少し前に「ピッキング」について取り上げたが、今回は「ピックアップ」と「ピック」について。
日本語で「ピックアップ」と言えば、気になる話題をピックアップする、つまりたくさんの中から気になる話題を選び出して取り上げる、といった意味に使われることが多い。また最近は、携帯を中心としたゲームなどで、利用者が毎日やって来るように「ピックアップガチャ」といった、くじ引きの現代版というようなガチャガチャ遊びの場面で使われることも増えた。
他にも、日本ではアメリカ英語の影響で自動車のピックアップ・トラック、豪州での「ユート」をピックアップと呼ぶこともあるようだ。ギターを弾く人にとっては、ピックアップと言えば弦の振動を拾って電気信号に変える部品のことを指す場合もある。
ところが在豪日本人の間でよく使われる「ピックアップ」と言えば、お迎えの意味の名詞であることが多い。「子どもの学校のピックアップは何時?」や、「する」をつけて「空港から日本人スタッフがピックアップする場合は150ドルになります」といった動詞化した言葉として使われている。
面白いのは、更にこれが短縮されて、「ピック」といった表現にもなること。「そろそろ子どものピックの時間だ」はお迎えの時間のことであり、「明日一緒に行こうよ。10時にピックするね」と言えば、車で迎えに行くね、という意味である。
そして、ピックアップするのもピックするのも、対象は人間だけに限らない。「3階で書類をピックアップしてから4階へ行ってね」「これ、今日持って帰らなくても、明日ピックしてくれればいいよ」というように、何かをある場所で受け取る場合にも使われているようだ。
「ピックアップする」そして「ピックする」は、「行ってみたい学校をいくつかピックアップする/ピックする」のように、もちろん日本で使われている意味に似た、選ぶ、選び出すという意味に使われることもある。
またワーキング・ホリデー(通称:ワーホリ)の若者の間では、ファーム(農場と言わずにファームと呼ぶことが多い)の仕事で「摘む」という意味で「マンゴーをピックする」「ハンドピックする(手で摘む)」などの使い方をすることが多い。更に名詞としては「ピック単価」などという言葉も使われている。
英語の「pick up」とも少々違い、床にあるものを拾い上げたり、電話に出るといった動作や、言葉や技術を自然に学ぶ、病気をもらってしまう、風やスピードが増すという意味にはあまり使われないようである。
プロフィル
ランス陽子
フォトグラファー/ライター、博士(美術)。現在、グリフィス大学の大学院でオーストラリアの日本人コミュニティーにおける日本語変種を研究中。ゴールドコーストでの調査を手始めに、今後はオーストラリア各地での調査を予定している。在豪日本人が使用している面白い言葉についての情報を募集中。情報やメッセージはFBコメント欄かFBメッセージまで。「オーストラリア弁を探せ!プロジェクト」(Web:www.facebook.com/JapaneseVariationInAUS)