
同行の2人は、その道40年のプロのマイクさんから石の洗い方のイロハを伝授してもらうといううらやましい機会を得た後、早速、石洗いにチャレンジする。石を洗うのに必要なのは、ふるい(Seive)と水といたってシンプルだ。ふるいの網目の大きさは1センチ、5ミリ、2.5ミリ。粗い網が上に来るように重ね、その上に土を盛り、ドラム缶に張った水の中で上下左右に振る。
この行程で比重の重いサファイアや黒い鉄鉱石などがふるいの中央部分の底にたまる。それから、ふるいを1つずつひっくり返し、サファイアを探す。30分、45分、洗っても洗ってもなかなかサファイアは現れない。ふるいで土を洗う作業は前屈みて行うので腰にくる。休み休み交代しながら石を洗うが、徐々に疲れがたまり、皆の顔が疲れからだんだんと険しくなってくる。
ようやく、待ちわびた瞬間がやってきたのは、それから約1時間後だった。トモ君が洗った5ミリのふるいにひと目で他の石とは違うと判る黒く表面がツルっとした石がある。それを光に透かしてみると、深いグリーンとイエローの混じり合った、何とも形容し難く吸い込まれるような不思議な色のサファイアだった!
重さは5.2カラット!(1カラット=200ミリグラム)。疲労の色が一瞬で消えて満面の笑みになったトモ君は、マイクさんに獲物を見せに行って喜びを分かち合う。それを見守るマコト君の眼も「これは良い兆候だ」とばかりに、俄然、輝きが増す。こういう瞬間を体験したら、この2人も石探しにハマっちゃうかな!?
(この稿、まだまだ続く)
このコラムの著者
文・写真 田口富雄
在豪24年。忙しい中に暇を見つけては愛用のGoProを片手に豪州各地を掘り歩く、石、旅をこよなく愛するトレジャー・ハンター。そのアクティブな活動の様子は https://www.treasurehuntingaustralia.com/に詳しく。宝探し、宝石加工に興味があれば必見。前・ゴールドコースト宝石細工クラブ理事長