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QLD東部デイボロ、石好きにとっての天国“ジェムボリー”/トミヲが掘る!宝石大陸オーストラリア 第22回

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Dayboro, Queensland / Gemboree

第59回ジェムボリーの開催地デイボロの町。近くには多くの見所もあり、ブリスベンから日帰りドライブ圏内だ

 毎年、イースター(復活祭)に開催される国内最大級の宝石と鉱物の祭り、その名もジャンボリーならぬ「ジェムボリー(Gemboree)」。豪州全土から宝石商が集まり、100を超える店舗が並び、宝石カットのデモンストレーションや石探しのフィールド・トリップなどがある、石好きには天国のような祭りだ。

会場のデイボロのショー・グラウンドには、宝石商の店がズラリ
豪州全土からのオパール、サファイアなどが並ぶ。すてきな石に出合えること間違いなし

 その目玉は、年に1度の宝石磨き大会。カボション・カット、ファセット・カット、オパール・カット、銀細工など30を越えるカテゴリーで国内外の猛者がその腕と技術を競う。2カ月に及ぶ厳格な審査の結果、入賞者と一部の参加者の作品だけがこの会場で展示されるという栄誉に浴する。

 毎年、開催地は異なり、59回目の今年はブリスベンから1時間ほど北上した山中の小さな町、デイボロ(Dayboro)。1860年代にできたこの町は“過ぎし日の町(The Town of Yesteryear)”と呼ばれ、その町並みや、町中のパブやギャラリー、カフェなどが訪れた人をノスタルジックな気分へと導く穏やかで静かな所だ。

 筆者のジェムボリー初体験はQLD州ロックハンプトン(Rockhampton)で開催された2019年。所属クラブの高齢の名誉会員が作成した大会用トロフィーを、主催者に届けるために日帰りで訪れた。その後、20年はコロナ禍で中止、NSW州とTAS州とまわって、4年ぶりにQLD州に戻ってきた。

 自宅から小1時間で行けるような場所での開催は、ひょっとすると最初で最後かもしれないと思うと、行かないという選択肢はなかった。石を磨く者として、長らく全国大会で自分の現在の技術レベルをしっかり把握しておきたいと感じてきたが、実際にエントリーしたことはまだない。

 この大会では各部門で使う石とサイズが決まっているので、たまたま出品可能な質の良い石の手持ちがなくて大会のエントリーができずにいたが、昨年末、ひょんなことから大会エントリーの道が開けた。

 友人がファセットの練習用にとピンクの人工ダイヤモンドを分けてくれた瞬間、「この石で大会に出品できるのではないか」と直感。さっそく大会エントリーの詳細を確認すると、エメラルド・カット部門に参加できる! しかも、伝統的カットでのエントリーは、自分の技術を把握するにも最適だ。エントリーの締め切りがわずか2カ月後に迫っていたので、まずはエントリーにこぎつけることを目標に準備を始めた。

 ダメ元で、急がず丁寧に楽しみながら人工ダイヤモンドを仕上げている内に、急にやる気に火が点き、もっと他の部門にもエントリーしたくなってくるのが石好きの悲しい性。他にエントリーできそうなのは、煙水晶のプリンセス・カット部門だが、手持ちの石の質がそこまで良くなかったので、年始に“掘り初め”がてらQLD州スタンソープ(Stanthorpe)の友人の敷地に煙水晶を探しに行った。そこで、最上とはいかないまでも良質の煙水晶に出合えたので、その石を磨き、何とか締め切りまでに2つのプリンセス・カットを仕上げられた。

 生まれて初めての全国大会、人工ダイヤモンドと合わせて2部門に3つをエントリーして、結果をジェムボリー当日の楽しみとした。

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 快晴の早朝6時、ジェムボリー2日目のデイボロを目指す。午前7時過ぎに会場に着くと、今回私が手伝うことになっている宝石商の友人が出迎えてくれた。今回は、大雨の予報の初日は高齢の友人にはちょっと厳しいだろうと見送り、2日目からの参加にした。

 さっそく、友人と周りの宝石商にあいさつがてら初日の様子を聞いてみると、やはり、日中は雨がひどく客足もまばら、夜に至っては激しい雨と、あり得ないほどの稲妻と散々だったらしい。

 友人とほっと胸を撫で下ろしてから出店準備に取り掛かる。ガゼボの下のテーブルに売り物の石を並べ、自分の磨いた石もちょっとだけ端にお邪魔させてもらった。開場1時間前の8時までに準備を終わらせ、一般客の入場前、他店の目当ての品をリーズナブルな値段で買う交渉をする、宝石商にとって一番熱いとされる1時間のひと時を楽しむ。

 午前9時、開場のアナウンスが響き、待ちに待ったジェムボリーが始まる。天候は昨日とは打って変わっての快晴だが、時折り強風が吹き、その度にテントの支柱を必死に抑える。そして、風と客足が弱まるタイミングを見計らい、石磨き大会会場へ。陳列棚がズラリと並び、多くの見学者でにぎわう中での審判の瞬間だ。

年に1度の石磨き大会の会場。国内外からの腕に自信の強者たちの作品をチェックできる

 恐る恐るエメラルド・カットが展示してある棚をのぞき見る。あった! 3位入賞! 「やったー!」。興奮で人目を構わず喜びの声がもれる。しかも92.27点と予想外の高得点。

 次は煙水晶のプリンセス・カット部門。既に1つ入賞しているので気楽に結果を確認すると、何とこちらも3位入賞! 初の全国大会で出品3点中2点が3位入賞。大満足だ。しかも、3位という成績は、今後も更に上を目指して挑戦する気にさせてくれる。

ピンクの人工ダイヤモンド、エメラルド・カット部門で3位入賞!

 自分の作品の結果を、現地で自分の目で確認するという緊張感。この歳になるとなかなか味わえない達成感と幸福感。感無量だ。急いで友人にも報告、握手とハグで喜びを分かち合った。

 その後も店を手伝いながら、少しずつお店を周ってイベントを満喫した。結局、強風のため3日の予定を2日で切り上げるも、その間にゴールドコーストとブリスベンの宝石細工クラブの見なれた顔もちらほらと見え、その度に大会の結果を共に喜んでもらえた。そんな楽しいジェムボリー初体験の2日感はあっという間に過ぎていった。

今年と来年のジェムボリーのパンフレット。石好きにはたまらない情報がふんだんに盛り込まれている

 来年は、片道2000キロ先のSA州アデレードの南にあるウィルンガ(Willunga)での開催、その後もTAS州、VIC州と気軽に行ける距離ではない。だからこそ、今回参加できて良かった。しかも自分で見つけた石を磨き、入賞を果たせたのは一生忘れられない思い出となる。

 石の世界はなんて魅力的なんだろうなぁ、これだから石探しと石磨きは止められない。

このコラムの著者

文・写真 田口富雄

在豪24年。忙しい中に暇を見つけては愛用のGoProを片手に豪州各地を掘り歩く、石、旅をこよなく愛するトレジャー・ハンター。そのアクティブな活動の様子は https://www.treasurehuntingaustralia.com/に詳しく。宝探し、宝石加工に興味があれば必見。前・ゴールドコースト宝石細工クラブ理事長

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