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日豪フットボール新時代「瞬間」第133回

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第133回 瞬間

ロア・ウィメンの試合会場には必ず彼女の姿が(本人提供)

 栗原京子、何度も取材現場で顔を合わす仲の彼女のカメラマンとしての主戦場はフットボール、中でも女子を熱心に追い続けている。そんな彼女の写真は、知人の贔屓目なしで何かが違う。選手との距離感が近く、その表情も自然体。他のカメラマンの写真とは同じ被写体でも違って見えることすらある。気になっていた。

 「それは、私が女だから」と、さらり。

 「やっぱり選手もお年頃だし、下手したら父親くらいの年齢の男性カメラマンにピースサインなんてしない。でも、私には飾らない姿を見せてくれる」

 今やフットボール撮影がライフワークだが、本格的な写真歴は長くはない。6年ほど前、好きだった米国人選手が豪州Wリーグ(当時)に移籍、足繁くメルボルンまで通い、いちファンとして応援する選手をスタンドから撮影していた。

 その後、もともと趣味だった写真を本格的に再開。身近な選手を撮り始めると、被写体となった選手たちに大いに喜ばれた。「もっと腕を上げたい」と思い始めた矢先、コロナ禍の直撃を受けて、生業のシェフの仕事を一時的に失った。それでも栗原は、突然の3カ月の休業期間をひたすら写真上達のために費やし、技術や知識では越えられない壁は機材の違いで生み出されるとの結論を得る。そう悟るやいなや、新車1台分ほどの大枚をはたき最高の機材をそろえ、プロとしての歩みを始めた。“禍”を転じて福と為した、彼女のカメラマンとしてのキャリアはここから大きく上向く。豪女子代表の撮影依頼も舞い込み、今では国内の試合には帯同する。大目標だった女子W杯で撮影する夢も実現目前と順調だが、自分を見失うことはない。

 「いつかは、Kyokoに写真を撮られたいと思われるカメラマンに」——。そんな思いを胸に、この週末もどこかで、女子フットボーラーのきらめきの瞬間をファインダーに納めているに違いない。

植松久隆(タカ植松)

植松久隆(タカ植松)

ライター、コラムニスト。タカの呟き「一瞬を切り取るカメラマン、一瞬のドラマを文字で表す書き手。そんな2人のコラボも面白いに違いない。今回は実現しなかったが、また機会を捉えたい。多くの興味深いショットが見られる栗原京子公式インスタグラム(ky0k0style_photo_)は必見」





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